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るうねさん

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三豚志

15/04/28 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:2件 るうね 閲覧数:1505

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 狼国の斥候部隊を撃退した英雄、三匹の子豚はいま、敵味方に分かれて争っていた。
 原因は、三男であるウ・ピッグの増長にあった。煉瓦の城を建て、狼国の斥候部隊を撃退する立役者となったウは、その手柄を背景に権力の中枢へと手を伸ばし、長兄のブ・ピッグと次兄のフ・ピッグを軽んじるようになったのである。
 これに、ブとフは反発。自分たちに付き従う者たちを連れ、豚国の地方都市にて反乱を起こした。だが、これはウの思惑通りの行動だった。ウはすぐさま兵を率いて、反乱軍の鎮圧に向かった。そして、その智謀でさんざんに長兄と次兄の軍を打ち負かしたのである。
 すでに、長兄のブは行方知れず。次兄のフも、自軍の本拠地を囲まれ、絶体絶命の窮地にあった。


「ウからの使者だと」
 部下の報告を聞いて、フは椅子から腰を浮かせた。
「は」
 部下は頭を垂れたまま、
「降伏の勧告に」
「降伏だと。馬鹿げたことを」
 吐き捨てるように、フは言った。
「もともと我々を反乱させるまでに追いつめたのは、奴ではないか」
「しかし、敵は煉瓦を利用した兵器を数多く揃えております。このままでは……」
「無下に追い返すことはできんか」
 フは舌を打ち、
「仕方ない、会うだけは会おう」
 そう言って、使者を連れて来させた。
 使者は形だけは慇懃に礼を取って、口を開いた。
「フ様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
「前口上はいい。用件だけを述べよ」
「されば」
 使者は顔を上げ、
「ウ様からの伝言に御座います。降伏すれば、命だけは助ける、と」
「命だけ、か」
 フの口元が自嘲気味に歪む。
 ウが命だけ、と言ったら、本当に命だけ、なのだろう。後には、希望も尊厳もない惨めな未来が待っているに違いない。
「どうされますかな」
 使者は言う。
 フはわずかの間、瞑目し、
「こやつを斬れ」
 と命じた。
 使者は表情一つ変えなかった。覚悟はしていたのだろう。ただ一言、
「愚かな……」
 とつぶやく声が、フの耳まで届いた。


 城門の上に掲げられた使者の首を見て、ウはつぶやいた。
「我が温情を仇で返すか」
 むろん内心ではほくそ笑んでいる。これで、フを殺す大義名分はできた。やはり、血を分けた兄弟を躊躇なく殺せば世評が悪くなる。
「よし、一気に攻め込むぞ。投石機を前に出せ」
 正確には、石ではなく煉瓦を投擲する兵器である。木でできたフの城など、たやすく破壊できるだろう。
 と、その時。
「う、ウ様!」
 側近の一人が慌てた声を上げる。
「どうした!」
「う、後ろから土煙が!」
 見ると、軍の背後に土煙が上がっている。その土煙は少しずつこちらに近づいてきていた。
 その正体に気付いたウは戦慄とともに叫ぶ。
「狼軍だと!?」
 なぜだ。
 ウは考える。
 なぜ、いま狼軍が動いた?
 斥候部隊を撃退した後、国中に潜んでいた狼国の間諜を徹底的に洗い出して、これを処刑してきた。現在、この豚国が内乱状態にあることは狼国では掴んでいないはずだ。
 もう一度、土煙を透かして狼軍を観察したウは、その先頭に豚がいることに気づいた。
 あれは――。
「ブ兄さん!」
 行方知れずになっていた長兄である。
「馬鹿な! 狼国に救援を求めたのか?」
 それしか考えられなかった。
「豚としての誇りまで忘れたか、兄さん!」
 叫んでも、もう遅い。
 狼軍は、文字通り餓狼のごとく、ウの軍に突っ込んできた。精強な狼軍の前に、ウ軍は砂の城のように崩されていく。
「狼軍を豚国に入れれば、待っているのは滅びの道ぞ!」
 しょせんは一時的な協力関係。それが終われば、狼軍が牙を向いてくるのは目に見えている。そうなったら、豚国は終わりだ。
 一直線にウに向かってブが駆けてくる。その目が血走っている。すでに正気ではない。
 さらに、城からフ軍も出撃してきた。その先頭には、次兄のフ。

『我ら生まれし時は違えども』

 脳裏にかつて桃園で誓った言葉が思い出される。

『死す時は同じ日同じ時を願わん!』

 そうか。
 ウはうっすらと笑う。
 我らの絆はすでに失われたが、あの誓いは、あの桃園の誓いだけはまだ活きていたということか。
 ウはしばし瞑目した後、空を見上げた。
 血煙と土煙に太陽が陰っている。
 ウの目尻から、一粒だけ涙がこぼれ落ちた。


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このストーリーに関するコメント

15/05/06 光石七

拝読しました。
策略とか駆け引きとか、まさに三国志の雰囲気ですね。
登場人物は豚のはずなのですが、それぞれが魅力的な武将に思えてきます。
読み進めるうちに、渋くカッコいい豚武将の絵が脳内で動くようになりました(笑)
面白かったです。

15/05/07 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

三匹の子豚→三国志、という発想は安直かな、とも思ったのですが、安直なのが私の作品のウリだしな! と開き直った結果、こうなりました。
映像を意識して書いたので、脳内で動くようになったというコメントが嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました。

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