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夏川さん

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五月病アニマルズ

15/06/01 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:0件 夏川 閲覧数:1271

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「五月病ですな」

 医者の言葉に俺は目を丸くした。同時にいくつもの疑問が噴出してくる。
 そもそも五月病は医師が使う正式な病名なのか?
 いや、問題はそこじゃない。俺は医者に恐る恐る尋ねる。

「動物も五月病になるのでしょうか?」

 ここは動物園、俺は飼育員、そして目の前の彼は医者は医者でも獣医であった。

「食欲不振、やる気も感じられませんしこれは五月病に違いありませんよ」
「確かに食欲が落ちている動物もいますが、それはどちらかと言えば夏バテなのでは? そもそも動物園の動物にやる気なんてあるのでしょうか。いつもゴロゴロしていますけど」
「はぁ、あなたには見込みがあると思ったのですけどね。まぁまだ新人に毛が生えたようなものだし仕方ないか」

 医者はそう言ってやれやれとばかりに肩をすくめる。この言葉には普段温厚な俺もイラッとしてしまった。

「どういう事ですかそれは」
「私のように何年も動物たちを見ているとね、やる気のあるゴロゴロとやる気のないゴロゴロの見分けが付くようになるんです。やる気のあるゴロゴロとはつまり、動物園に来るお客さんを楽しませるゴロゴロですな。あまり活発に動き回るよりゴロゴロしていた方が小さいお子さんも恐がらずじっくり動物を見ることができるでしょう? 彼らもキチンと自分の仕事をしているわけです」
「な、なるほど……」

 ベテラン獣医の説得力はバツグンだ。俺も頷かざるを得なかった。しかし全ての疑問を払拭できた訳ではない。

「でもどちらのゴロゴロもお客さんには違いが分からないのでは?」
「そうなのです、それが五月病のたちの悪いところ。放っておいても最初はお客さんも気付きませんし特に問題がないように思える。しかしその間にも動物たちはストレスを感じ続けているのです。人間は仕事をサボったりゴロゴロしたりしてストレスを発散しますが動物はそれができない。なぜなら彼らにとってゴロゴロは仕事、仕事ばかりではストレスは貯まるばかり!」
「で、ではどうすれば……」
「刺激ですよ。動物たちにとびきり楽しい刺激を与えるのです。ひとつ、オススメの方法があるのですが……」

 医者はそう言ってニッと笑った。



 一ヶ月後、俺は動物たちの檻を周って彼らに見せていった。医者オススメの五月病対策用出し物、ヒップホップダンスを。
 動物たちは俺のダンスをやや迷惑そうにしていたが、医者の方は満足げだ。

「いやぁ素晴らしい! 動物たちも良い刺激を受けているようだ。直に五月病も治りましょう」
「そうですか、練習したかいがありました」
「毎週……ププ、できるだけお客さんの多い日に見せると良いですよ」

 医者が吹き出したように感じられたがきっと気のせいだろう。医者はザッと動物たちの様子を見た後、そのまま帰ってしまった。
 動物を救った俺は、誇らしげに職員室へと凱旋する。
 弁当を食べていた先輩が早速声をかけてきた。

「お前も医者にしてやられたか。あの医者、五月になるとやる気がなくなるらしくてな、刺激が欲しいとか言って新人職員にイタズラするんだよ……」


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