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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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三匹目の子豚

15/05/04 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:12件 光石七 閲覧数:2460

時空モノガタリからの選評

元々の三匹の子豚の教訓、「勤勉で真面目な人間は報われる」は、確かにあまり現実的でないのかもしれません。真面目な人間を苦しめる「狼」を退治しなければ幸せになれないと、教訓の内容を転換したところが面白いと思いますし、お題をうまく生かしているなと思います。

時空モノガタリK

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 昨夜は眠れなかった。授業が始まっても菜緒の心は落ち着かない。
「内木、聞いてるのか?」
国語教師に注意された。すみません、と菜緒は小声で応える。
「まあ、大上の件でみんなもショックを受けてるだろうが……」
先週このクラスの生徒 大上彩がP駅の階段で転落死した。現場に居合わせた通行人が「足を踏み外すのを見た」と証言し、事故として処理された。だが、菜緒は知っている。彩は殺されたのだ。自分の依頼で。そして今度は……。
(本当にあの写真の人を殺さなきゃいけないの?)
昨日のメールが菜緒の頭から離れない。


 気の弱い菜緒は彩とその取巻たちのいじめの標的だった。無理矢理裸にされ写真を撮られたりもした。
「ネットに載せちゃおうかなあ? 私さ、ロンバンの香水買いたいんだよね」
脅され、菜緒は何度も彩に金銭を渡した。誰にも相談できないまま辛い日々が続いた。
(いっそ死んじゃったほうが楽かも……)
そんな思いに駆られ、ある日菜緒はスマホで自殺の方法を調べた。いろいろ閲覧するうちに奇妙なバナーをみつけた。豚鼻に“希望はまだココに”との文字。クリックすると画面が変わり、煉瓦の家と子豚のイラストのページが現れた。

“誰もが聞いたり読んだりしたことがある『三匹の子豚』。三匹目の子豚は他の二匹とどこが違ったのでしょうか? コツコツ煉瓦を積み上げて頑丈な家を造ったことですね。勤勉で真面目な人間は報われるという教訓です。
 ですが、世の中本当にそうでしょうか? 真面目に頑張ってるのに辛く苦しいことばかり、あなたもそうではありませんか? 一体何があなたの幸せを邪魔しているのでしょう?
 答えは『狼』です。あなたは一生懸命真面目に生きている『三匹目の子豚』なのに、『狼』があなたを苦しめているのです。『狼』は退治しなければなりません。お話の中の三匹目の子豚も、最後は煙突から忍び込んだ狼を釜茹でにして食べています(原作はそうです)。『狼』がいなくなってこそ、『三匹目の子豚』は幸せになれるのです……“

菜緒は引き込まれた。自分にとって一番の狼は彩だ。他の子は彩抜きでは何もしてこない。彩さえいなくなれば……。

“しかし、あなたが直接『狼』を退治するのは困難でしょう。そのために『三匹目の子豚』たちのネットワークがあるのです……”

一番下に“狼退治を希望しますか?”とある。菜緒は“はい”をクリックした。『狼』の情報を入力する欄が表示される。菜緒は“大上彩”と打ち込んだ。
 五日後、“狼を退治しました”とのメールがスマホに届いた。差出人のアドレスは“thirdpig@×××”。その翌日、菜緒は学校で彩の死を知った。
(本当に誰かが彩を? でも、足を踏み外したって証言が……)
釈然としなかったが、もう彩に怯えずに済むのはありがたかった。少なくとも自分が直接手を下したわけではない。メールはいたずらで実際はただの事故かもしれない。菜緒は自分は無関係だと思いたかった。
 ところが昨日の夕方、再びあのアドレスからメールが来たのだ。

“明後日十七時前にQ駅一番ホームへ行き、写真の『狼』を電車が来る直前に線路に突き落としてください。これは『三匹目の子豚』の義務です。相互扶助が鉄則です。誰にも話さず決行すること。現場でサポートするメンバーもいますし、あなたとは直接関わりの無い『狼』ですから、あなたが捕まることはありません。この指示を無視した場合、あなたも『狼』とみなします”

見知らぬ若い女性の写真が貼付されている。菜緒は怖くなった。
(彩の時もこうやって……? 『三匹目の子豚』の誰かが階段で彩を突き飛ばして、他のメンバーが事故だと証言した……?)
菜緒は初めて『三匹目の子豚』のシステムを理解した。
(私、人殺しなんてできない……)
だが、すでに自分は彩を殺したも同然だとも思う。殺してもらったのだから今度は自分が誰かのために殺すということだ。
(従わなかったら私が殺されるの? だけど、この手で人を殺すなんて……)
菜緒は葛藤していた。


 放課後、菜緒は覚悟を決めて近くの交番を訪ねた。やはり殺人は罪だし、やりたくない。全てを警察に話すのだ。彩の“退治”を依頼した件で自分も罰を受けるかもしれないが、殺人犯になるよりも殺されるよりもずっといい。
「どうしました?」
交番には若い警官一人しかいなかった。
「あ、あの……このメール見てください!」
菜緒は思い切って自分のスマホを警官に渡した。証拠の後に説明したほうが伝えやすい。メールを読んだ警官の顔色が変わる。
「君、これ……」
「こういう組織が本当にあるんです。私、ここに頼んで彩を……」
「ダメだよ、人に話しちゃ。君も『狼』を退治してもらったんだろ? 『三匹目の子豚』の義務を放棄する気かい?」
警官の冷たい微笑に菜緒は凍りついた。


