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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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海を行きかう工作員

15/04/21 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1074

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中朝国境の街、丹東に到着した阿久津忠彦は、カメラや洋服が詰まったバッグを背負ったまま、丹東中華国際旅行社に向かった。
中に入り、日本語が話せる中国人担当者から、北朝鮮ツアーの簡単な説明を聞いた後、3泊4日のツアー料金、13万5千円を人民元で支払って北朝鮮のビザが手渡された。
昼の12時10分、代理店の人間と一緒に丹東駅から平壌行の列車に乗り込んだ。
駅から少し走るとすぐに橋を渡り、橋を渡り終えるとそこは北朝鮮側の国境の街である新義州だった。
阿久津は車窓から見えるどこまでも続く田畑をカメラで撮影しようとカメラを構えた。
「ノー!ダメです。写真はここでは撮らないでください」同行している代理店の男が言った。
「ダメなんですか?」
「ダメです」
「少しくらいいいじゃないですか」
「北朝鮮の軍人に見つかったら連行されますよ。気を付けてください」
夕方5時過ぎ、真冬の北朝鮮の日没は早かった。ようやく北朝鮮の首都、平壌駅に到着すると念入りな手荷物検査を受けた。カメラは没収まではされなかったが、許可されている場所以外は撮影しないようにと、日本語で忠告された。
駅をでると、ガイドが2名と運転手が1名、それに専用の車が用意されていた。
「お待ちしておりました、阿久津様」
ガイドの1人が悠長な日本語で話しかけてきた。
「もう日が暮れてしまいましたので、観光は明日の8時から予定しております。本日は、これからお泊まりになるホテルにお送りさせて頂きます」
ガイドに従い、阿久津は用意されているホテルの部屋に向かった。
部屋に入りドアを閉める直前、ガイドから「勝手に部屋から出るのは控えてください」と言われた。
阿久津はベッドに腰掛けながら携帯電話から電話を掛けた。
「もしもし、社会部の阿久津です。佐々木編集長に繋いでもらえますか」
しばらくして「はい、佐々木です」と電話に出た。
「たった今、平壌に到着しました。もう日が暮れているのでガイドにホテルまで送ってもらったのですが、深夜に街に取材に出かけるつもりです」
「おう、頼むよ。来週発売の本誌の特集記事なんだから、北朝鮮の真実を暴いてくれよ」
「了解です。しかし編集長、北朝鮮はすごい所ですよ。平壌に到着するまで車窓からの風景を眺めていたのですが、見渡す限り痩せた大地が広がっていました」
「その光景、もちろん写真に収めたんだろう?」
「いえ、撮影できませんでした。中国人の代理人に撮影を遮られました」
「そこを何とか撮影するのが君の仕事だろう。頼むぜ、阿久津君」
「了解しました。何とかしてスクープ写真を撮って帰ります」
深夜0時、阿久津はホテルから外の街にカメラを持って出た。
平壌の街は、一見栄えているように見えるが、少し奥に進むとすぐに痩せた大地が広がっていた。阿久津はフラッシュを発光させながら次々に、その華やかに見える虚偽の街並みを撮影した。
フレームを覗きこんでいると、後ろから肩を叩かれ、朝鮮語で何か話しかけられ手錠をかけられた。

2週間が経過していた。阿久津は北朝鮮の収容所の中に収容されていた。
パク・ソルジュという軍人が、片言の日本語で話しかけてきた。
「ニガシテヤル」
「本当ですか?」
「カネ」
「金ならいくらでも払います。逃がしてください」
「カネハラエ」
「今は金を持っていません。でも日本に帰ったら必ず送ります」
「ヨシ、イイ。ツイテコイ」
鍵が開き、外に出られた。阿久津は走ってパク・ソルジュの後を急いで着いて行った。
港についた阿久津は、漁船に乗るようにパクから言われた。
「これに乗れば日本に帰れるんですか?」
「カエレル。ニホンニツイタラ、ワタシニハラウカネヲ、30マンエン、センチョウニワタセ」
「分かりました。必ずパクさんに払う30万円を、船長に預けます」
漁船は深夜の漁港から黒海に出航した。
漁船には船長の他に6人の乗組員が乗っていた。みな大きな体をしていて、漁師とは思えない風貌をしていた。
「皆さんは、何をされている人なんですか?」船長に尋ねた。
「死にたく無かったら、黙って乗っていろ。それとこのことを日本に帰って誰かに話したら、必ずオマエの命は無いと思え」
海は荒れていた。漁船は大波小波にたえず上下した。
翌日の深夜1時、漁船は秋田県の小さな街の砂浜まで近づき、ゴムボートで阿久津と船員は上陸した。
船長以外の6人の乗組員はそれぞれ走ってどこかに消えていった。
「パクさんに払う30万円をよこせ」
「今は無いです。でも必ず払います」
船長は阿久津の目を覗きこみながら「3日後の同じ時間にまたここに来るから、その時、必ず払え」と言った。
「分かりました。必ず払います」
「それと、今回のことを誰かに話したら、オマエの命は無いと思え」
船長は漁船で黒い海の中を、北朝鮮に向かって消えて行った。


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