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そらの珊瑚さん

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ピグオとブヒエッタ

15/04/26 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:8件 そらの珊瑚 閲覧数:2140

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 あなたは豚の国のカーストはご存知だろうか? ええ、三角形の身分制度のことです。

 ピラミッドの一番上はリトルピーと呼ばれている支配級。
 童話「三匹の子豚」で、レンガを積み上げた頑丈な家を作ったとされる、お利口な一番末の弟豚の末裔である。
 首都に住み、レンガ工場を始め、この国の経済界も担っている。強固な砦に守られているので、狼族の餌になる心配はない。

 その下はミッドピー。
 木の家を作ったとされる次男豚の末裔である。
 森林に住み、今でも木の家に住んでいる。狼の住む地に近いので、武器を持ち、豚軍隊を組織している。鍛え抜かれた豚には思えないその筋肉は、狼からも恐れられている。

 最下層は、ビッグピー。
 わらの家を作った長男豚の末裔。
 農民である。稲を刈ったあとのわらを編んだだけの小さな家に住んでいる。狼族の餌になることはよくあるが、新聞の三面記事にもならない。

 ピグオは、リトルピーの家に生まれた。父は豚王だったので、皇太子でもあった。

 一方ビッグピーの貧しい家に生まれたブヒエッタは、数年前、首都に出稼ぎに来ていた。たぐいまれなその美貌よって、すぐに芸能事務所にスカウトされ、今は映画女優の道を歩んでいる。二匹は、とあるパーティーで出会い、惹かれ合い、恋に落ちた。

 身分を越えた結婚は、豚の国では原則として認められていない。
 が、どうしてもという場合は、高い身分の方が、それを捨てなければならない決まりだった。
 つまり、王子が彼女と結婚したければ、王子という冠とリトルピーを捨て、ビッグピー、つまり農民になることを意味していた。

 ◇

「おお、ピグオ、あなたはなぜピグオなの?」

 涙を浮かべたブヒエッタは、そう言ってピグオの胸に顔をうずめた。
 ――愛する人と一緒になりたい。けれど、そのために彼が支払う代償は、とてつもなく大きいもの。そう考えると自分はこのまま身を引いた方がいいのではとも思う。
 現にブヒエッタのTwitterは炎上していた。『田舎へ帰れ』『身の程知らずのメス豚』『ビッグピーのくせに生意気』、彼女に対する心無い非難のツイートが連日書き込まれている。

「私たち、やっぱり別れた方がいいんじゃないかしら」
「そんなの嫌だ。僕は全てを捨てても君と一緒になるつもりだよ」
「ありがとう、ピグオ。嬉しいわ。でも、いつかきっとあなたは後悔する時が来るのじゃないかしら。あのとき、やっぱり別れていれば、と、あなたが思う日が来るような気がして仕方ないの」
 愛とは決して後悔しないもの。もしピグオが後悔する日が訪れたなら、自分たちの愛は幻想であったと烙印を押されてしまうのではないか、ブヒエッタはそれをあやぶみ、不安になった。
「いや、そんなこと、断じてない。誓うよ。何があっても後悔しない」
 二人は蹄に蹄をとりあって、ブヒエッタの故郷へ旅立っていった。

 それに際して豚王は、翡翠で出来た極上の宝石を息子に送った。それはネックレスであり、中央に『玉』という字が彫ってある。将来生活に困ることがあれば高値で売れるであろうという親心と、息子が継承することのなかった玉座のせめてものしるしだった。

幸い、ピグオには弟がいたので、王位を継ぐ者がいた。世間で『世紀の恋』と騒がれたのは束の間、いつしかそんなことも豚民の脳裏から忘れ去られていった。

 ◇

 ピグオは幸せだった。
 わらの家は粗末であったが、夜になればその隙間から満点の星が見える。生まれ育った都会では味わえないものが、ここにはあった。傍らにはブヒエッタと彼女が産んだ子どもたちが眠る。貧乏ではあったが、一生懸命汗水垂らして働いてきたので、父からの贈りもののネックレスも売ることなく生きてきた。
 
 しかしそんな穏やかな幸せは長くは続かなかった。
 ある日、狼の襲来があった。土砂崩れで森が崩壊し、豚軍は壊滅状態になってしまったのだ。
 次々と吹き飛ばされる、わらの家。殺戮。悲鳴。血飛沫が水田を染める。

 ピグオはブヒエッタに、僕はここに残って時間稼ぎをするから、子ども達を連れて森へ逃げるように言う。
 涙ぐみ、あなたを置いていくことなど出来ないと、ためらう妻に叫ぶ。

「全てを捨てて君と一緒になった時から、僕には、食べられる覚悟は出来ていたのだ!」

 ピグオの太い首にかけられたネックレスが、不条理という光を受けて輝く。

 豚、玉。



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このストーリーに関するコメント

15/04/26 そらの珊瑚

画像は「SWITCH BOX」さまよりお借りしました。

15/05/02 ドーナツ

拝読しました。

三匹の子豚の鼻h氏に こんな面白い続編があったのか!!(笑

ロミオとジュリエットのパロディーも入っていて セリフにニヤリです。
豚はやはり豚、えらいさんになっても 末路はやはり豚の人生になってしまうんだなとちょっとペーソスっぽいものを感じさせるラストもいいですね。

15/05/04 草愛やし美

えっ、そのオチ。苦笑しましたわ、そらの珊瑚さん。ロミオとジュリエッタの豚版だとばかり思ってましたが、この顛末だったとは。玉がそこにいくなんて面白すぎます。
私は大阪に住んでいますので、受けまくりです。ああ、食べたくなりました、明日あたり行こうかしらお好み焼き。笑

15/05/06 光石七

拝読しました。
身分を超えた美しい愛、愛する者のためには自己犠牲もいとわない真の愛の物語……のはずなのに、すみません、笑ってしまいました。
ネーミングといい、ロミオとジュリエットのパロディといい、ラストといい、最高です。
文句なく楽しめました。ありがとうございます。

15/05/09 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

豚の世界の純愛物語、シェイクスピアもあっと驚くお話でした。
「愛とは決して後悔しないもの。」など、純愛ストーリーが織り交ぜられていて
楽しめました♪

最後の 豚、玉。

と、いう言葉にお好み焼きを想像したのは、この私だけでしょうか(笑)

15/05/10 そらの珊瑚

>ドーナツさん、ありがとうございます。
面白いと言っていただけてよかったです。
「三匹の子豚」というテーマは、どのようにアプローチしたらよいか
思いつかず、難しかったです。

>草藍さん、ありがとうございます。
このラストは王子という設定を考えたときに思いついたものでして、
読者のみなさまに伝わるかどうか内心心配だったので、
そう言っていただき、ほっとしました。

>志水孝敏さん、ありがとうございます。
とりあえず設定だけ思いつき、書いてみたらこんなかんじになりました。
そのギャグ、作者としては結構気に入ってます(笑い)

>光石七さん、ありがとうございます。
笑っていただけたなんて最高の褒め言葉です。
喜劇として、なんとか成立したようでほっとしました。

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
関西人の方にはきっと気づいてもらえるだろうという
希望的観測のもと(笑い)こういうラストになりました。
私も楽しんで書く事ができました。


15/05/11 鮎風 遊

えっ、豚玉?
いつもお世話になってる玉ですがな。
不条理より、あおのりが輝いてます。

面白かったです。

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