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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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魔球封じ

12/07/23 コンテスト(テーマ):第十一回 時空モノガタリ文学賞【 高校野球 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2126

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日曜の朝、ぼくがはん子をいつもの喫茶店に呼び出したのには、わけがあった。
「どうしたの、うかない顔して」
テーブルに向かい合うなり、彼女にはぴんときたらしかった。
「わかった、書き悩んでいるのね」
「うん。例の投稿サイトなんだけど、こんどのテーマが高校野球なんだ」
「すてきじゃない。青春まっさかりの球児たちが、純粋な汗を流す。季節的にもぴったりだわ」
「おれ、野球はからきしなんだ。高校のときは読書部所属で、スポーツとは無縁の青春をおくったからね」
「そういえば、サーカー観戦に誘っても、きたためしがたかったわね」
こちらとちがってスポーツなんでもこいのはん子は、最近は総合格闘技にはまっていてそれも、みるだけでなくやりたいなどといいだす始末だった。
「今回の応募は、パスしようかな」
「そんな弱気なこというと、チョークスリーパーかけるわよ」
両腕をあげて威嚇するはん子だったが、すぐ真顔にもどって、
「わたしの知り合いに、高校球児をもつ母親がいるの。その息子、予選で一勝したって聞いてるわ」
「はん子も、顔がひろいんだな」
むしろ彼女のほうが乗り気になってきたもようで、いまのぼくの言葉は無視された。
「その子、ピッチャーで、ここぞいうとき、魔球を投げるんですって」
ぼくも興味をおぼえて身をのりだした。
「おもしろい。魔球って、どんなんだろう」
「試合のビデオがあるはずよ。近所だから、いってみる?」
そんなわけでぼくたちはさっそく、魔球を投げるという高校球児の自宅にむかうことにした。

母親は、ぼくたち二人の訪問を心から喜んだ。
「息子のファンはいつでも大歓迎よ」
試合を撮ったDVDをセットする母親に、ぼくは話しかけた。
「息子さん、魔球を投げられるそうですね」
すると母親は、鼻高々にこたえた。
「その魔球にかかると、どんなピッチャーも空振りするのです」
ぼくははやくそれをみたくて、息子が魔球をなげた最終回をみたかったのだが、母親はきっちり1回から試合を流しはじめた。
さてその9回、味方がとってくれた1点をまもらんとして、息子が最後のバーターをツーアウトまで追い込んだ。とっておきの魔球をくりだすのは、このときだった。
ぼくもはん子も、まばたきするのも忘れて、彼の投げる最後の一球をみまもった。
たしかにそれは速度のある、直球だった。バッターは空振りし、あえなく三振というはめになった。
「いったい、なにが魔球なんだ?」
ぼくがいぶかしげに首をかしげるのをみて、母親が、
「ちょうど息子が家にいるので、魔球を投げさせましょうか」
そしておくにむかって、カンちゃんとよんだ。
まっくろに日焼けしたカンちゃんが、ぼくたちのまえにあらわれた。
「この人たちに、魔球をみせてあげて」
カンちゃんはうなずくと、その場で投球フォームをとりはじめた。
こんな室内でと、困惑するぼくの目のまえで、いきなりカンちゃんが笑った。
それにはぼくもはん子もおもわずつられて笑顔になるほど、じつに楽しそうな笑いだった。
「これが息子の魔球です」
母親の言葉に、ぼくはぽかんとなった。
「これって………なんのことですか?」
「カンちゃんが笑うのをみたでしょ。どんな闘志まんまんの打ち気にはやるバッターでも、あの屈託のない笑顔をみたとたん、打ち気をなくしてしまうのですよ」
ぼくとはん子は、打ち気ではなく、言葉をなくしてだまりこんでしまった。

帰りの道で、ぼくははん子にいった。
「相手のバッターが打ち気をなくすんだから、魔球といえば魔球か」
「試合中に笑ってはいけないというルールはないんだから、いいんじゃない」
ぼくたちは、つぎの予選試合を、母親といっしょに観戦することになっていた。
結果からいうと、その試合で彼のチームは敗北した。
彼のチームが最初に1点いれて、9回目までその1点をまもりつづけたが、最終回ツーアウトをとってから満塁になった。ラストバッターをツーストライクまで追い込んだカンちゃんが、ここぞとばかり例の魔球でしとめようとした。
だが、彼の投げた球を、相手はみごと打ち返し、2点がはいって逆転負けとなった。
「わたしみてたわ」
はん子がいったあとに、ぼくもまた、
「彼が笑うのは、たしかにみたけどな。なぜか相手は、打ち気をそがれなかったようだ」」
「そのとき、相手のバッターもまた笑ったの。しかも、カンちゃん以上に明るく楽しげにね。きっとそれをみてカンちゃん、気がぬけちゃってボールをもつ手に力がはいらなかったんだわ。やる気をそがれたのは、彼のほうだったのよ」
「相手のチームも、研究したんだね。魔球封じというわけか」
ぼくたちは顔をみあわせ、さてどうしようかとまよったが、やっぱり最後は笑いでしめくくることにした。





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このストーリーに関するコメント

12/07/26 デーオ

面白かった。やはり、どこかで見たような作り物の安っぽい感動作よりも
面白い作品がいい。

12/07/27 W・アーム・スープレックス

デーオさん、ありがとうございます。
素直に感謝しておきます。

12/07/27 汐月夜空

負けて憤っているときに、笑われて腹が立たないほど満面の笑みなんだろうなあと思うと、確かに魔球と言ってもいいのかもと思いました。
ところどころバッターがピッチャーになってたりと誤字が目に入りましたが、面白く読ませていただきました。
魔球封じから、最後の締めまで発想が素晴らしいですね。

12/07/27 W・アーム・スープレックス

汐月夜空さん、ありがとうございます。
ご指摘のとおり、最近自作に誤字の多さが目立ち、反省しています。あわてんぼうで、おっちょこちょいの性格のせいかと思ったりしますが、いっさいの言い訳はいたしません。作品がすべてですから。

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