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夏木蛍さん

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明日になったら

15/05/04 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:0件 夏木蛍 閲覧数:1223

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 「遼平くんっ!できた?」
俺の顔を覗き込むようにして、佐倉は笑った。
キッチンにたちこめるのは少しの熱気と甘い匂い。
「すごいよ遼平くん!今までで一番上手くできたねっ」
嬉しそうにはしゃぐ佐倉に俺は曖昧に返事をしながら目の前のチーズケーキを見つめた。
約一か月の間にどれだけの料理を作ってきたか、数えきれない。
今日だって、何が楽しくて男一人でケーキなんか焼かなくちゃいけないんだろう。
とにかく俺はこの一か月くらいの間、作っては食べる日々を繰り返している。
「もう作り方覚えちゃったでしょ?」
相変わらず楽しそうな佐倉に、俺は怒りたいのを抑えて言葉を返す。
「まだ無理だよ。…一人じゃ」
「大丈夫だって、遼平くんなら大丈夫だよ?」

 佐倉は少し、悲しそうに笑った。

 それを見て俺はこの一か月間のことを思い出していた。
その頃俺に料理の練習をするように言ってきたのは他でもない、佐倉だった。
理由はさておき、それから俺の家で料理の特訓が始まることになったのだ。
でも、佐倉は隣から説明するだけで俺が失敗しても手を貸してくれないし、最初から最後まで作るのも食べるのも自分。
「私がいなくても作れるようになってほしいの」
佐倉がそんなことを言う訳を俺は考えないフリをしていた。

 佐倉と会ったのは高校二年の春で、同じクラスだった俺たちは何となく仲良くなった。
そして今年も同じクラスで、佐倉が俺の分のお弁当を作ってきたりだとか、一緒に帰ったりだとか。
俺の知る限りでは、佐倉は二年の時から少しクラスに馴染めていない印象で。
女子には、ぶりっ子とか言いたい放題陰口を言われているような奴だった。
——————「私といると、みんなに嫌われるよ?」
だけどそれでも俺は、そう言った佐倉といることを選んだのだ。
よくわからない理由を付けて人を見下す側に、俺は行きたくはなかったから。

 「ケーキ、食べないの?」
現実の佐倉の声で俺は我に返る。
「一人でこんなに食べれるわけないじゃん。…佐倉も食べて?上手く、出来たんだよ」
「私、これ食べれないもん。遼平くん知ってるくせに意地悪だね」
不機嫌そうに言う佐倉に、俺はもう、気がおかしくなりそうで。
わざと大きな音を立てながら引き出しからフォークを二本取り出した。
「ほら」
「無理だよ…」
「ほら…食べろって!」
「いらない!」
佐倉にさしだしたフォークは、耳障りな音と一緒に派手に床に落ちていく。
反動で際立った静かな空気に、俺は耳を塞ぎたくなる。
時間が止まればいいのになんてくだらないことを、人生で初めて思った。
「……明日、なんだよ?」
ぽつり。静まり返るキッチンに嫌がらせのような声が響いた。

 理解したくなかった。何もかもが、夢ならよかった。

「明日になったら私、」
「聞きたくない!」
驚いた佐倉の肩がびくっと震える。
俺はすごく腹が立っていて、それと同時に焦っていた。
言わなきゃいけないことが山ほどあるのに、俺はまだ、何も伝えていない。
「……俺、後悔してることが、いっぱいあって、」
「うん」
「言わなきゃいけないことが、たくさんあって、」
「うん…っ」
「佐倉はずっと料理教えてくれたけど、これ、全っ然意味ないよ!?
俺は佐倉の料理の味が食べたいんじゃなくて、佐倉が作ったやつが食べたいのに…っ!」
俺は手に持ったフォークで目の前のケーキをぐちゃぐちゃにしていく。
涙が、止まらなかった。
「明日は佐倉の誕生日なのに、お前ほんとに…馬鹿じゃないのっ!」
「…ふふっ、馬鹿だよね、」
佐倉の涙を拭うことすら、俺にはできない。
何もできない歯がゆさが俺にもやっと、わかってしまった。
もしかしたら佐倉はあの日からずっとこんな気持ちだったのかもしれない。


 明日で、佐倉が車に轢かれて死んでから49日目になる。

——————「死んじゃってから遼平くんのこと心配してたら…お化けになっちゃった。…ふふっ」
俺にしか見えないこと。幽霊としてここにいられるのは49日間だということ。
困惑して涙も出なくなった俺に、誰が決めたルールかもわからないそれを佐倉が説明していた日がつい昨日のことのようだった。
何も触れないことを除けば生きていた時と何も変わらなくて、俺は日にちが経つにつれて佐倉がいなくなることを忘れかけていた。


「嫌だよ?…佐倉いなく、なったら俺、っ!」


明日なんて、一生来なくていいと本気で思った。


「もうばいばい、なんだよ」

「嫌だ、…好きだよっ、こはるっ」




何もかも遅すぎることを振り切るように俺は感触のない彼女を抱きしめた。






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