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水鴨 莢さん

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羽ばたく獅子の食卓

15/04/07 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:6件 水鴨 莢 閲覧数:1377

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 三日後には最高の料理を用意せねばならず、領主は頭をなやませていた。
 貧しい村であり、急いでもジャガイモ料理やそば粉のクレープ、やせ兎のあぶり肉が精々なのだ。
 王は大変な食通ときいている。以前同じ状況になったある村はひと月前に報せをうけ、そのさいは町からの買い入れも十分になされ、ふるまった料理に満足した王からは多くの褒美をうけとったという。
 不作続きで冬ごえもきびしい今、領主はどうにかこの歓待を成功させ、土地の者に安心して春を迎えさせてやりたいと考えていた。
「ああ、だが今はこれぽっちの麦と豆をささげることすら困難なのだ」
 一切れのパンと十粒の豆を袋にいれ、嘆きながらも朝早くに家の裏手の森へと入る。
 そして奥にあるカシの大木までくると、
「森の人よ、過ぎたるほどの恵みをどうか分け与えさせてください」
 と、袋の中身を根本へおいた。父にいいつけられ、領主となってからは毎朝欠かさずこれを行っている。
 だが実際は空腹を抱え、心配事でろくに眠れてもいない領主は腰をおろすと深く息をつく。
 そこへ立派な身なりの若い婦人とお供の騎士がやってきた。
 森にはふさわしからぬ姿に、領主がポカンとしていると、婦人から何をなやんでいるのかたずねられたので、
「王がいつものご猟場に飽きられたらしく、この近くへ鹿追いにやってくるのです。そこで合間の休息にはこの村をお使いになるのですが、急な変更でお出しできるようなごちそうもなく困っている次第なのです」と答える。
「なるほど、しかし動かぬ石の下に流れる水もないでしょう。心に望むものがあるのなら腰をあげてついてきなさい」
 と、先へ行きはじめた婦人と騎士のあとを領主はあわてて追った。

 森のさらに奥のひらけた場所には大きな屋敷があった。
 なかの部屋へ招かれると一台のテーブルがおかれている。天板が鏡のように輝き、その側面中央にはコウモリの翼と膨らんだ尾をもった獅子の意匠が施されている。
「これは遠い国にすむ世界で一番大食らいのいきものです。この彫り物の力により、卓上のものはみな素晴らしいごちそうとなるのです」
 婦人がいうと、いつのまに持っていたのか騎士があのパンと豆を天板へおいた。
 すると粗末なパンは世にもかぐわしい香りをはなち、十粒の豆は黄金のように光ってみえはじめる。
 領主はのどをゴクリと鳴らし、思わず手をのばすとあっというまにそれらをたいらげた。たとえ宮殿のいかなる料理でもこれほどの幸福はえられぬであろう味と満足とがあった。
 領主はひと息つくと、はしたないまねをしたと気づき赤面する。そして顔をあげると、そこはもといたカシの木の根元だった。
「夢、つまらぬ夢をみたものだ」と帰ろうとしたが、パンと豆がきえている。そこで奥へ進んでみると、同じひらけた所にあのテーブルだけがおかれていた。
 三日の後、王と従者達が村へやってきた。
 領主の家へ招かれた王は、森より運ばれたあのテーブルに料理が出されるや目を輝かし、のどをゴクリと鳴らす。
「なんと、これほどまでによろこびに満ちた食事ははじめてだ!」
 平凡な料理を次々口にいれ、いきおい皿までかじらんとする王をあわててお付の者がとめた。
 後日、多くの金貨が与えられると、領主はこれを村の十分な冬支度に使い、人々は笑顔で次の春をむかえることができた。
 また王は度々ここを訪れるようになり、そのもてなしの褒美により村は豊かになる。領主は、あの夢で会ったのは木々の精霊たちだったのだろうと、森への感謝を一層深めたのだった。

