つつい つつさん

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ガキ

15/03/28 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:1519

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 二年程前に付き合っていた瑠璃子が突然、俺のアパートにやってきた。今、付き合ってる女もいなかった俺はもちろん快く「あがれよ」って迎え入れたけど、たぶん俺の顔はニヤニヤしていて下心がバレバレだったと思う。だけど、ドアの後ろからベビーカーを持って入ってきた瑠璃を見て俺は愕然としてしまった。
「圭介の子よ。菫っていうの。かわいいでしょ」
「は? 俺の子? そ、そんなわけないだろっ?」
 瑠璃はパニックになってる俺を冷たい目で見ながら「あの頃付き合ってたの圭介だけなんだから、当たり前でしょ」って、ずかずかと部屋に入ってきた。それから俺達は部屋の隅にベビーカーを置いたまま、二年ぶりのケンカをした。
 一、二時間言い合いをしたけど、どっちも引かず、そのうち瑠璃は疲れていたのかリビングのソファにもたれこみ寝息をたてはじめた。次の朝には、しれっとした顔で俺の許可も得ず勝手に居住スペースを広げていった。結局、そのまま仕事も家も無かった瑠璃はずるずると俺のアパートに住むようになった。
 最初のうちはいろいろ期待していた俺だけど、現実はそんなに甘くはなかった。寝る場所だって、俺はソファで寝かされてるし、それになんといってもガキだ。俺は自分が親だなんてもちろん信じてなかったから、名前で呼んでなつかれてもめんどうだから、ガキって呼んでた。このガキがやっかいだった。夜中に何回も泣いて起こされるし、瑠璃は部屋にいてもガキにかかりっきりで俺の相手なんて全然してくれないし。これだったら、ケンカばっかしてたけど恋人同士だった時のほうが何倍も楽しかった。プライベートもなにも無くなった俺はだんだん不機嫌になり瑠璃に「いつまでいるんだ?」「早く出てけよ」って、顔見るたびにケンカをふっかけていた。それでも俺は鬼じゃないから、仕事とか家とか段取りつくまでは待ってやろうって無理矢理追い出したりはしなかった。
 その日仕事から帰ると、リビングには、瑠璃が当然のように持ち込んだ赤ちゃん用のイスにガキがひとり座っていた。座っているっていうより座ったまま寝ていた。よく見るとリビングのテーブルの上にはミルクと離乳食のパックが山のように置かれていた。
 俺や嫌な予感がして、アパート中、トイレから風呂まで全部探したけど、瑠璃の姿はどこにもなかった。
「まじかよ、あいつ……このガキ、どうすんだよ」
 俺はどうしたらいいかわからず、とりあえず瑠璃の携帯に電話してみたけど、予想通りつながらなかった。俺は警察に電話しようかとも迷ったけど、なんて説明していいのかわからなかったし、なんか警察に言っても怒られそうな気がして出来なかった。それから、あれこれ頭ん中でぐちゃぐちゃ考えてたら、ガキが目を覚ました気配がした。俺はあせった。こんな状況で大声で泣かれたらどうしていいかわからなかった。だけど、ガキは泣きはしなかった。俺は静かにガキに近づき、そっと顔をのぞき込んだ。
 俺が見た瞬間、ガキがにこって笑った。うわっ、反則だよ。こいつ、薄々気づいてたんだけど、むちゃくちゃ可愛いんだよ。こんだけ可愛けりゃおむつのCMとか出れるんじゃないのって思うくらいやばいんだ。その無防備でなんの警戒心もない真っ直ぐな瞳で見つめられた俺は無意識につぶやいていた。
「すーみーれー」
 あんまり可愛いから、すみれのふわふわした黒髪をそっとなでたり、ぷにぷにのほっぺをそっとつついたりした。すると、すみれが俺の人差し指をぎゅって握った。
 ドキっとした。その感触は細くてちっちゃい指からは想像出来ないほど強かった。俺はなんだかわからないけど胸が締め付けられ、すみれから目を逸らしてしまった。
 突然、玄関のほうでバタバタと大きな音がして、瑠璃が勢いよく入ってきた。すみれを見つけると強引に抱き上げ、その場にうずくまった。そして、嗚咽しながら、必死で、何回も何回もすみれに謝っている瑠璃を見て、俺は瑠璃のこともすみれのことも全く真剣に考えてなかったことに気づいた。
 しばらくすると落ち着いたのか瑠璃がすみれを抱いたまま立ち上がった。
「あのさぁ、話したいことあるんだ」
 瑠璃は真っ赤に腫らした目でキッと俺を睨んだ。
「わかってるわよ。すぐに出て行くわよ!」
「いや、そうじゃなくて……すみれは俺の子なんだろ?」
「なによ、どうせ、信じてないんでしょ?」
「いや、信じるよ。だったら、このままじゃだめだろ。三人でちゃんと一緒に暮らそうぜ」
 瑠璃が驚いたように、ぽかんとした表情で俺を見た。
「俺、瑠璃とすみれと三人で、このまま一緒に暮らしたいんだ」
 瑠璃はすみれを抱いたまま、うなだれるように、こくんとうなずいた。
 こうして俺達は一緒に暮らすようになったけど、菫にでれでれで甘やかしてばっかりの俺は結局瑠璃に怒られてばっかりいる。


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このストーリーに関するコメント

15/03/29 海見みみみ

つつい つつさん、拝読させていただきました。
とても心温まるお話でした。
ガキと呼んでいたのがいつの間にかすみれに変わる。
そんな主人公の心の変化がとても良いですね。
最後も丸く収まりましたし、読んでいてとてもハッピーな気持ちになれる作品でした。

15/03/30 つつい つつ

海見みみみ様
感想ありがとうございます。
呼び方に気を使ったので、変化を楽しんでもらえて良かったです。
自分でもハッピーエンドの話のほうが書いてて楽しかったです。

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