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11doorsさん

のんびりした田舎に引っ越してきました。温かな人たちとのゆったりした会話や日常は、ほんとうに宝物です。そんななか、小説という異質な空間の中で、読む人に、ちょっとでも喜んでもらえる作品が一つでもかけたなら、幸いに思います。

性別 男性
将来の夢 世界旅行
座右の銘 A piece of cake.

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あるラジオ局の一室で

15/04/07 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:1件 11doors 閲覧数:1189

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僕が生まれたとき、僕の両親は、できるだけ丸いものを多く揃えようとしました。オモチャでも何でも、子供は丸いものを見ると楽しくなって情感が育つと、父が誰かから聞いたからです。僕の家のリビングに、大きな楕円形のテーブルがあるのも、そのせいです。

父は数年前までは地元のラジオ局で働いていました。僕が母のおなかの中にいる頃、局の改築工事があって、古いものを、まとめて処分することになり、そのとき、父があの大きなテーブルをもらってきたのです。

僕は赤ん坊の頃から、あのテーブルが大好きでした。

あるとき、僕の夜泣きがあまりにヒドイので、母が試しにあのテーブルの上に僕をのせたところ、ピタッと泣きやむのに驚き、それからはお昼寝以外にも、テーブルの上で寝ることが多くなりました。

気がつけば、弟も妹も、お昼寝の時間に僕の隣で寝ています。妹の弘子は寝相が悪いから真ん中。僕と弟の邦雄は、その両恥です。僕らが大きくなると、宿題、お絵き、おやつ、家族での食事も、みなあのテーブルでしてました。

ところで、あのテーブルは、父の大切な思い出でもあります。

ラジオ局には、毎日リスナーから、たくさんの手紙やファックス、電子メールが届きます。それをスタッフは、たとえ番組で紹介されないものでも、一通残らず読んでいます。人が少なくても、時間がなくても、誰が見ていなくても、真剣な想いでつづられたリスナーの声を、聞き漏らしてはいけないと思うのだそうです。

テーブルの上には、いい知らせも、悪い知らせも、たくさん届いたと父は言います。

彼氏彼女ができたという便り、結婚や出産の報告、入園式や入学式、卒業や入社の報告。お花見や花火見物、登山や海水浴、海外旅行の思い出や家族旅行で温泉に行ったとか…

その一方で、愛する人と突然の別れを余儀なくされたとの、悲しい便りも多くあったといいます。特に、父が印象に残っているのは、阪神大震災や東日本大震災、中越地震のような大規模災害のときでした。

毎日山のような手紙やファックス、プリントされた電子メールのコピー用紙が、あの大きなテーブルの上に積まれたといいます。その一つ一つを読むスタッフの目は、連日涙であふれ、まるでカボチャみたいに腫れた人もいたそうです。

ごくごく平凡な人たちの人生にも、喜びがあり、悲しみがあり、人に言えない紆余曲折があって、そのひとコマひとコマを、ラジオ局の人たちは、一つ一つ受け止めてきたのでしょう。そういえば、一度だけ母が、へこんでいる父に言った言葉を僕は覚えています。

「私たちには、直接手を差し伸べてあげられない人ばかりだけど、それを知ったあなたは、その人たちの幸せや冥福を祈ってあげることができるじゃない。それって本当は、とっても偉大なお仕事なんじゃないかしら。少なくとも私にはそう思えるわ」

母のその言葉に、父だけでなく、僕も感動したんです。


『人間は祈るために、生まれてきた』


僕は、あのテーブルの上で、そう日記に書きました。

そして、その日、僕の人生には、明確な進路ができました。それは、かつて父が勤めていたラジオ局に就職して、新しいテーブルに山積みになった手紙やファックス、電子メールを読み、リスナーの皆さんの幸せを祈ることです。

そして今、僕はその志の第一歩を踏み出すことに成功しました。例のラジオ局から、採用通知がきて、今日、社長やスタッフのみなさんにも挨拶してきたんです。


「大丈夫、親の七光りで採用したんじゃないからね」


…と社長に言われ、皆なに爆笑されました。

それから君にだけに特別な仕事があるといわれて、ほかの新入社員が帰る方向とは反対の、第三会議室に連れていかれました。

なかに入ると、真新しい大きなテーブルの上に、たくさんの手紙、ファックス、電子メールのプリントが積まれています。社長は高笑いしながら、どうぞ読んで!という感じで、右手をテーブルに向けくれます。

これを読むのが、社会人の第一歩。それでは…、というので、その一番上のファックスに目を向けると、見慣れた手書きの文字が見えます。


“歓迎、栗林忠雄殿。これが君の家にある弟分のテーブルです。これから、しっかり面倒みてあげてくださいね。リスナーに愛されるには、まず、リスナーを愛さないといけませんよ。それとラジオを聞く皆さんには、先輩のよいところを見習って、地元の人が気づかない素晴らしいところを、たくさん紹介してあげてください。 あるラジオ好きの夫婦より”


「う、ん、ありがとう。おとうさん、おかあさん」


僕が涙目でふりむくと、みんなが大きな拍手で祝福してくれました。僕は古いテーブルの歴史の上で育ち、今また新たなテーブルと共に歴史を刻める幸せを感じて、心がふるえました。



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このストーリーに関するコメント

15/04/20 光石七

拝読しました。
食事以外でも大活躍のテーブルというのはよくあると思いますが、過去にはお父さんの仕事の相棒でもあり、主人公の夢と門出を後押ししたというのが、とてもいいと思いました。
家族の思い出はもとより、いろんな人の思いを受け止めてきたテーブルですね。
主人公ならきっと、新しいテーブルと共に、リスナーに寄り添う素敵なラジオパーソナリティになることでしょう。
心が温かくなるお話をありがとうございます。

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