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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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まろと電波とたましいと

15/04/04 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:9件 そらの珊瑚 閲覧数:1683

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「ランドセルのすきまから立ってる竹の定規って、なんだかアンテナみたいだね」
ってヨシコちゃんが言う。今日の二時間目は算数の時間。あたしらは咲き始めた菜の花の黄色い顔をちょうど20まで数えてやめた。およそ、たくさん、ということにしておこう。
 アンテナかぁ。うまいこというなあってあたしは思う。ヨシコちゃんは将来詩人になったらいいのに。だけど卒業文集に書いた『将来の夢』に、ヨシコちゃんはキャリアウーマンって書いていた。あたしはその意味を知らなくて「キャリアウーマンってなんなの?」って聞いたら『バリバリ働く人』って教えてくれた。やっぱりヨシコちゃんは詩人だと思う。
 ヨシコちゃんの説が正しいとしたら、あたしらのアンテナから飛んでいる電波は、朝は学校へキャッチされ、夕方は家へとキャッチされているんだろう。だからあたしらはそのたびにこの通学路をいったりきたり、間違えずに、迷わずに、6年間も歩き続けることが出来たんだ。
 ああ、でも……。
 あたしは悲しい事件のことをふいに想い出す。
 あれは二年前。同じクラスだった、まえだひとみちゃんが死んでしまったことを。ひとみちゃんは夜になっても帰ってこなくて、次の日の朝、ため池に浮かんでいるのを発見された。ひとみちゃんの電波は、何かの理由で切れてしまっていたんだろうか。お葬式は雨だった。
「ばふっわわわーん」たなかさんの家の『まろ』に、いつものようにけたたましく吠えられる。
『まろ』という名前は、あたしとヨシコちゃんが付けたものだ。
 小学校に入ったばかりの時だった。帰り道で、あたしらはまだ子犬だった『まろ』を見つけた。『ひろってください』と黒いマジックで書かれたダンボールの中で、そいつはふるえていた。桜はみんな散って暖かい季節だったけど、捨て犬になってしまった運命におびえていたのかもしれない。あたしだってもし捨てられたらって思うとふるえずにはいられないだろう。
「みてーこの子。おもろい顔」時々ヨシコちゃんは関西弁になった。お父さんが大阪出身だから、うつったっていう。子犬は真っ黒で、両目の上に白いだ円もようがまるで人間の眉毛みたいだった。その頃テレビでやっていたアニメの「まろでおじゃる」のおくげさんの主人公にそっくりのだった。抱き上げたまろは、あたしのほっぺたをぺろりとなめた。 そんないきさつで、あたしらはまろをほおっておけなくなった。
 でも、あたしの家にはもう犬がいたし、ヨシコちゃんちはアパートだから犬は飼えない。だからかたっぱしから家のドアをたたき、飼い主になってくれる人を探し回った。「この犬かってください」「うちは犬なんか飼えないよ」大人はみんな冷たかったっけ。らららーららら……。ゆうけやこやけのメロディだ。それはよいこの帰る五時の時間だ。帰らなくちゃ。でも、まろはどうする? これが最後だと、けついして行った、たなかさんの家の前で、ほとんどあたしらは泣いていた。たなかさんは「しようがないねぇ。でもいいわ。番犬になりそうだし」しぶしぶだったけれど、まろを受け取ってくれた。あとでヨシコちゃんは「なみだのしょうりやね」と泣きながら笑った。
 たなかさんの読み通り、まろはまじめなな番犬になった。助けてもらった恩は忘れてしまったのか、あたしらが通るたびに、ほえまくる。あのころの可愛さなどもうないまろのドスのきいた声に、いつもあたしはびびってしまう。そのたびにヨシコちゃんは「まろのやつめ」と、まろをにがにがしい顔でにらみつけるけれど、まろの今の名前はスカーレットだ。たなかさんはみかけによらず、外国かぶれのおばさんだったらしい。
 通学路には秘密の近道があった。神社を過ぎて横道にそれると、狭い登り坂があって、そこをくぐりぬけてるとちょっとだけ早く学校に着く。途中、半分くずれたような階段があって、白いシミがてんてんと付いている。小学生の間で、それは『タマシイ』と呼ばれていた。
 タマシイを踏むと呪われる。
 そんなわけで、あたしらはそこを通る時だけ無口になって、とてもしんちょうに歩いた。ひとみちゃんの事件のあとは、なぜかいつもひとみちゃんのことが浮かんだ。ひとりではぜったいに通ろうとは思わない、こわくてかなしいタマシイの見える階段。
 もうすぐ卒業式だ。通いなれた道とも卒業するってことかもしれない。
 台風のあと道を通せんぼするように倒れていた大いちょうの木や、青と赤のぐるぐる回る散髪屋の不思議な看板。キンモクセイのすてきな匂い。あたしらをゆうわくするだがし屋「ふるさわ」のにぎわい。そういえば寄り道して見つけた、四葉のクローバーはどこへしまったっけ。
 大人になっても、ずっとあたしはおぼえておこうと思う。とりあえずのように考えた、あたしの今の夢『幸せな人になること』が、いつか叶っていれば、うれしい。


