1. トップページ
  2. 海について思うこと

日谷 弥子さん

別サイトですが、小説を初執筆中です。これがどんどん長くなり、終わりが見えないので短編も並行することにしました。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 Shoot the future

投稿済みの作品

2

海について思うこと

15/05/05 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:1件 日谷 弥子 閲覧数:1283

この作品を評価する

 「私は今、元気です」
 そういうタイトルのメールが、会社のメールボックスに転送されて来ました。
 10年くらい前です。当時私は契約社員のような身分でした。私の前職の経歴が評価され、正社員でないという中途半端な位置も作用して、我が儘放題で働いていました。
 メールの転送者は、私の上長でした。私は何かのジョークと思い、窓際に座っている上長に向けて「×長、何ですか、これー」と大声を出して笑い飛ばしてから、開きました。
 みるみる顔が強ばりました。上長の同僚の、スマトラ沖の地震にあった方からのメールでした。

 それは、その地震から半年程経った頃だったと思います。
 私が居た会社ではアジアの国に技術支援を行うことがあり、相手国に社員を出向させていました。メールを書いた方を私は存じ上げていませんでした。が、その内容に揺さぶられ、うっかり涙をこぼしてしまわないように、まばたきを一生懸命こらえなければなりませんでした。
 仔細は思い出せません。が、地震が治まり、人々が外に出てざわめき合い、揺れの恐怖や被害について報告し合っていた中で、津波が、恐ろしく大きな津波が襲って来た、とありました。その方は日本人でしたから、津波の恐ろしさを、体験していないにしても知識としてご存知だったのでしょうか、すぐさま高台に逃げ、走って、走って、助かったのだそうです。けれども眼下で多くの人々が、混乱と混沌と共に、渦にみるみる呑み込まれて行った、と。
 スマトラの地震は、被害のほとんどが津波によるものだったそうです。被害者は合計で23万人近く。観光客も多かったそうです。美しくたゆたう海が、一変して襲って来た、ということ。

 東日本の大震災で津波が来たとき、私はこのスマトラの方からのメールをすぐに思い出しました。どちらの方がひどかったのか。それは切り口によって判断が異なると思います。被害者の数は、東日本の地震では約2万人だそうです。スマトラの10分の1。でもこちらは質が違いました。
 原子力発電所の事故。
 これがどれだけのものであるか。量りきれません。過去の事象にはならない。今もこれからも続いて行くのです。現状、低濃度と言われる汚染水を海に放出している。私はインターネットの掲示板で、友人がピックアップした海の汚染図を見ることがあります。日本の海岸から扇形に広がり伸びて行く、毒の色。図には誇張があるかもしれないし、毒を放出しているのは日本だけではないかもしれない。でもとくとくと流れ広がり、海が毒水にまみれていく。それが、見える。

 私の故郷において、海は身近な存在でした。風光明媚と唱えるような見かけではないです。でも行きたいときに、車でひょいと行ける距離にあった。ですから私の周りの人たちは、暇な時間が出来ると、何となく海に行きます。季節を問わず行きます。小一時間ぼーっと見て、帰って来るのです。
 元々海が好きな人は愛しい気持ちを持って見つめ、私のようにどっちでもない人は、ただ何となく見つめ、でも海が嫌いな人はいません。もっと近くで、海からの恩恵で生活している人たちはまた違った感覚かもしれないですね。畏敬、或いは畏怖の気持ちがあるのかもしれない。でもいずれにしろ、海はそれぞれの人の心の深いところに寄り添って、家族みたいにしている。大御所の、親戚のおばあちゃん、という感じでしょうか。
 そういう家族が毒されて、どんどん弱って行くのを見るのは、辛い。

 原子力発電所の事故において、私は電力会社に責任の全般があるとは思いません。資本主義社会において利潤を追求した結果、需要とそれを上回る供給を行った結果、なるべくしてなったのだと思う。
 何故政府は、原子力発電を再稼働しようとしているのでしょうか。電力の不足が想定されるから、ですよね。それに他ならない。地震以降日本は省エネに努めている、そうかもしれません。それでも不足する。
 では、今私たちが消費している電力は、電力量は、必要不可欠なものなのかしら。第一、こんなにあちこち、電気がぴかぴかしている必要があるでしょうか。あれもこれも電気で動いていて、動きっ放し。その何割が本当に必要なものなのでしょうか。
 私たちは一度便利を味わってしまうと、一歩たりとも戻りたくはない。私は違うと言いたいけれど、きっと私も同じ。私だってそう。でも。

 母なる海が、近い将来苦しみに堪え兼ねてしまうような気がする。そうしたらどんなことが起こるのでしょう。
 海が、私たちの敵となってしまいませんように。私たちは、海を恐ろしいものと思うことなく、これからも愛せますように。

 私はこれとは別に、故郷の海の思い出について書きました。でも敢えて、こちらを提出いたします。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/05/22 光石七

拝読しました。
ご自身の思いを率直に綴られた文章に胸を打たれました。
海が汚れていく辛さ、便利さと引き換えに犠牲にしてしまったもの、いろいろ考えさせられますし心が痛みます。
海が敵となってしまわないよう、私も願います。
拙い感想ですみません。言葉が出てこなくて……
深いお話をありがとうございます。

ログイン

ピックアップ作品