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冠さん

初めまして、冠(カンムリ)と申します。 ファンタジーものが大好きな主婦でございます。拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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彼がのこしたもの。

15/04/10 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:0件  閲覧数:969

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彼はいってしまった。真っ白なテーブルの上に、一輪の赤薔薇と、一通の手紙をのこして。

半年ほど前から、恋人である彼は可笑しかった。私が部屋に行くたびに、ある時はモンブランとコーヒーを。ある時は白い花を。またある時は犬のぬいぐるみを目の前に置いて、にっこりと私に笑い掛けるのだ。端から見れば普通だろうが、私はモンブランより苺のショートケーキが好きだし、コーヒーは苦くて飲めない。白より赤い花が好きだし、犬はアレルギーだから断然猫派だ。

付き合ってもう五年にもなるが、今までこんなことは無かった。それが、半年ほど前からいきなりこんな調子なのだ。初めは嫌がらせかと思ったが、彼は誠実で優しい。恐らくそんなことはしないと思う。と言うよりは、出来ないと思う。



彼の行動には謎が多すぎたが、それすら考えられなくなるほど、私の日常は忙しくなった。彼との連絡のやり取りも出来ておらず、気付けば、彼が可笑しくなってから一年が経っていた。そんな時、私の携帯に着信があった。彼からだ。しかし相手の声は彼ではなく、彼の母親から。面識も無かったから、声を聞くのも話をするのも初めてで緊張したが、そんなものは、彼女の一言で一瞬にして吹き飛んだ。



『 実は昨日、 が した。』

「っ…」

私は走った。人混みを掻き分けて、歩行者信号も無視して。そして建物に入るや否や、彼を探した。いや、正確には彼がいた部屋。私は走って走って、ついに見付けた。乱れた息を整えることもせず、勢い良くその扉を開く。 そこは、真っ白な空間。他に誰もいない。ベッドも綺麗に片付けられていて、そこにあったのは、テーブルの上に置かれた一輪の赤薔薇と、一通の手紙。私は封を切り、手紙に目を通す。するとみるみるうちに、私の目からは涙が零れた。



彼は重い病に掛かり、医師に余命半年、もって一年と宣告されていた。だから私の幸せの為に別れることを決意したそうだが、私が傷付くことを恐れ、わざと嫌いなものを差し出すことで、自分を嫌ってくれればと思ったようだ。



「そんなんで、嫌いになれる訳ないじゃない。不器用なやつ…、本当、馬鹿…っ」



彼は逝ってしまった。真っ白なテーブルの上に、愛と、優しさを遺して。


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