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三条杏樹さん

好きなものを好きなときに。

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かたおもい

15/05/27 コンテスト(テーマ):第五十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 三条杏樹 閲覧数:1118

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真っ白なキャンバス。
使い古して先のぼさついた筆。

こんなに絵を描くことに緊張するのは初めてだ。幼い頃は食べることも寝ることも忘れて没頭していたというのに。宿題も勉強もそっちのけで、算数のテストで0点をとったときはさすがに怒られた記憶がある。


大学卒業と同時に絵を描くことをやめた。
小学校の頃、コンクールで入賞したことがきっかけで火がついた創作活動。高校では美術部として描いた作品を応募したら、それが金賞を貰った。もてはやされ、褒め讃えられた。

驕ったのだ。
自分がこの世で一番絵が上手いとでも思ったのか。いや、実際そう思っていた。大学に入るまでは。

美術系の大学に進んだが、案の定、上には上がいる。実力者や天才たちに囲まれ、叩きのめされた。
ここで辞めてしまえば負け犬だと、がむしゃらに絵を描いた。しかし何の評価も得られなかった。

誰かが言った。「がむしゃらと必死は違う」と。
そのとおりだった。結局舞い上がった若造はそのまま現実へと叩きつけられ、筆を置いて普通のサラリーマンになった。

それが、今。
実に十五年ぶりにキャンバスに向かっている。たまたま部屋の掃除をしていたら出てきた道具たち。コンクールのためでも、人から賞賛を得るためでもなく、ただキャンパスがあるから描こうと思っただけ。

手が震える。昔のようには描けないはずだ。時間が空きすぎた。
早く、諦めてキャンバスを仕舞えばいいのだ。明日も早い。

それなのに、自然と筆が色を纏った。それを真っ白な世界に押し付ける。
下へ、上へ、横へ。
筆が踊る。

心臓が叫んだ。震える指がその咆哮に痺れているようだった。

こんなにも、俺は絵が好きだった。それが十五年経ってやっと分かるなんて。
そこには絵を見せるべき人もいない。誰にも見られることのない世界を描いていく。

それでも、やはり思ったようなものは出来上がらなかった。長いこと無視し続けていたせいで、完全にそっぽを向かれたようだ。

高揚していた。懺悔と感謝の想いが入り混じる。キャンバスを撫でた。
ここに描かれた世界が愛しい。俺だけが知っている世界だ。

涙を流していることは分かっているのに、笑っていることには気がつかなかった。


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