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彼女と俺の汽水域

15/04/22 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:6件 るうね 閲覧数:1578

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 汽水域≠ニいう言葉を知っているだろうか。
 簡単に言えば、川の水と海の水が混じり合うところのことである。
 淡水魚は汽水域より海の側には行けないし、その逆もまた然り。
 そんな境界線。


「……田村?」
「え」
 俺の呆然としたつぶやきに、サングラスの少女が視線を上げる。
「さ、相良……」
「お前、何やってんだ、こんなとこで」
 こんなところ。
 コミケ。
 コミックマーケット。
 日本最大の同人誌即売会。
 オタクの祭典。
 そんな中で、俺と田村れいあは出会った。
 意外と言えば、こんな意外なことはない。れいあは、いわゆるギャル。オタク用語で言えば、ビッチだ。それが、コミケで売り子をしている。
 いきなり、れいあがぐりんっ! と顔をそむけた。
「ど、どちら様デスカ?」
「いや、語尾がカタカナになってるから」
 それ以前に、さっき俺の名前を呼んだだろうが。
「どうして、こんなところにいるんだ?」
「そ、それは……友達に頼まれて売り子を」
「見たところ、お前一人しかいないみたいだけど」
「友達はトイレに」
「やーっは、ごめん、れいあ。今日は掘り出し物が多くてさー」
 そこに帰ってきた友達。
「ほら、あんたも買いたい物あるんでしょ。行ってきなさいよ」
「いや、あの、わたしは」
 その時、膝の上に置いていたのであろうコミケのカタログが床に落ちた。
 うお、すげー。赤ペンでチェックしまくり。付箋とかもばりばり貼ってある。
「……田村」
「こ、これは、これは」
 すでにれいあは涙目になっていた。


「絶対、言わないでよね。特にクラスのみんなには」
「へーへー」
「ほんとに、絶対だからね」
「分かったって」
 つか、もう行っていいかな。俺も買いたい物あるんだけど。たくさん。
「……ふーん」
「あんだよ」
 れいあは、まじまじと俺を見つめてくる。
「ちょっと意外。相良、こういうネタ握ったら、いろいろと暗めの要求してきそうなタイプだと思ってた」
 どんなイメージなんだよ。
「ありがとね」
 そう言って、れいあはにこりと笑う。
 ……ふん、ちょっとかわいいと思っちまった。俺、三次元なんかに興味ないのに。


 それから、たびたびれいあとは同人誌即売会で遭遇した。
 むろん、クラスでは言葉を交わすどころか目も合わさない。オタクである俺とギャルであるれいあに、本来は接点などないのだ。いわば、淡水魚と海水魚。同人誌即売会は汽水域みたいなもんだ。


 そんなある日、事件は起こった。
 れいあが鞄に入れていた同人誌を、彼女の友達が見つけてしまったのである。しかもBL系のどぎついの。
「なに、れいあ、こんなもん見てんの?」
「あ、あのね、それはさ」
「ひゅー、れいあって、ホモ好きなんだ?」
 ま、こうなるよな。
 趣味なんて、隠して隠しきれるもんじゃねぇんだ。いっそ、ばれちまった方がすっきりしていい。俺みたいに。
 だから。
 だからさ。
 そんな泣きそうな目で、こっちを見るなよ。
「あー、すまん」
 俺は立ち上がって、言った。
「それ、俺のなんだわ。ちょっとしたいたずらで、田村の鞄の中に入れといたんだ」
「んだ、オタッキーのかよ」
 馬鹿にしたように、れいあのギャル友が言う。
「オタクの上にホモなんだ?」
「うわー、引くわー」
「はいはい、俺はオタクでホモですよ。ほら、オタクが移るぞー」
 そう言って、両手を上げて近づいていくと、ギャルたちは本気で嫌そうに離れていった。


 んで、その日の放課後。
 れいあに呼び出されて、体育館裏へ。
「んだよ」
「あ、あのね。ひ、昼間はありがとう」
「気にすんな。オタクの他に、ホモという称号が増えただけだ。大して変わらん」
「気にするよ!」
 唐突に、れいあは大声を出す。
「気に……するよ」
 双方、無言になる。
 どこか遠くから、部活動に励む連中の声が聞こえてくる。
 と、いきなりれいあがこちらに歩み寄ってきた。
「お、い」
 何を。
 そう問う前に、頬に柔らかな唇の感触。
「ありがとね、相良」
 そう言って、顔を赤らめたれいあは、駆け去っていった。
 ふむ。
 ったく。
「俺は三次元には興味ない、っつってんだろーが」
 つぶやいて、俺は頬を押さえた。
 自分も顔が赤くなっているのを自覚しながら。


 汽水域≠ニいう言葉を知っているだろうか。
 簡単に言えば、川の水と海の水が混じり合うところのことである。
 淡水魚は汽水域より海の側には行けないし、その逆もまた然り。
 そんな境界線。
 でも。
 実は、その境界線はひどく曖昧で。
 潮の満ち引きなんかで、すぐに崩れてしまう。
 まあ、そういうことだ。


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このストーリーに関するコメント

15/04/22 戸松有葉

三次に興味ないと言い張っているオタクは、要するに耐性ないからすぐバキューンですよね。ちょろイン。テーマ海でこういう使い方あったか、と関心しました。知識は広く持っておきたいです。

15/04/22 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

実は、汽水域という言葉は、私も最近知りました。川と海の水の混じり合う場所→普段は交わらない二人が混じり合う→オタと非オタ(この作品では厳密には非オタではないが)という発想でした。実際は、川と海の境界は河岸の両端を結んだ線らしいのですけどね。
お読みいただき、ありがとうございました。

15/04/29 汐月夜空

汽水域、いろいろな物語が考えられそうな言葉ですね。
オタク文化自体、さまざまな文化が混ざり合って出来た汽水域みたいなもので、今の世の中純粋に淡水や海水に区別できる文化の方が珍しいのかなって思います。
二人の距離が混じり合う表現が素敵だなあと思いました。

15/04/29 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

これほど社会がグローバル化してくると、たしかに純粋な文化というものは存在しないかもですね。
二人の距離の混じり合いの部分をもう少し詳細に書きたかったのですが、二〇〇〇文字では、これが限界でした。素敵と言っていただけて、嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました。

15/05/19 光石七

拝読しました。
まずタイトルがいいですね。二人がどういう関係なのか、興味を惹かれます。
オタ文化にはあまり馴染みが無いのですが、さらりと微笑ましく読めました。可愛いなあ、青春だなあ。
面白かったです。

15/05/20 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

汽水域、という馴染みのない言葉は、それだけに目を引きますよね。
私が恋愛ものを書くと、なんかかなりの確率で可愛らしいという評価をいただくので、なんというか照れます。
お読みいただき、ありがとうございました。

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