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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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いにしえの動物園

15/06/01 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1131

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僕のお爺さんは話しはじめた。なにぶん年寄のことなのでむやみと長くなる嫌いはあったけれど、僕のしらない昔のことがきけるので、いつも熱心に耳を傾けることにしていた。
「わしがまだ、おまえぐらいちっぽけだったころの動物園には、いまとちがっていろんな動物が見れたもんだ。キリンやライオン、虎や熊、ゴリラにオランウータン、それにカバやワニなんかもいたな。みんな柵や檻の中にいれられて、わしたち見物人たちがみてまわるんだ」
「へえ、楽しそうだね」
「子供のころのわしは、ずいぶんいたずらっ子でな、一回ゴリラの柵に石を投げつけたことがあった」
「ゴリラは怒っただろう」
「胸をたたいて威嚇してたな。いま思い出しても、おかしくって腹の皮がよじれそうだ」
「ほかには、どんな楽しいことがあったの」
「いっぱいあったな。動物園では、ショーがあって、芸をしこんだ猿たちが、逆立ちして歩いたり、わっかの中をジャンプしてくぐりぬけたり、ゾウが鼻に子供たちをのせてもちあげたり、また鼻ではさんだ筆でキャンバスに絵をかいたり、あのころはほんとに楽しかった」
お爺さんは、当時を懐かしむように、遠くを見るような顔つきになった。
「へえ、動物たちが、そんなことを。信じられない」
「ほかにも、夏場になるとフルーツのはいった氷をプレゼントされた白熊が、水にうかべてそれを、ぺろぺろなめていたのもおぼえている。パンダが、日がな一日笹ばかりむしゃむしゃやっているのを見て、あんなのどこがうまいんだろうと不思議に思ったこともある」
「みんなは、食べるものはどうしてたんだい」
「飼育係りがみんなの食べものを用意するんだ。それぞれ食べるものがちがっているから、大変だったと思うよ。コアラなんてのはユーカリしか食べないから、それが生えているオーストラリアから送ってもらってたんだ。大食漢のゾウには当然、凄い量の草がいるし、動物園の管理は、わしたちが思っている以上に大変だっただろうな」
「動物は、草食と肉食がいるからね。ぼくたちのように、なんでも食べるってわけにはいかないんだ」
「いまはずいぶん楽になっことだろう」
「あ、ママがやってきたよ」
 ママは、僕とお爺さんをみて、笑顔をうかべながら近づいてきた。
「これ、太郎。お爺さんのじゃまをしちゃいけないわよ」
「僕いま、昔の動物園の話をきいていたんだ。ママだって、しらないだろう」
「私も、子供のころ、お爺さんから教えてもらったわ」
「ママも最初は、おどろいたの」
「信じられないことばかり。でも、本当にそんな時代があったんですね、お爺さん」
「わしは、生き証人だ。太郎、おまえもそのうち父親になって、子供ができたら、いまわしからきいた話を、その子供に語ってやるんだよ」
「うん、そうするよ。そのためにはもっとくわしく、きいておかなくっちゃな」
「ああ。時間をかけて、じっくりきかせてやるよ。わしの寿命かまだつきないあいだに」
「お爺さん、なんてこというの。そんな縁起でもないこと」
「そんなこというけどおまえ、むかいの檻の、山田の婆さんだって、おとつい息をひきとって、外に運びだされていったんだ。あの婆さん、わしといくらも年は変わらなかった」
「お爺さんはだいじょうぶだよ。まだぴんぴんしてるじゃないか」
僕は、泣き出したくなるのをけん命に我慢しながら、おじいさんの腰にしがみついていった。
「すまん、すまん。太郎を悲しませてしまったようだな。そうだよ、わしはまだくたばらんさ。こうして家族がいっしょに暮らせる幸せを、わしだってまだまだ味わいたいからのう」
そんなかれらの様子を、檻の外からながめていたライオンやゴリラたちは、ちょっぴりしんみりした顔つきで、自分たちがつれている子供たちに言葉をなげかけた。
「かれら人間たちにも、我々とおなじ生命が宿っているんだよ。みんな仲間なんだ」
こまっちゃくれたゴリラの子供が、親をみあげて口をひらいた。
「だけど、その僕たちの仲間のはずの人間たちが、昔はずいぶんひどいことをして、危うく地球を破滅寸前にまで追い込んだんだろう」
「それはもう、すぎさった昔の話だ。我々が知能に目覚め、我々動物たちの文明を築きあげたときにかれらの時代は終わった。いまではもう数えるまでに数をへらし、こうして檻にいれて大切に保護しているんだ」
「ちょうど昔、彼らが僕たちの祖先たちに対してやったように」
「これ、また憎まれ口をたたく」
すると横からライオンがいった。
「まあまあ。そう目に角たててお子さんを叱らなくても。そろそろ、ショーがはじまる時刻ですよ」
するライオンの子供が目を輝かせて、
「わーい。きょうはどんな人間たちの面白い芸が見れるんだろう」
ゴリラの子供といっしょに、ショーが催される舞台の方へかけだしていった。


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このストーリーに関するコメント

15/06/30 光石七

拝読しました。
おじいさんの語り口にしんみりしてたら……オチにやられました。
皮肉たっぷりで苦笑いしましたが、いろいろ考えさせらますね。
面白かったです。

15/07/01 W・アーム・スープレックス

光石七さん、こんばんは。

しんみりさせて、突き落すというのが私の常套手段です。まんまとまた引っかかっていただいて、ありがとうございます。次はまたどんな手で………
最後にひとひねりしないとおさまらない私ですが、いつまでこの手がつかえるのか、先のことはあまり考えないようにしています。
コメントありがとうございました。

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