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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
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トラブルメーカー

15/04/11 コンテスト(テーマ):リレー小説 【 相談屋ケイジロウ 〜新宿編 @】 コメント:3件 冬垣ひなた 閲覧数:1150

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ここは新宿歌舞伎町。まだネオンには早い時間帯に、瑠花は雑居ビルの狭い階段を上って行く。この界隈に似つかわしくないセーラー服姿の純正美少女は、自分の足音に重なるもう一つの足音を耳に留めていた。

「……そういうことならな、まず箸の納入業者を押えておけよ」
事務所兼自宅の扉の向こうから、ケイジロウの声が聞こえる。
「マルサはそこから実際の客数を割り出し、売り上げを計算にかかる。内偵に入られる前に業者に金を掴ませておけ、いいな。裏帳簿は……」
カチャッとドアが開く。
「ただいま」
狭いオフィスのソファーの長椅子の上で、男と女がもつれている。服を着ているのは幸いだ。そんな様子をジト目で見ながら、瑠花はもう一度言った。
「ただいま、パパ」
これから店なのだろう、明るいスーツを着た女は慌てたようにソファーを離れ、足早に瑠花の横を通り過ぎる。
「また後で連絡する」
女の背に声をかけたのと、ドアの閉まる音は同時ぐらいだった。
それから起きあがった男は、乱れたシャツをなおすでもなく、今目覚めたばかりのようにボーっとした表情で、煙草に火をつけ紫煙をくゆらせた。
『相談屋』、新宿支部のケイジロウ。
東京の表でも裏でも、組織に与する者なら名を知らぬものはあるまい。この男に相談すれば戦車でも手に入る、そんな都市伝説じみた話も存在する。もう40過ぎになるが生きた彫像のようなその容色は衰える気配はない。父ながら惚れ惚れする男ぶりだが、漁色家としても有名だった。
「早かったな。そういや、さっき大きな音がしたが……」
瑠花はため息をつく。
「つけられてたの。ナイフ見せたら、驚いて勝手に階段から落ちていったけど」
「『掃除屋』を呼ぶか?」
「気絶してただけだから大丈夫、怪我もしてなさそうだったし。さっきの依頼人のオトコよ、きっと。女の人が絡むと、いつもこうなんだから」
そういえばこの前は60前の熟女だったっけ。高校生にもなったら父の背に追いつくかと思ったが、ますます父が分らなくなるだけだった。

回想開始。
『パパ、すごぉーい!』
何も知らなかったあの頃、100%非合法な地下の射撃場で、イヤーマフを装着した瑠花は無邪気にはしゃいだものだ。
緻密な動きで、シリンダーを振り出して排莢し弾丸を装填すること約2秒。ケイジロウが触れた冷たい鉄の塊に、命が宿って狂気を帯びる。装弾数5発の回転式拳銃で連射し、正確無比に5つの的を撃ち抜くハンサム・ガイのそばで、チンピラ達が顔面蒼白で震えていた。
『警察をクソ呼ばわりするのは構わん、だがニューナンブを馬鹿にするな』
硝煙の残る銃口を向け、ケイジロウが冷徹な眼光を向けるとチンピラは這うようにして逃げ出した。
『ママっ!』
そうあの頃はまだ瑠花を抱きしめてくれるママがいた。その美貌と手管から歌舞伎町の女帝といわれたものだ。ママは瑠花が9つの時病で亡くなったが、最後までその手を握って離さなかった。
『瑠花……大きくなったら……伝説に残るNo.1のホステスになるのよ……東京を、牛耳りなさい……』
『うん、わかったよ。るか、とうきょうをぎゅうじるよ』
……回想終了。

本格的に東京を牛耳るには、政財界の人脈と豊かな教養が必要だ。瑠花が意気込んで無菌培養のお嬢様学校に転入した頃も、ケイジロウはまだママの死から立ち直れずにいるようだった。3年の喪が過ぎるまでは聖人君子のように穏やかだったから、瑠花もあまりとやかくは言わないが、きちんとパートナーを持ってほしいものだ、と思う。

……奥にあるキッチンでつつがなく夕食が終わった所で、瑠花はケイジロウの前で姿勢を正した。
「ところで、パパに折り入って相談があるんだけど」
「小遣いのアップならこの前した所だろう?」
「そうじゃない。仕事の方の『相談』」
瑠花は一枚の写真を取りだした。重厚な和室で華のある着物を身に包んだ瑠花が写っていて、その隣にもう一人少女が写っている。
「小野屋マチ、学校でやってる日舞の後輩なんだけど。今、精神病院にいる」
「国会議員の小野屋の娘?」
瑠花は頷いた。
「援交に脱法ドラッグ、進んでそんな事をする子じゃないのは分かってる。だから会って来た。彼女には妹がいるの、それで脅されて無理やり」
「父親がらみのスキャンダル捏造か」
「許せないよ、こんなの」
ケイジロウは黙って煙草に火をつける。
「事が明るみに出ない所を見ると、父親を傀儡にする気だな。利権に寄生して金を吸い続ける」
「パパ」
瑠花は父親譲りの眉根をキッと上げる。
「お願い。相談料はローンにして」
やれやれ、とケイジロウは首を竦めた。

眠らない街にネオンが灯り、男の中にある混沌とした正邪の深淵を照らす。
『トラブルメーカー』、その二つ名を持つ新宿の相談屋は、新たな依頼を抱え、まだ肌寒い夜の中へと消えてゆくのだった。


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このストーリーに関するコメント

15/04/11 冬垣ひなた

<補足説明>

画像の写真は「東京発フリー写真素材集」さまからお借りしました。
(http://www.shihei.com/free01/attention01.html)

15/04/15 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

新宿というイメージぴったりの相談屋ですね。
事件のゆくえがとっても気になります。

15/04/20 冬垣ひなた

そらの珊瑚さま

コメントありがとうございます

自分の新宿のイメージは暗黒小説寄りですね。
昔、歌舞伎町でスリに遭いましたが、今は治安ましなのでしょうか。
リレー小説の長さが分らないので、2、3回でも回収できるよう、
事件まで入れ込んでみました。続かなくても完結はさせる予定です。

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