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レイチェル・ハジェンズさん

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性別 女性
将来の夢 冒険家
座右の銘 人生は上手くいくことばかりじゃない

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生死の時間

15/05/26 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:0件 レイチェル・ハジェンズ 閲覧数:997

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 僕は自転車をこいだ。
 坂道を下った。

 ふと、自分の財布の中身を心配する。
 駅前の質屋のチラシがポストに入っており、指輪が大安売りだと書いてあったのを思い出す。
 きっと僕の財布でも足りるだろう。そんなやりとりがさっきから続いている。

 左手の薬指に指輪をはめる利紗の姿が目の裏に浮かびたい願望。



 利紗は、俺と一緒にいたいと言って1ヵ月前に入籍を決意した。パパと結婚するとまで言っていた彼女の、純粋な心が僕を選んでくれた。
 収入もルックスも魅力も誰と比べようが大分劣る。でも、梨佐はそんな僕と結婚したいと言ってくれた。



 入籍した当日、利紗はケーキが食べたいと言った。でも、利紗は僕が貧乏なのを知っていてアピタで買える苺のショートケーキが良いと付け加えた。

 2割引きの1個のショートケーキを、僕達は半分半分で持った。帰り道の夕日はとても綺麗で、南国フルーツのマンゴーが食べたくなった。

「あ、形崩れてる……」

 キッチンで利紗がぼそりと呟く。帰り道に利紗がアニメソングを歌っていたのが妙に楽しくなって、僕達はノリノリで帰っていた。あの時か、と僕は思う。

 ウエディングケーキには程遠い、無残に形の崩れたショートケーキをふたつのフォークでつっつきあった。

 部屋を真っ暗にして、1本の蝋燭をたてる。それを利紗はロマンチックだと褒めてくれたが、心の何処かで「電気料金」のタネを思っていたはずだ。

「たっくんと一緒にいれて嬉しい」

 ぐちゃぐちゃのケーキしか食べさせてあげられないし、電気料金さえ払えない男でも利紗は受け入れてくれた。俺にすりよってきて離れない。



 「一生幸せにしてやるんだ」心の中で強く決めた瞬間だった。



 遠い未来、白髪だらけになってもふたりで一緒に空を見上げていたい。手と手が重なり合うと赤くなってしまうような、いつまでもときめきを忘れない心が暖まる関係でいたい。


 でも、そうもいかないらしい。


 神様は意地悪だ。


 今まで生きてきた中で良いことなんて何もなかった自分を、神様が可哀想に思ったか、一生分の幸せを100としたら利紗と会うことに100をつぎ込んでくれたのか。


 利紗と結婚できたのが自慢だったのに。


 そんな彼女があと1ヵ月でいなくなる。


 ――ふわりと視界が別世界になる。





 僕はいつから利紗とこんな事をしているんだろう。


「ケーキ! ケーキ食べたい」


「形崩れてる……」


「ケーキ、美味しいねー!」


「たっくんと一緒にいれて幸せ〜」


「たっくん、私……乳がんらしいんだぁ」


「治療費とかは、両親に払ってもらうから」


「私、死んじゃうかもしれない」


「私のこと、死ぬまで愛しててよ?」


 利紗の子供っぽい表情や、大人の弱音が背筋を何度も何度も何度も駆け上がる。だが、僕は何も出来ない。


 死んでようやく分かった、生きるって素晴らしい……! たとえどんな人生でも。


 でも、生きたつもりの僕はそれを上辺だけしか分かっていない。


 僕がポストでチラシを発見し、質屋に行き、彼女のことを思い、マンボーのごとく繊細なショック死をする。永遠ループ。時間制限なんかない。


 一回、この世に未練を残したものはその原因となる行動をし続けると言う。脳がそこで進展せず、何をしてもその先へ行けないのだと言う。僕は何をしているのだろう。


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