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青木灯さん

魔法のiらんど、ポケクリ、モバゲーなどにlightという名前でいましたが、現在は小説家になろうさんに作品移行中です。近未来が好きなので、よく題材にしてます。

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生きている音

15/05/10 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:0件 青木灯 閲覧数:986

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 粉塵が舞い、世界は大人しくその身を煙の中へと呑み込ませていく。人々が空を目指して乱立させたビル群も、あちらこちらで倒壊してしまっている。
 灰色の空には太陽は輝いておらず、朽ちた世界は濃い影を落とすばかりだ。瓦礫が散乱する街の中に人の姿は見えない。おそらくは避難施設や地下シェルターに身を潜めているのだろうが、突然起きた天災に対応できずに命を落とした人間の方が多い。
 天災に見舞われて1ヶ月が経とうとしているけれど、この国の被害状況は特に深刻で政府からの支援も滞っている。都心部への支援が優先されていると風の噂で聞いた被災者たちは、生を諦めて絶望の中で死を選んでいく。
 街の片隅で横たわる亡骸のほとんどはそうやって命を終わらせていった者たちなのだ。

「……聴こえる」

 歩く度に足元で瓦礫が鳴く。天災前に調整が終わっていて良かったと、ミオは義足の両膝を撫でた。
 脳が発する電気信号を読み取り、事故以前と変わらない自然な動きができる最新式の義足のお陰で、危険を回避し生き延びることができた。
 彼女の頭部には義足をコントロールするためのシステムが入ったマイクロチップが埋め込まれており、サイボーグ化がなされている。
 高層ビルから降り注いだであろうガラス片がコンクリートの上でキラキラと輝いて見える。けれど、ミオは意にも介さずそれらを踏みしめて歩き続けるのだった。
 彼女の頭に組み込まれたマイクロチップ内のシステムの誤作動なのか、先ほどからなにやら音が聴こえる。一定のリズムで刻まれる微かな音。日に日にその音はか細くなっているように思えて、ミオは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

――いやだ、何これ……

 リズムを刻んでいるのはひとつではなかった。今、聴こえているリズムは4種類。少し前は数え切れないくらいたくさんの音が重なり合っていた。
 ひとつひとつに個性があって、性急だったり、穏やかだったり、力強い音もあれば弱々しい音もある。けれど、それがひとつ消え、またひとつ消え。今聴こえている音も頼りなくなってきている。

「誰か、いませんか!」

 荒廃した街中で、ミオはそう叫ぶ。声が震えていた。人気のない廃屋の入り口に顔を覗かせては、同じように叫んでいく。しかし、返答は得られない。

ーートク、トク……トク……トク。

 弱っていく音に気付き、ミオは一気に青ざめていく。確かに近くにいる。だが、壁や天井が崩れ落ちた建物ばかりでこの音を発している人物の姿が見つけられずにいた。

「待って、消えないで」

 音のする方に近づこうとするけれど、音はどんどん小さくなっていく。

――……トク……トッ……トッ……

 音の発信源は瓦礫の山の下で、一瞬、ミオは動きを止めた。それでも、頭の中に浮かんだ考えを振り切り瓦礫をどけようと奮闘するけれど、うまくいかない。両腕は生身の身体なのだ。
 そうこうしている間にもとある人の楽曲は終わりを目指して、ゆっくりと音を刻んでいく。

「……無駄です、その方は終わりを迎えてしまいました」

 背後からそんな声が放たれ、ミオは瓦礫を必死に掴んで血が滲む両の手の力を緩めざるを得なくなった。

「待って、あ、ひとりにしないで、やだ、消えないで」

 ミオはふらふらと荒れ果てた灰色の街を彷徨い始める。

「そして、貴方も」

 黒い服に身を包んだ少年はミオの背中をしばらく眺めたあと、ゆっくりと後を追いかける。

「……マイクロチップの誤作動、か。どちらにせよ、寿命だったんでしょうね。時間切れです」

 色をなくした大地に横たわるミオを一瞥した少年は、耳の奥で微かに聴こえる彼女の生きている音の最後を静かに聴き、霞がかる世界の果てへときえていくのだった。


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