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naruzoさん

性別 男性
将来の夢 ひとりでも多くの人に、その人の人生に影響を与えることのできる作品をつくること。 自分の作品が映像化、時代を超えて語り継がれる作品をつくること。
座右の銘 人は信念とともに若く。 疑惑とともに老いる。 人は自信とともに若く。 恐怖とともに老いる。 希望ある限り若く。 失望とともに老い朽ちる。

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思い思われ、振り振られ

15/04/20 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:0件 naruzo 閲覧数:935

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「 私には、あなたの面倒をみる労力も時間もありません。仮にあなたの為に労力があったとしても、あなたにも残された時間はありません」

 覇気のない老男とテーブルを挟んで座る年を老いた女。

「 それに、そもそもあなたを助けるという気持ちは毛頭にありません。また、裏切られるのが落ちですから」

 俯きながら話を聞く男に、老女は諭すように話す。
 老男は、か細い声でボソボソと話し始める。

「僕は君に助けを請うために会いに来たのではない。どうしていいかわからないから会いに来た。この先、どうしたらいいか……」
 
 老男は俯いて話す。

「私に会いに来られても困ります。正直言ってあなたの顔などもう二度と見たくなかったのです。でも、あなたがこうして目の前に現れたら、放って置くわけにはいきません。本当に自分自身、こんな性格が嫌になります。こんな性格があなたを駄目にしたかもしれませんから」

 老男は、はじめて顔を上げる。

「君は、悪くない。全部、自分が仕出かしたことだ。悪いのは僕だ」
はじめて目が合う2人。
「では、こうしましょう。そして、これで最後にしましょう」
「最後?」
「そう、最後。あなたがもう二度と助けを口実に私に会いに来ないように。それと私があなたに情をかけることがないように」
「何をして最後に」
「ここに毒があります。わたしが席を外しますので、どちらかの水に毒を入れて、そのどちらかの水を私の前に置いといて下さい」
「そんなことをできるはずが」
「して下さい。あなた、何処にも行くアテはないのですから。『あそこ』に戻るか、それとも死を選ぶか。どちらかにして下さい」

 老女の眼光に圧倒され、老男はゆっくりと頷く。

「でも、『あそこ』に戻るからには人様にご迷惑をお掛けしなければ戻れません。でも、人様にこれ以上ご迷惑をお掛けする訳にはいきません。従ってその罪を私にして下さい。もう、二度と『あそこ』から出てこれないくらいの重罪を私に犯して下さい」
「でも、僕が毒を飲んで死んだら、君が『あそこ』に行くことになるかもしれない」
「それもいいでしょう。あなたをないがしろにした罰として。あなたの妻であった責任として」

 老女は、にこやかに応える。
 老男は、微動だりせずに俯いたままである。

「そう深く考えずにこう考えましょう。たまたまテーブルの上に水と毒があっただけです。たまたまです。目の前にあった水をたまたま飲んだだけ。あなたと出会ったのもたまたま。世の中は、運命という言葉で言われてますけど」

 老女は、立ち上がり歩き出す。
 老男は、老女を見届け、毒の入った袋を手にし水の入ったコップを2つ並べる。そして、コップを交互に見つめる。




 老女が戻ってくる。老女の前にはコップが置いてある。老男の前にもコップが置いてある。
 老女は、目の前のコップを手にする。
 固唾をのむ老男。
 老女は、口元まで運んだコップを下に置く。
「やっぱり、あなたの水を飲んでいいですか?」

 老男は、何も答えずにコップを見つめる。

「駄目ですか?」
「やめておいたほうがいい」
「それはどういう意味ですか?」
「……」
「ごめんなさい。こんなことを聞いたら反則ですよね」

 老女は、老男の目の前のコップをのむ。

「どんな駄目な夫でも先立たれるのは嫌ですからね」

 老女には、何の変化も見られない。
 老女は、怒りを通り越して悲しみに溢れた顔して老男を見つめる。

「あなた……私のコップに入れたのね」
「すまないね……」

 老男は、ゆっくりと老女の目の前のコップを手にする。

「やめて!」

 老女は、老男からコップを奪い取ろうとするが、老男は老女の手を払いのけ水を飲み干す。

「きっと僕の水を飲んでくれると思った。嬉しいよ。最後の最後まで僕を思って、信じてくれて」
 
 老男は、眠るようにテーブルの上に倒れる。


 END


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