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このストーリーに関するコメント

15/05/05 光石七

すみません、一か所訂正です。

 見知らぬ若い女性の写真が貼付されている → 見知らぬ若い女性の写真が添付されている

変換ミスです。失礼しました m(_ _)m

15/05/07 久我 伊庭間

ラストにはゾクリとしてしまいました。
いい読後感でした。
義務と称して殺人を強制する彼らも狼のように思いますが、
菜緒も彩の死を願ってしまった時点で、すでに狼なのかもしれませんね。

15/05/07 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

いわゆる交換殺人とでもいうのでしょうか、この結末は面白かったです。「三匹目の子豚」という童話ののどかな語感との対比が、妙に怖さを引き立てているようでした。

15/05/08 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

もし私だったらと考えました。菜緒と同じことをするでしょう。まさか、こんなことになるなんて思わない、これは罠かもしれません。でも、人はいつだって狼になりうるということを思い知らされる警鐘になる作品だと思いました。オチが気になりハラハラしながら一気に読み終えました。ああ、良かったと安心させておいて奈落に突き落とされました、非常に面白かったです。

今回のテーマは私にはとても難しかったです、どうしても童話部分から抜け出せないままもだった私ですが、三匹の子豚から狼を取り上げ、これほど鋭い話を書かれた光石さんの技量に感服いたしました。

15/05/08 光石七

>久我 伊庭間さん
コメントありがとうございます。
作者よりも深い捉え方をしてくださり、恐縮です。
『三匹目の子豚』は、“三匹目の子豚のように真面目で堅実な者が報われる社会”を目指すあまり“狼退治”に走る一種の過激集団、というコンセプトではありましたが、彼ら自身が狼とまでは考えていませんでした。
“菜緒も彩の死を願ってしまった時点で、すでに狼”、その感性に感嘆してしまいました。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
『三匹目の子豚』は横文字の名前にしようかとも思ったのですが、字数を食うので、シンプルにそのまんまのネーミングとなっただけでして(苦笑) 怖さを引き立てる効果があったとは、うれしい誤算です。
楽しんでいただけてよかったです。

>リュウの助さん
コメントありがとうございます。
お褒めの言葉、恐縮です。
警官は『三匹目の子豚』のネットワークの広さを表わす役割もあるので、彩殺しには関わっていないという設定です。「真面目で堅実な者(=三匹目の子豚)の幸せのために“狼退治”を実行する集団があり、そこから逃げてきた人間が助けを求めて事実を話すが、話した相手も実はメンバーだった」というのが基本の(?)大筋でした。
もっとうまくまとめられれば良かったのですが。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
ご自分に置き換えて考えてくださるとは。
“人はいつだって狼になりうる”、作者以上の深い読み取りですね。『三匹目の子豚』の“狼退治”としか考えていませんでした(苦笑)
技量なんてとんでもない、ほぼ毎回四苦八苦しながらなんとか話を捻り出してます。
楽しんでいただけてよかったです。

15/05/13 滝沢朱音

希望はまだココに→(OO)→相互殺人システム?
めっちゃこわーい!!!
このあと、菜緒はどうなってしまったのでしょうか((((;゚Д゚))))

「三匹目の子豚」という発想、とてもよかったです!

15/05/13 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
『三匹目の子豚』は、元々は『狼』とみなせば企業や国も潰しにかかるような秘密結社的な組織をイメージしていたのですが、うまく話がまとまらず。切り口や人物設定を変えていくうちに、今の形に落ち着きました。
三匹の子豚のお話の教訓から無理矢理こじつけた危険思想ですね(苦笑)
菜緒のその後はご想像にお任せしたいと思います。

15/05/23 梨子田 歩未

拝読しました。

三匹の子豚という童話から、こんなどきどきする話に発展するとは思いませんでした。

明日、奈緒は三匹目の子豚としての義務を果たしに行くのか、それとも、狼になるのか、読後も余韻のある作品で、おもしろかったです!

15/05/23 光石七

>risakotさん
コメントありがとうございます。
三匹の子豚のお話の教訓と思われることから無理矢理こじつけて話をひねり出しました(苦笑)
余韻がありましたか。うれしいお言葉です。
楽しんでいただけたのなら、幸いです。

15/06/01 南野モリコ

光石七さん、拝読させて頂きました。

『三匹の子豚』の一番賢い子豚から
このような発想をされることがすごいと思いました。

「三匹目の子豚システム」、私が小学生だったら絶対、悪用しますよw

死という現実を知り、自分のしたことを後悔しきれない主人公というのも
人間の心理を描いていて、素晴らしいと思いました。

受賞にふさわしい作品ですね!

15/06/02 光石七

>ミナミノモリコさん
コメントありがとうございます。
三匹の子豚の教訓を改めて考えたり調べたりして、「世の中そうなってないじゃん!」と反発を覚えたもので(苦笑)
大筋だけ決めてなんとか詰め込んだ感じで、細かい描写まで気が回っていないのですが(苦笑)、読んでくださる皆様の感性に助けられております。

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