1. トップページ
  2. 遠花火

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

1

遠花火

12/07/21 コンテスト(テーマ):【 花火大会(花火) 】 コメント:11件 そらの珊瑚 閲覧数:2183

この作品を評価する

 大磯の松林を過ぎ小田原に入る頃から渋滞が始まった。ここ東海道は三人にとって思い入れのある道だった。文句を言いながらも終わってしまった恋の道をもう一度たどるようなどこか切なさもあった。
「結局一度も箱根駅伝、出れなかったね」
「しょうがないさ、世の中には努力しても報われないことの方が多いし」
 藍はそんな風に言う早川が内心今でも悔しいと思っているのではないかと感じていた。
「そういえば、二年生の時、早川君ってば疲労骨折で予選会に出れなかったよね」
 からかうように藍が言う。
「マラソンバカって言いたいのか。ああそうだよ、がむしゃらに努力しかできない大馬鹿者だよ、俺は」
 藍のちょっとした一言につっかかる早川。二人の会話に、大学時代から変わってないなあと助手席のカナエは羨ましさを感じていた。
「そんな事みんな知ってるってば、ねーカナエ」
「ふふ」
「えっカナエまで、そんな風に思ってた? ショックだぁ」
 一本目の缶チューハイをぐびりと飲み干し藍はあははと大口を開けて笑った。
「早川君分ってないなあ。そういうバカなところにカナエは惚れてるんじゃん」
 カナエの頬がさっと赤らむ。

 カナエと藍は共に弱小陸上部のマネージャーだった。早川は部員。今は神奈川の中堅機械メーカーに勤めながらランナーとしてマラソンを続けていた。
 のろのろながら車はようやく箱根口のトンネル通過した。
「そういえば、おまえ相変わらず黒いのはなんで? 今はOLなんだろ」
「はいはい、どうせ、私は地黒ですから」
 反対にカナエは色が白い。マネージャーをしていた頃から練習中の空き時間によく日焼けクリームを塗り直していた。藍も一度、借りて縫ったことがあったが、すぐに汗で流れてしまうし、べとべとして気持ち悪いので、以後一度も塗ったことはない。
 二人が付き合うようになったのは卒業間近のことだった。カナエから早川への気持ちを打ち明けられ、藍がその橋渡しをしたのだった。皮肉なことに、その時ようやく自分も早川のことを好きなことに気づいたのだったが。
 ──努力したくても、物事には遅いということがあるものだ。

「逆に私は藍が羨ましかったけど。私なんかすぐ日光で赤くなっちゃって」
 クーラーボックスからカナエは二本目の缶チューハイを取り出しプルトップを開けた。
「ごめんね、早川君はコーヒーで」
「あんまり飲み過ぎんなよ。カナエ、弱いんだから。これから箱根のくねくね道が続くぞ」
 そんな二人の様子に藍の心のどこかがちくりと痛む。
「はいはい、ごちそうさま。私がその分しっかりといただきます」
「おまえ、三杯目だろう。このうわばみめっ」
「ブー四杯目でした」
 
 今夜は箱根の芦ノ湖で花火大会があるのだった。混むはずであろう。
「あともう一時間早く出ればよかったのに。早川君、計画性もないね」
「十分遅刻してきたおまえに言われたくないよ、ばーか」
 カナエから一緒に浴衣を来ていこうと言われ、一度は。白地に紺の朝顔の咲く浴衣を着付けしたものの、カナエの浴衣姿を想像して、気後れした。
 比べられたくない。比べられたら、私は負ける。もともと負けているのに、変な理屈だ。着替えに手間取っているうち、遅刻してしまったのだ。結局黒いTシャツに白いサブリナパンツをチョイスした。

 遠くで花火の音が聞こえる。箱根の山にじゃまされて見えないけれど、花火大会が始まったのだろう。
「なんで私は『おまえ』って呼んでくれないの」
「へっ?」
「なんで『ばか』って言ってくれないの」
「カナエ、何言ってる?」
「カナエ、酔っちゃった?」
「藍は黙ってて」
 振り向いたカナエの目が、濡れた碁石のように黒光りしていた。
「早川君のばかー美咲のばかー箱根のばかー花火大会のばかあ」
それからしばらく叫び続けたカナエは小涌園に差し掛かる頃、ぱたりと静かになった。眠ってしまったらしい。
「……驚いた。カナエって酒癖悪かったんだ」
「俺も驚いたよ」
 考えてみると、「二人で行ってきなよ」と、何ども断ったのに、一緒に行こうと執拗なまでに誘ったのはカナエであった。
「これといった原因はないんだけど、最近ぎくしゃくしててさ、俺たち」
「カナエのこと、不安にさせちゃだめだよ。早川君になんて、もったいないくらいの可愛くていい子なんだから、さ」
「……おまえは、どうなんだよ。好きな人、出来たのか?」
「好きっていうか、いいな、くらいの人はいるよ、会社に」
 会社の先輩だった。どことなく早川に似ていると今気がついた。
「頑張ってみようかな」
 なんとなく、花火大会に三人で行こうと言ったカナエの気持ちが分かったような気がする藍だった。
「着く頃にはきっと終わってるんじゃね?」
「だっさー。早川君みたい」

