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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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寂しがりな子豚の反乱

15/05/03 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:1498

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大麦は今をたけなわに穂を垂らし、先ほどは陽を受け金色に光っていた波が、白銀にたゆたう。
いつも3匹の子豚が密かに見る、漆黒の薄幕を敷いた天上は、一面に氷を砕いたような光の粒が瞬き、零れおちた明かりが大麦を濡らしていた。
そこに一陣の風が渡ると大波が起こった。すると時期の早い蝗が一斉に飛び立ち、何百もの小さな放射状の光を描く……。
我らは家畜。宴に饗される、ただそのために生きている。夜空を仰ぐ事は、ひとり神の庭に住まう者の禁忌だ。
しかし今宵は新月、罪を咎める者はない。
かつてあまたの神々が文明と共に滅びた。野ざらしの壊れた女神の石像だけが、その栄華を伝えるのみだ。勝者たるひとり神はあらゆるものを破壊したが、彼らを象ったとされる星だけは打ち砕けなかったという。
「ああ……」
何と麗しい。3匹は賛美を飲み込んだ。
太陽も月もない、こんな星明かりだけの夜は、荒れ野にはぐれた女神が天狼と遊ぶという。
が、それを見た者はない。
オオオオオーン……。
3匹の耳に、夜の声が微かに聞こえた。

1年のち、長兄のアムは女神に救いを求め、荒れ野に旅立った。
だが建てた藁の家は吹き飛ばされ、目のある太陽に捕まって、アムはひとり神に食された。

2年のち、次兄のタムも止めるのを聞かず、荒れ野に旅立った。
だが建てた木の家も吹き飛ばされ、口のある月に捕まって、タムはひとり神に食された。

それから3年が過ぎた。
ティムは大きな荷車と旅立ち、荒れ野に家を建てた。
「もう、何も失うものなど、残ってやしないのに」
ティムはポツンと呟いた。
こんなことをして、兄さんたちは喜ぶだろうか。いや、せいぜい長生きする方策を練れと叱るだろう。
けれど仕方がないよ。
僕だって女神がいると思ってしまったんだもの。
助けてくれるかどうかも解らないのに……。
だからティムはちょっとした嫌がらせを試みる事にしたのだ、希望というものまで与え飼い馴らしたひとり神に。
アムが遺した藁を粘土に混ぜ、タムが遺した木で作った長方形の型にはめ、乾燥させる。末弟のティムが古文書から再現した煉瓦というものは、硬くて手軽に扱える材質であった。
均一に煉瓦の積み上がった壁面は、大昔にあったという神殿には遠く及ばないが立派で、何だか誇らしく思えた。
運命に足掻く。なんて絶望的な響きだろう。
「骨くらいは、残るかな」
それは食われる事を覚悟した子豚の、ささやかな抵抗だった。

果たして、不遜なはぐれ豚の行いを、ひとり神の眼は見逃さなかった。
たちまち、煉瓦の家を風雨が打ち付ける。
が、煉瓦の家はびくともしなかった。嵐は7日7晩続いたが、壁を砕くのはおろか、傷一つつける事は叶わなかったのである。
玉座でふんぞり返っていたひとり神の怒りは凄まじかった。
嵐が急に静まったのを、ティムは不審に思ったが、やがてその理由は明らかになった。
床が、壁が、じりじりと、熱くなる。
慌ててティムは家を出ようとしたが、どうしたことか、扉は開かない。
「美味そうだな」
扉の向こうから、聞いた事もない恐ろしげな声がした。
「今日の夕食は、豚の蒸し焼きか」
まさか、ひとり神?
「上の兄は藁の家、下の兄は木の家」
灼熱の太陽の力で、煉瓦を焼いているのか。
「そしてお前は煉瓦を積み上げ、たかが家畜の分際で、失せた神々を気取るか。身の程を知れ!」
熱い。床に立っていられなない。そうだ、煙突……。
ティムは慌てて煙突に身体を突っ込んでよじ登ろうとすると、真四角に切り取られた空には、満月がぽっかりと大口を開けて手を伸ばして待っている。
もう駄目だ……そう思った時だった。

オオオオオーン、オオオオーン。
すぐそばで、夜の声がした。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
ひとり神の絶叫が響く。しかし何が起こったのか分からない。
ようやく煙突から顔を出した時、ティムは老いた禍々しい野獣の姿が音を立て崩れ落ちるのを見た。
鋭い星のかけらで射抜かれた、ひとり神の最期だった。

太陽と月がみるみるうちに欠けて、星の世界が訪れる。
「奴が玉座を降りる時を待っていたの」
ティムが声のする方向を仰ぎ見ると、巨大な弓を携えた、崩れた像にそっくりの女神が立っていて、その傍らには銀の獣が寄り添っている。
「あなたのお陰だわ」
白い光を帯びた銀河から星の雨が流れる。
神々が開放されたの、と彼女は言った。
「有難う。その昔、人と呼ばれし者よ」
奪われたその名を口にして、女神は微笑んだ。
「さあいらっしゃい、星になった人たちもあちらで待っている」
オオオオオーン!天狼はティムに近づき顔をすり寄せた。
「さあ帰りましょう、天空の故郷へ」
女神の白い手を取ると、ティムは頷き流星の海に迷わず飛ぶ。
そうして遠ざかる煉瓦の家を惜しむ弟の耳に、無謀を叱る懐かしい声がようやく、今届いた。


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このストーリーに関するコメント

15/05/07 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

神話のような趣のある描写と、豚の祖先は人であったという
最後に明かされるストーリー、とても面白かったです。
そういえば人と豚は肉体の組織(心臓の弁とか)が近い点あるとか、きいたことがあります。

15/05/09 冬垣ひなた

そらの珊瑚さま

コメントありがとうございます

自分は基本設定をいじることってあまりなかったのです。
これは今まで書いた話の中で一番色々詰め込んで世界観から変えたものなので、
面白いと言っていただけてとても嬉しかったです。
人への豚さんの近さを調べたら、解剖学にも使われる位だそうで……不思議な事ですね。

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