 それから長い年月が経ち、国に大きな戦争がおきた。戦いがくり返されるなか、その村もほとんどの家や森林が灰となる。
 そこへ激戦からひいた将校がやってきたが、様子見の部下より報告をうけおどろいた。残った家屋は野戦病院となっている。その粗末な施設や人員不足は他の戦地と同じなため、治療はもちろん食糧もさぞ窮していると思われたが、
「不思議と飢えによる死者はここにはみられません」とのこと。しかし誰にわけをたずねても『我々には神の助けがあるのです――』と言ったきり口をつぐんでしまうという。
 将校が入ると屋内は身を横たえた兵士らで足の踏み場もないほどだった。彼はここに自軍の負傷兵をさらに運び入れていったが、やがて空き場所のことで看護婦が難色を示しはじめる。みればたしかに床は一杯で、幾つかもちこまれたテーブルの上と下とで二人分の寝床を設けたりもしていたが、
「そこに一つ空きがあるではないかっ」と、今は何もおかれていない、翼がある獅子の意匠のテーブルをみつけ指さした。
 看護婦は一瞬顔色をかえたが、うなずくとその上に最後の一人を寝かせる。
 将校はそれを眺めながら、ふと、昨日から何も口にしていない空腹を思い出し、のどをゴクリと鳴らしたのだった。


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このストーリーに関するコメント

15/04/20 光石七

拝読しました。
不思議なテーブルのおかげでめでたしめでたし、かと思いきや。
“みな素晴らしいごちそうになる”ということは、つまり…… こ、怖ッ!
面白かったです。

15/04/21 水鴨 莢

光石七さん感想ありがとうございます。
おとぎ話に出てくるような幸せをもたらすアイテムも、ずっと残ってたら、こういうことにもなったりするんじゃない
かなぁ・・・とかそんな感じで書いてみました。だれも悪くはないんだけどなぁーっていう。
一応、コウモリの翼をもつ獅子といえば怪物「マンティコア」で、その名の由来は「○食い」からきてますので伏線の
つもりだったのですが、大して効果はなかったんじゃないかといま自分で読み返してみて思いました。
とりあえず話自体は伝えられる形になっているようなので、そこでよしとしておきたいです。

15/04/26 滝沢朱音

うわっ、こういう結末でしたか…!怖い&おもしろかったです。
そっか、「コウモリの翼と膨らんだ尾をもった獅子」が伏線だったのですね!なるほど…
マンティコアを知らず(ごめんなさい)気づけなかった〜!

序盤、婦人の「動かぬ石の下に流れる水もないでしょう」という言い回しが、個人的にとても印象的でした。

15/04/27 水鴨 莢

滝沢朱音さん感想ありがとうございます。
タイトルは最初「マンティコアの食卓」にしようと考えていたのですが、それですと怪物好きな人
にはかなりバレバレになるんじゃないかと思い変更しました。
でも投稿してしばらくしてから、世の中そんなに怪物好きの人って多くいるわけでもないんじゃ…
思い、それなら堂々と最初のタイトルにしておけば良かったんではないかなとも…。

「動かぬ石の下に流れる水もないでしょう」はロシアのことわざから借りてきました。
自分から行動しないと得られるものはない、といった意味なのですが、一応舞台はロシアを想定
しながらも明言はしていませんので、なにかひとつこういうところで実はロシアなんです感を出
しておきかったといいますか。かなり自己満足なんですけど、例え仮にでも舞台をはっきりさせ
ておかないと不安で書きにくいところがあるんです。

15/04/29 水鴨 莢

志水孝敏さん感想ありがとうございます。
この構成はなんだかうまくいってる感じですよね…。
でも無理のない構成というのがどういうものなのか、どうすれば意識して作れる
のか未だわかってないところがありますので、そういうところも知った上で書け
るようにしていきたいです。

童話な世界からリアルなとこいくのは違和感をおぼえさせてしまわないだろうか
とわりと不安だったところでした。とりあえず大丈夫だったようで一安心です。
世界観が変わる、長い時を経る、というのは大きめの動きになるゆえに作品に
深みや味わいをあたえるものなんでしょうかね。そこらへんも考えになかった
ところですので、本当勉強になります。

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