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蒼樹里緒さん

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性別 女性
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来る者拒まず

15/05/22 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:1106

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 石造りの大きな鳥居を、大勢の人間たちがくぐっていく。その手前の道をクルマとかいう機械がうるさく行き交い、神社の祭囃子も相まって、いろんな音が夕暮れの空気にまざり合っていた。
 鳥居の脇に佇むぼくの横を、人間たちは素通りする。ぼくの姿が視えるやつは、ごくまれだ。たとえば――いま道の向こう側にいる、浴衣を着た女の子、とか。
 隣の少年と楽しそうにしゃべっていた彼女の視線が、ふとこちらに向けられる。まるい瞳が、不思議そうに何度か瞬いて。ぼくもにこりと笑い返した。袴の後ろから生えた尻尾も、横に揺らして見せてみる。ぼくの銀髪からのぞく狐の耳も、きっと彼女にはよく視えているだろう。

 ――あの子は、当たりだ。

 片手を伸ばし、手招きする。
 おいで、おいで。ぼくらの世界に来れば、もっと楽しいことがある。
 女の子は花火みたいにぱぁっと笑んで、駆け出そうと足を踏み出す。少年が止めるのも聞かずに。
 道の横から、またクルマが走ってきた。女の子が気づいたときには、鼓膜をつんざくような甲高い音が響いて。
 どん、と重たいものがぶつかる音のあと、彼女は地面を転がっていた。
 誰かの悲鳴が上がり、近くにいた人間たちがどよめく。動かなくなった彼女を、少年も呆然と見つめていた。
 夕焼けよりも紅いものが、彼女の身体から染み出していく。
 この場で笑っているのは、ぼくだけだった。
 ふわり、と。ぼくのところに手鞠みたいな光が漂ってくる。この世を去った女の子の魂の色は、真っ白だった。穢れなんて知らないかのように。
 ぼくは、それをそっと手に乗せて微笑んだ。
「初めまして。ようこそ、こちら側へ」
『こちらがわ?』
「死者とあやかしの世界さ」
 ぼくらは神社の長い石段をのぼり、境内へと続く森へ歩く。提灯の光や屋台のおいしそうな食べ物のにおいに包まれた祭りの場は、ぼくらの存在を知らずににぎわう。
 女の子の魂は、それを見つめて楽しそうに笑ったけれど、ふとさびしそうにつぶやいた。
『どうしよう、おいてきちゃった』
 あの少年のことだろう。死んだ自覚のない彼女に、ぼくは笑いかける。
「だいじょうぶだよ。彼もきっと、こちら側に足を踏み入れるときが来る」
『ほんと?』
 うなずいて、いつかね、と心の中でこっそり付け足す。
 あいつはハズレだ、今のところは。この子とは違って、死期が遠い。
 境内の裏側の暗がりには、たくさんの狐たちが待っていた。ぼくは仲間たちに彼女を紹介する。

「新しい友達を連れてきたよ」

 やったぁ、と仲間たちは新入りを歓迎する。
 ぼくはそっと手を差し伸べ、女の子の魂を彼らの輪の中に放った。蛍にも似てゆるやかに漂ったそれは、狐たちに胴上げされるみたいに、空中でふわふわとはずむ。
 光だったそれは、だんだんと彼女本来のかたちを取り戻していく。生前と変わったのは、ぼくらと同じ耳や尻尾が生えたことくらいだ。
 輪の中心に立った女の子は、にぎやかなのが楽しいのか、笑顔を絶やさない。耳や尻尾にも触れ、感触を楽しんでいるようだ。
 仲間たちも、積極的に彼女を誘った。
「ねーねー、遊ぼうよ」
「いいよ。なにしてあそぶ?」
「はないちもんめ!」
 一人の宣言で、全員が二つの列を作って手をつなぐ。片方の列の真ん中に並んだ女の子は、周りにつられて陽気に歌い出した。

 かってうれしい はないちもんめ
 まけてくやしい はないちもんめ
 となりのおばさん ちょっときておくれ
 おにがいるから いかれません
 おかまをかぶって ちょっときておくれ
 おかまがないから いかれません
 ざぶとんかぶって ちょっときておくれ
 ざぶとんびりびり いかれません
 あのこがほしい あのこじゃわからん
 このこがほしい このこじゃわからん
 そうだんしよう そうしよう

 けれど、欲しい子どもは、最初からどちらの列の中にもいない。
 仲間たちの視線は、祭りの屋台通りのほうに一斉に向けられる。女の子も不思議そうに見やった。
 友達と駆け回る子ども、親に手を引かれて軽食を味わう子ども。たくさんの童の中から、ぼくらは候補を選び抜く。
「決まったかい」
 間をおいてぼくが尋ねれば、きーまった、と嬉しげな仲間たちの声が重なり合う。
「わかった。――じゃあ、次はあの子を『友達』にしようか」

 生者としての祭りの時間は、もう終わり。
 これからは、こちら側で一緒に楽しもうじゃないか。誰に咎められることもなく、夢に浸って、いつまでも。


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