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このストーリーに関するコメント

15/04/04 そらの珊瑚

画像は、GATAGフリー画像・写真素材集 3.0サイトより
efanphotography v2さまの作品をお借りしました。

15/04/04 海見みみみ

そらの珊瑚さん、拝読させていただきました。
通学路の中で語られる様々な物語。
それぞれ悲しかったり、良い話だったり、少し怖かったりと様々です。
それらが全てこの通学路の上で起こった物語だというのが実によくできていると思います。
読んでいてとても勉強になりました。
ありがとうございます。

15/04/06 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

通学路であったいろいろな思い出、楽しいことばかりではなかったけれど、悲しいことも含めてすべてが思い出としてみんなの心に生き続けていくのでしょうね。マロも魂の道も電波が導いたのでしょうか、小学生らしい発想のなかで、成長していく主人公の願いが叶うようにと私も祈っています。

15/04/09 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

子ども目線の通学路の情景描写がとてもリアルで、一緒に通学路を歩いているような錯覚に
とらわれました。

主人公の『幸せな人になること』シンプルだけど、その夢が叶うと良いですね。

15/04/09 光石七

拝読しました。
小学生の目線や思考をとても自然に描かれていて、感嘆しました。
もうすぐお別れする通学路、ここでの思い出はきっと大人になっても心に残っているのでしょうね。その時、主人公が幸せでありますように。
素敵なお話をありがとうございました。

15/04/10 滝沢朱音

わあ、読んでていろいろなことを思い出しました!!
竹のものさし〜!アンテナかぁ。すごくハッとさせられる表現ですね。
友達のお葬式に行ったこともあったなぁ。
箱に入れられた子犬を見つけたこともあったなぁ。
子ども時代って、興味津々で、ただがむしゃらに生きてた感じがします。

15/04/12 鮎風 遊

昔通った通学路、人それぞれに思い出があるのだなあと感じました。
日常の出来事でも、これほど一杯の事が起こってるのですね。

主人公とそれをとりまく世界がうまく合っていて、
ほんわかとして、暖かいコヒーを飲みたくなりました。

15/04/21 そらの珊瑚

海見みみみさん、ありがとうございます。
実際自分が小学生だったころの通学路を思い出して
少しデフォルメしながら書いてみました。
あの頃、今おもえばささいなことでも大事件のようなかんじでしたねえ。

志水孝敏さん、ありがとうございます。
子どもの素晴らしさのひとつに、空想と現実の境目の柔らかさがありますね。
そんな子ども時代の自分をなぞりながら、描いてみるのはとても楽しい体験でした。

草藍さん、ありがとうございます。
毎日ほぼ同じ道のりを飽きもせずちゃんと通ったものだなあと今となっては思います。
今と違って集団登校ではなかったので、とても自由で、道草やり放題でした。

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
自分で書いておきながら、ですが、なんとまあ、おおざっぱな夢でしょうか(笑い)
一緒に通学路を楽しんでいただけたら幸いです。

光石七さん、ありがとうございます。
大人になってふりかえると、その当時には気づかなかったものって
結構あるように思います。
大きく感じていたものが案外小さかったとか。背丈、目線みたいなものも違うせいもあるのでしょう。

滝沢朱音さん、ありがとうございます。
実は私も同級生のお葬式に行ったことがあります。
その子と同じ班だったこともあり、今でもその子の顔はありありと思い出すことが出来ます。

鮎風 遊さん、ありがとうございます。
台風の翌日なんかは結構面白かったです。
アメリカなんかはスクールバスとかが一般的なのでしょうから
歩く道道で体験するこういったこともないのでしょうね。

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