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八子 棗さん

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その液体

15/05/17 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:2件 八子 棗 閲覧数:998

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 海と、雨と、涙が同じ水だなんて、どうしても思えない。
 どれも生温くて、あんまりいい気持ちのするものじゃない。

 曇り空の下、波打ち際に寄せる太平洋の水。うねる曲線から視線を上げ、隣にいる圭吾を見上げる。
 圭吾は困ったように口元を笑みの形にする。
「そりゃ、どれも成分は違うだろうから、同じものだと思わなくてもいいんじゃないかな」
 圭吾はいつだって、理屈が通っていて、私の望まない言葉を選ぶ。
 そうだね、というたった一言でいい。私の意見に賛同してくれれば、それでいいのに。
「もういいよ、圭吾のバカ」
 苛立ちを足元にぶつけるように歩けば、靴の中に砂が飛び込んでくる。
 戸惑ったような圭吾の声が、背後で私の名前を呼んでいる。
 聞く気もなく足元を見下ろしていて、嫌なことを思い出した。
『これだから女は嫌いだよ』
 前の彼にそう言われたのは、日本海を見に行った時だったっけ。
『承認欲求がそんなに強いのは何で? そんなに小さい頃親に愛されなかったの?』
 何故か、海にデートに来る度に、振られている気がする。
『それとも、我が強いだけ? 何にしても、俺はもう付き合いきれない』
 あれ、涙が出てきた。思い出さないようにしてきたけど、結構ひどいこと言われてた気がする。
 やっぱり海なんて嫌いだ。
「ちょっと待ってって」
 シャットアウトしていた圭吾の声が、飛び込んできた。
 何? と、振り向いて睨みつけようとした瞬間、脇腹に激痛が走った。
 一瞬の後、鼻と口に海水が流れ込んできた。
「俺、お前のことすごく可哀想なやつだなって思うよ」
 最悪だ。服を引きはがそうとしても肌に張り付く、その冷たさに不快感が増す。
 鼻から逆流してきた塩水にむせながら、染みる目で圭吾を睨む。
「親とか、学校の環境とか、そういうのがあんまり良くなかったっていうのは前に聞いてたけどさ。
 でも、LINEの時も、デートの時も、嫌いなものの話ばっかりでさ。俺だって気分悪くなるわけ」
 圭吾ってこんな顔もできたんだ、ってくらい、蔑む目で私は見られていた。
「しばらく頭冷やしてなよ」
 言われた通りにするのは癪だったけれど、立ち上がる気もなくて、そのまましばらく波打ち際に寝ていた。
 遠くで、乗ってきた圭吾の車のエンジンの音がしたような気がする。
 いいんだ、もう。母なる海なら愛してくれるんでしょ。
 海水だか雨水だか涙だか分からないその液体にまみれながら、このまま眠りたいと思った。


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このストーリーに関するコメント

15/05/19 レイチェル・ハジェンズ

ひとつの疑問から、彼氏の裏切りを経て失恋するストーリー。

最後のふっ切れた感じに未熟さが垣間見れますが、
このあと、彼女は誰と出会っていくのかを考えると面白いものです。
勿論、作者である貴方もですが。

それにしても、つくづく思う!
女ってどいつもこいつも、人からの賛同がほしいものですよね!

15/05/25 光石七

拝読しました。
彼が追ってきたので優しい言葉をかけてくれるのかと思いきや。でも、この終わり方は嫌いじゃないです。
人は皆誰かに認めてほしいと思っているけれども、女性は特にそうだと思います。意見よりも共感を求める傾向がありますし。
彼がうんざりするのもわかるけれども、受け止めてほしい主人公の気持ちもわかります。同じことを繰り返さないためには、主人公を丸ごと受け止めてくれる人に出会うか、主人公が変わるか、でしょうね。変わるのはとても難しいことですが。
面白かったです。

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