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梨子田 歩未さん

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航海の城

15/05/18 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 梨子田 歩未 閲覧数:1034

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 家から歩いてすぐが海だから、海が小学生だったぼくらの遊び場だった。

 ぼくは、海に入ったり、走り回るより、ただじっとして砂のお城を作ることに夢中になった。
 砂のお城を作るのには、技術がいる。海岸の砂は、さらさらとしていて、形を作ろうとしても、すぐに滑り落ちる。
 まず、砂浜を掘り、穴を作る。その中に、海水を入れ、ちょうど良い硬さの砂をブレンドする。
 ただ混ぜればいいという問題ではない。水分が少なければ、城は積んだ端から、ぼろぼろと崩れ落ちるし、水分が多すぎれば、固まらず、どろどろと崩れ落ちる。
 砂と海水のちょうどよい比率を見つけ、それを保ち続ける必要がある。
 
 そうやって慎重に作り上げた砂の城は、一瞬で崩れた。幼馴染のワタルが足で踏みつぶした。
 気の弱いぼくは、一緒になって破壊したんだ。笑いながら、何時間もかけて作ったお城を足で踏み潰した。
 どうせ、夜には波に洗われてしまうんだ、そう思いながら、ぼくの心は泣いていた。その時から、ワタルとぼくの力関係は決まっていた。

 中学に上がって、ワタルは特別じゃなくなった。
 ワタルより、足の速い奴も、勉強のできる奴も、いっぱいいた。それなのに、ワタルはそれを認めようとしなかった。
 だれかが言った。ワタルは命令口調でムカつく、大して取りえもないくせに偉そう、生意気とか。それで、ワタルはクラスから外された。
 隣のクラスのぼくにも、そのことはすぐに耳に届いた。
 ゴールデンウィーク明けに、ワタルは学校に来なくなった。

 学校からの帰り道、ぼくは広い砂浜にポツンと座る後姿を見つけ、自転車を止めた。
 自転車から降りると、砂浜に降りて、その見覚えのある後姿に近づいた。
 ワタルの背中は、小さく丸まっていた。その隣にぼくは腰を下ろした。真っ赤な夕焼けが海を照らしていた。

「ワタル、元気?」

 ワタルは答えない。

「ねえ、何で学校来ないの?」

 理由は知っているけど、ぼくは何も知らないことを装った。
 ワタルは、ぼそりと言った。

「お前には、関係ない」

 ワタルはむかっしから、何でもできて、みんなの憧れで、ぼくはいつかワタルが壁にぶち当たればいいと心の底で思っていたんだ。
 意地悪な気持ちになってぼくは言ってみる。

「国語で習ったよ、井の中の蛙、大海を知らず」

 ぼくは横目でワタルの反応を見た。ワタルは答えない。ワタルは、海のさらに向こうを見ていた。つまらない、とぼくは足元の砂をいじった。
 
 同じテンポで聞こえる波音にぼくが眠気を感じ始めたころ、ワタルが言った。

「俺、壊したことあったよな、お前の城」

「え?」

「あれさ、悪かったな」

 ぼくは口を開けて、ワタルを見た。どうしていまさら、と思うと同時に、ワタルが砂の城を覚えていたことに驚いていた。
 ワタルが両手で砂を寄せ、山を作った。
 乾いた砂はさらさらと崩れ、形にならない。ぼくは波打ち際に行き、海水をすくい、砂を湿らせた。
 言葉を交わさず、ただもくもくと二人で砂の城を作った。
 最後に城のてっぺんにワタルが巻貝を乗せた。ワタルはきょろきょろとあたりを見回して、手に取った貝を巻貝の隣に並べた。
 ワタルが言った。

「なんか、悪いな。心配かけて」

 弱気なワタルに、ぼくはだんだんと腹が立ち、ぶっきらぼうに言った。

「心配なんかしてないよ」

 ワタルがくすくすと笑った。

「だよなぁ。お前、俺のこと嫌いだもんな」

 ぼくは答えない。

「俺は、結構好きだぜ」

 ワタルは指で砂をなぞった。砂にくぼみができ、文字ができた。

『航海人』

「俺の航(ワタル)とお前の海人(カイト)をつなげるとさ、航海人になるじゃん。俺、将来は自分の船をもってさ、航海しようと思うんだ。いわゆる冒険家、ってやつ」

「そんなの無理だよ」

 ぼくはすぐに言い放った。ワタルはぼくの言葉なんて聞こえなかったみたいに、声を弾ませた。

「もし行きたいんなら、お前も連れてってやるよ。縁起よさそうだし」

「無理だよ。ぼく、泳げないし」

 ぼくはワタルの航海に付いていく前提で、答えたことに驚いて、口を閉じた。ワタルはぼくの背中をぽんと軽くたたいた。

「したら、海に落ちた時は俺が助けてやるよ」
 
 ワタルは、白い歯を見せてにかっと笑った。急に恥ずかしくなったぼくは立ち上がり、制服のズボンから砂を叩き落とした。
 ワタルに背を向ける時、ぼくは自然とこう口にしていた。

「またね」

「おう、海にいるからよ」

 ワタルは、片手をひらひらさせた。ワタルの後ろでは、海が夕焼けを反射して、きらきらと輝いていた。



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