 また遠くでどーんと花火の音がした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/07/21 ドーナツ

こういう三角関係みたいなのはカナエと藍が友人なだけに複雑な心境ですね。
お互いが早川君とのやりとりに羨ましさを感じてるようで。
着く頃にはきっと終わってるんじゃね?」このセリフは意味深ですね。
何が終わるのか,色々想像します。そしてラスト、セリフで半悪花火で終わったのはすごく余韻が残りました。

12/07/21 ドーナツ

またタイプミスしてしまった。ごめんなさい。
半悪 訂正「せりふではなく」

12/07/21 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

不完全燃焼で終わった恋は、いつまでも、くすぶり続けて、厄介なものだと思います。(藍目線で思うと)
それを終わらせるために、この箱根へのみちゆきは必要だったのかもしれませんね。
こうしてポンポン言い合える人のほうが、ほんとは相性はいいのかもしれませんが(その辺はカナエはきっと気づいているはず)恋愛とはそううまくいかないもの。
最後の早川君のセリフ、受け止めていただいて嬉しかったです。
(一番心が揺れているのは早川君だったりして)

※大幅に字数を超えていて、なんとか削るために当初の名前を藍にしたのですが、一箇所美咲が残っていました。すみません。美咲→藍の間違いです。

※あと補足ですが、弱小陸上部は、大学の、と記入するべきでした。

12/07/21 汐月夜空

そらの珊瑚様、拝読いたしました。
着物も肌の色もお酒の強さも、きっと体格も声の高さも違う二人の女性、カナエと藍の対極さが味を感じさせるお話ですね。
カナエはきっと、この花火大会で藍と早川が距離を近づけたとしても赦したでしょうね。お互いがお互いの恋心に気づきながらのドライブ。ひょっとしたらカナエは寝たふりをしているだけなのかも、とか色々想像の幅がありました。最終的にはしっかり関係が落ち着いたのが安心できました。
これからも三人で、あるいはその会社の先輩も含めて四人で仲良くしていってほしいなあ、と思わず願うお話でした。
最後の二人の会話の後、きっとしばらく無言が続くのでしょうね。思わずエンジン音が聞こえてくるほど趣があります。シーンが綺麗ですね。

12/07/23 そらの珊瑚

夜空さん
ありがとうございます。

このお話は渋滞に巻き込まれ、着いたら花火大会は終わっていたという
まぬけな実体験をもとに、書いてみました。

二人の女の子の対照的な感じを出してみたつもりですが
伝わって良かったです。
(カットしましたが、カナエは白地にパステル調の小花の女の子らしい浴衣です)
この先どうなるのでしょうか?もしかしたら、カナエとはうまくいかなくなるような気がします。それでも、カナエと藍、早川と藍の友情みたいなものは続いていってほしいな〜と思ってます。

12/07/23 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

女同士の恋の鞘当て的展開のお話ですね。
きっとカナエは藍と早川君の親密さが気になって仕方が無いのでしょうね?
たぶん、今回の花火大会に藍を強引に誘ったのは・・・
ふたりの関係をハッキリ見定めたいという気持ちだったのかも?
藍が早川君に気があるのを知ってて嫉妬してるのかな?
もし早川君が自分より藍が好きだと分かったら、それなりの覚悟が
あったのかも知れない。

タメ口を利いてくる男友達と、大事にしてくれるけど、
どこかよそよそしい彼氏とどっちがイイか分からないね。

もっと打ちとけた関係に成りたいのだと思うよ。カナエさん。

12/07/24 そらの珊瑚

恋歌さん
ありがとうございます。

あやうく保たれている三人のバランスの危うさ
伝わったとしたら嬉しいです。
カナエと藍の友情も描ければ良かったのですが
字数の関係でカットしました。
2000字の壁かな。
難しいけど、勉強になります。

12/07/24 かめかめ

最初、カナエ視点から始まり、日焼け止めのあたりで藍視点にうつり、直後
「二人が付き合うようになったのは」とありました。
そのせいで、一瞬、誰と誰が付き合い始めたのか理解できず混乱しました。

12/07/25 そらの珊瑚

かめかめさん
貴重なご意見、ありがとうございました。

「二人はつきあうようになった」の直後の文を読んでいただければおわかりになっていただけると思いますが、混乱させてしまいすみません。

三人称は私にとってハードルが高く課題山盛りですが、頑張って挑戦していこうと思います。

12/08/18 郷田三郎

読ませて頂きました。三角関係ってのは何かと苦しいものですね。
花火のお題でありながら、音しか聞こえないというのはなかなか秀逸な設定だと思いました。
この後、三人はどうなって行くのでしょうね。カナエさんと早川氏はダメそうですよね。かといって略奪も無さそうだし。リセットはできないんだろうな、という気がしました。

12/08/21 そらの珊瑚

郷田三郎さん、ありがとうございます。

いろいろ考えるともどかしくなってきます(笑い)一番ハッピーなのはカナエが早川をあきらめ、二人をくっつけてしまうのがいいのでしょうが。

若い時の恋愛って幸せな時は一瞬で、悩んでいる時間のほうが多かったように思います。

ログイン