1. トップページ
  2. ゆえんしん、だ、じょーず

小李ちさとさん

面白いと思ったことだけをやりたいのです。 space a:kumoというくくりで、ごそごそ活動しています。

性別 女性
将来の夢 砂漠で死ぬこと。
座右の銘 おれが おれがの がを すてて おかげ おかげの げで くらせ

投稿済みの作品

2

ゆえんしん、だ、じょーず

15/04/10 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:4件 小李ちさと 閲覧数:1073

この作品を評価する

低いテーブルの上、煙草とライター。私一人の時にはない物だ。ライターの主は向かいのクッションに胡坐をかいて、横を向いたまま手元の本に目を落としている。
「うお よう いーじゃん ゆえんしん だ じょーず」
とんとんと、煙草の灰を落とす。マッチまみれになった私の灰皿に、見慣れない物が増える。うお よう いーじゃん ゆえんしん だ じょーず。歌を歌っているような、穏やかな上がり下がり。ゆっくりおっとり紡がれる、たどたどしい異国の言語。
「…今のは、何て言ったの?」
「ん?今のは、えーと、『私は丸い形のテーブルをひとつ持っています』って意味」
「丸いテーブル?丸いテーブルって、ある?」
「普通にあるでしょ。ほら、『アーサー王と円卓の騎士』」
「あ、ほんとだ。そっかそっか、ちゃぶ台とかそうだ」
「一気に庶民的になったな」
彼は楽しそうに笑って、ふーっと煙を吐き出した。煙草は嫌いだけど、煙草を吸っているこの人の息遣いは好きだ。
「ちゃぶ台、俺の家にはなかったなぁ」
「私んちにはあったよ。私が生まれた時、お父さんがいきなり買って来たんだって。赤ちゃんが角で頭ぶつけたら大変だからって」
「愛されてるなぁお前。いいお父さんじゃん」
「うん」
今でも好き勝手にやらせてくれる、それどころか応援してくれている、大好きなお父さんとお母さん。私は守られて育った。だから弱っちい。
手元のマッチを擦った。即座に吹き消した。
「今、何で点けたの」
もったいない、と笑い交じりに彼が言う。
「なんとなく。無意味に」
テーブルに顎を乗せて、ゆっくりと瞬きをした。彼がもう一度、言葉を紡ぐ。うお よう いーじゃん ゆえんしん だ じょーず。私は丸い形のテーブルをひとつ持っています。勉強の途中なのに話しかければきちんと答えてくれるこの人が、好きだ。
「……ちゃぶ台にさ、乗るのが好きだったんだ」
「ん?子どもの頃?」
緩やかな煙。呼吸の音。好きだ。
「テーブルの上に乗ってね、よく歌ってた。ねぇ、お菓子コーナーで売ってるマイク、分かる?中にラムネが入ってるやつ。ピンクと黄色と水色と、その日の気分で好きなの選んで、覚えた歌を片っ端から歌うんだよ。ジャニーズから演歌まで。歌詞も音程もめちゃくちゃで、意味なんてなーんにも分かってないんだけど。暇さえあれば歌うんだよ」
「テーブルの上で」
「そう。テーブルの上で」
「何て言うか、清く正しい女の子、だね」
そういう子はいっぱいいるんだろうな、うちは男しかいないから分かんないけど。そう呟いて彼は、短くなった煙草を灰皿に置いた。私のマッチの隣。細いのと、もっと細いのが並ぶ。
「あれが私の最高のステージだったな」
「テーブルの上が?公園で、あんなにファンに囲まれて歌ってたじゃん」
「あれは…何か、戦闘だった」
楽しくなかったわけじゃない。充実してたし、成長したし、輝いてる気がして嬉しかった。応援してくれる人もいて、満足感もあった。でも同じくらい、怖かった。ふとした瞬間にものすごく怖くなって、不安でしょうがなくて、どうしようもなかった。
「俺はお前の歌、好きだよ」
「…ありがとう」
「でっかいステージ、乗せてやりたかったって思う」
「……うん」
「…それを見たかったってのも、ちょっとはある」
「うん」
彼はふいに黙った。だから私が行った。
「ねぇ、さっきの、もっかい言って。ゆっくり」
「うお よう いーじゃん ゆえんしん だ じょーず」
「うお よう、いーじゃん、ゆえんしん、だ、じょーず」
「お前が言うと歌みたいだ」
笑った彼が、新しい煙草に火をつける。
「あなたが言っても、歌みたいだけど」
「そう?お前に似てきたかな」
嬉しそうに言う両目が嬉しい。
「お前の歌、好きだよ」
「……ありがとう」
何で2回も言うのか分からない。くすぐったくて照れくさい。
「歌ってよ。今度。テーブルの上でいいから」
「それなら、いいよ」
「ね。ちゃぶ台買おうか」
「どこに置くの」
「んー?新しい家とか?」
「は?」
「お前が歌って、そのうち子どもが歌って。一緒に歌ったりして。楽しそうじゃない?」
「そんな稼ぎないじゃん」
「だから今 勉強してるんじゃん。ほら。うお よう いーじゃん ゆえんしん だ じょーず」
「そうだよ。中国行っちゃうんでしょ、1年も。そんなに長々行っちゃうくせに、何それ」
「待っててくれないの?」
「待ってて欲しいの?」
「うん」
「……じゃあ、待ってる」
恥かしくなって、目をそらした。でも彼が笑っているのはよく分かる。かなわない。
「ちゃぶ台選んで、待っててよ」
「山のように選んでやるわ」
「上等。山のように買ってやるよ」
「え、そんなにいらない」
笑った私に、彼も笑った。
テーブルの上の煙草とライターが当たり前になる日も、きっとそう遠くない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/04/21 光石七

拝読しました。
もしかして、主人公はテーマ「渋谷」のお話のアイドルグループのメンバーでしょうか?(違っていたらすみません)
会話がとても自然で読みやすく、最後は二人の未来にこちらも笑顔になってしまいました。
素敵なお話をありがとうございます。

15/04/24 小李ちさと

光石七さま

お返事遅くなってしまいました、お読みいただきありがとうございます。

そしてそして、気付いていただけて嬉しい!
そうなのです、渋谷で泣きながら踊っていたあの子です。
一度光ることを終えた人間が、また光るのは難しいのですが
それでもやっぱり彼女には光って欲しい、と思って
このようなお話になりました。

私はどうも会話で進める癖があるようで、
実はそういうところ、コンプレックスなのです。
だけど会話が自然で読みやすい、と言っていただけると
これにも いいところもあるのかなと思えました。
いつも嬉しいコメントをありがとうございます!

15/04/28 小李ちさと

志水孝敏さま

コメントありがとうございます。
ぼーっとしている時って、いろんなことに意識がいくので
思ってもいないものが目に入ったり、
忘れていた事すら忘れていたことを思い出したり、しますよね。
きっとそういう状態なんだろうなと、志水さまのコメントを拝読して気付きました。笑。

2人しかいない世界の静かさと優しさを大事にしたかったので、
そこを拾っていただけたことが とても嬉しいです!
ありがとうございます。

ログイン