1. トップページ
  2. 月下の桜

かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

投稿済みの作品

2

月下の桜

15/05/28 コンテスト(テーマ):第八十四回 時空モノガタリ文学賞 【 江戸時代 】 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:1254

この作品を評価する

 武蔵の剣は月光を受けギラリと光る。
 対する権之助は手にした杖を突き力を入れぬ態で黙然と立っている。
 二人相対するのは二度目のこと。

 初めて権之助が武蔵に挑んだのは血気盛んな二十歳の頃。その時すでに有名をほしいままにしていた武蔵は竹刀で権之助を打ち据え、力の差を見せつけた。
 権之助は唇を噛みしめ、去っていく武蔵の背を睨んだ。しかしその視線さえも武蔵の気合いの前では児戯のごとくあった。
 それより権之助はあらゆる流派、あらゆる剣客に指南を仰いだ。『宮本武蔵に勝ちたい』と。それを聞いたあるものは笑い飛ばし、あるものは気概を称えた。けれど何びとも確かに武蔵に勝ちうる剣を修めてはいなかった。
 権之助は故郷、筑前の国に戻ると修験に道を求め宝満山に登った。千回峰を巡る苦行をこなし、千日の滝行に耐えた。けれど未だ求める道は見えて来なかった。
 権之助は宝満山の麓、竈門神社に身を寄せていた。
 ある晩、誓願をたてていると月の光の中に、自らが求めたものが輝いて見えた。それこそは竈門神社の御祭神、玉依姫の御託宣であった。
 権之助はその言葉通りに御神木を一枝切りとった。



 時は寛文六年、丙年。
 明石の浜に寄せる波は闇の中にあまりにも白々と儚い。

 武蔵の剣は二天流。右手に大太刀、左手に小太刀。
 権之助の手には四尺あまりの白木の杖のみ。
 武蔵が斜に構えた大立ちの切っ先はぴたりと権之助の目を捉え、小太刀は権之助の首に伸びんと、今にも切り込んでこぬばかり。
 しかし権之助は悠然と、ただ立っている。杖を突き出す気配も見せない。
 武蔵はじりじりと間合いをはかる。権之助は手に軽く握った白木の杖と語り合っているかのごとくあった。

「ええい!」

 気合一閃、武蔵の剣が権之助の額に打ち下ろされるかと見るや、権之助は手にした杖を順手に取り一歩踏み出し、武蔵の剣の峰を捉えた。
 そのまま杖を打ち下ろし、武蔵の剣を地に突き立てる。杖は流れるような動きで、その大太刀を滑り上り武蔵の小太刀を跳ねあげた。
 権之助は一歩引き杖を逆手に構え直すと、

 ひたり。

 杖の先は武蔵の目をしっかりと捉えた。武蔵は、これまでと覚悟を決めて目を閉じた。

 しかしいくら待っても杖が脳天に振り下ろされる気配がない。
 武蔵が目を開けると、権之助は静かな目をして、まるで煩悩を廃したかのごとく玲瓏と立っていた。

 これこそが神意。人を殺めず勝ちにこだわらず、ただ静かに杖に身を任せる。

 権之助は杖を引き体側にあてがい礼をすると静かに去っていった。
 桜の咲く道を月に照らされて歩む姿は夢まぼろしのごとく、これより人々は彼をして夢想権之助と呼んだ。

 杖道の祖、夢想権之助の誕生の時であった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/06/16 光石七

拝読しました。
権之助のことを知らなかったのですが、有名な剣客なのですね。
武蔵との勝負の描写、臨場感・緊迫感もさることながら静かに澄みきった空気感があり、権之助の極めた世界が伝わってきました。

ログイン