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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

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シロとノラ子

15/03/23 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:8件 そらの珊瑚 閲覧数:1612

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 シロは斎藤家の忠実なる番犬。
 この家の子ども、光一郎が小学校三年生の時に、捨て犬だったシロを拾ってきて、早や十年が過ぎた。もう仔犬だったかわいい面影はどこを探してもなかったが、心は拾われてきた時のままだった。
「光一郎ぼっちゃま、今日も帰ってこないのだろうか?」
 そうえいば、何十日も会っていないような気がする。昨日もそのまた昨日も……人間のように指を折ってそれを数えようとするのだが、シロの前足についている指は、短すぎて折ることが出来ない。
 光一郎は大学卒業を機に家を出ており、もう何ヶ月も帰っていない。けれどそんな道理が犬にわかろうはずもなく、シロはただただ大好きな光一郎を待ち続けているのだ。

「ばかね、あんたなんかもう忘れられてるのに」
 今朝もノラ子(名前ではない。野良猫なので便宜上、皆が彼女のことをそう呼ぶ)が、斎藤家の庭を、勝手きままに憎まれ口をたたきながら横切っていく。
「そんなことないワン!」
 いくらシロがやっきになって吠えようとも、シロがつながれているのを彼女はちゃんと知っていた。鎖が届かない微妙な距離感を保ってノラ子は通っていく。
「クッソーくやしーワン」
「犬って可哀想な動物ね」
 ノラ子が哀れみの表情を浮かべて、シロを見下す。
 ノラ子は首輪などつけていない。自由にどこへでも行ける。
 鎖につながれ、どこへも行けない我が身と比べれば、シロの心は嫉妬の炎でメラメラと熱く焼けてくるようだった。

「あんたをかわいがってくれる人なんか、この家には、もういないわ」
 そういえば最近は、散歩もおざなりだった。光一郎が家を出てから、散歩は彼の母親がしていたが、足を悪くしてしまい、家の周りをぐるりと歩くだけ。息子の仕送りで家計が苦しいのか、食事は味噌汁かけご飯ばかり。でもそんなことぐらいでは、シロはめげてはいなかった。
 シロには思い出があった。光一郎と一緒に風を切って駆ければ生きてる実感が胸一杯に広がったし、腹を見せれば気の済むまで撫でてくれた。どこにでもいる平凡な雑種の犬を「おまえはボクの友達だよ」と抱きしめてくれた。 悩みを打ち明ける光一郎と一緒に泣いたつもりになったこともある。実際に犬は涙こそ流さないけれど、彼が苦しむ姿を見て、シロはあの時どんなに悲しかったか今も覚えている。そしてしっぽをちぎれるほど振り「がんばれ、がんばれワン」と応援し続けたことも。
 光一郎はいつか帰ってくる。
 そうしてまたボクと遊んでくれる。
 そう願っていれば、これからも、ずっとこの先も、斎藤家の番犬としての使命を全う出来る気がしていた。
――けれど、もうボクのことなんか忘れてしまったとしたら。
「結局人間なんか薄情なのよ」
「そんなはずない! そんなことあるもんか!」
 怒ったシロは思わずノラ子に向かって、ありったけの力で走り出す。首輪なんかものともせずにぐいぐい地面を蹴り続ける。すると鎖をつないでいた木の杭がスポンと地面から抜け、シロはそのままノラ子を追いかけ、思い余って庭を出ていった。
「あんた、やるじゃん。見直したわ」
 それでもノラ子は余裕で塀の上にひょいっとジャンプした。
「やっと自由になったンだから、この際野良犬になっちゃえば?」
 ノラ子に、けしかけられて、シロもその気になり
「も、もちろんさ、やったるでー。ボクは今日から自由だ。どこへでも行ってやるワン」
 シロは意気揚々と、首から下げた鎖をじゃりじゃり引きずりながら駆け出した。
 
 そう、走って、走って、どこまでも走って行くつもりだったのに……。
 結局シロが自由になった時間は、ほんの三十分ほどで、気づけば斎藤家の庭に佇んでいた。
「ばっかみたい」ノラ子は、そんなシロを見て呆れている。
 
「ただいまー」光一郎の声がした。
 息子は母親の足の具合を心配し、夏休みに合わせて帰省したのだ。
 
 シロはもう嬉しくって光一郎に飛びかかり、顔中舐めまわす。
 
――忘れてなかったんだね、ボクのこと。べろん。
 
――忘れるもんか、シロは大切な友達だよ。あはは。
 
 そんな様子を見ていたノラ子の心は、もやもやとした。
 
――なんだろうコレ、嫉妬ってゆうやつか? まさか! あたいがよだれを垂らしまくってる、小汚いあの犬のことがうらやましいなんて、チョーありえないんですけど。

 ノラ子は産まれてからずっと、野良猫として、自由に気ままに生きてきた。もちろん孤独で、つらいことはあったけど、そんなことを嘆くほど弱くないわ、と自分を奮い立たせて。

 けれども今、見えない鎖によってつながれているような、目の前のアホな犬のことが、うらやましくなった。 
 
 ふふん、ほんのちょっぴりだけ、よ。

 庭のひまわりの花が作った影に、ノラ子はごろんと寝転がった。


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このストーリーに関するコメント

15/03/23 そらの珊瑚

間違いがありましたので訂正します。申し訳ありません。
7行目 大学卒業→大学入学

画像は「イラスト工房ユニ」さまよりお借りしました。

15/03/23 海見みみみ

そらの珊瑚さん、拝読させていただきました。
シロとノラ子、それぞれの嫉妬が微笑ましくも切ないですね。
首輪につながれたシロと、自由気ままなノラ子。
その対比がうまくできていたと思います。
最後のノラ子の強がりが少しかわいく感じました。

15/03/24 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

動物を使って、嫉妬をテーマに書かれたことに感心させられました。

犬と猫、どっちが自由かといえば、野良猫だけど・・・
孤独ではないというなら、やっぱり飼い犬でしょう。

二匹を巧く対比させながら、立場の違いにテーマを巧く嵌めこませて、
ほのぼのした物語を楽しむことが出来ました。

15/03/24 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

犬と猫、お互い究極の立場でしょう。自由ではないけれど、信頼や生きがいなどは犬さんが良さそうに思います。猫さんは何よりも自由を謳歌できる生き方で、これもまた良いですよね。両方を選ぶことは到底できないことだけど、あなたどっちが良い?って聞かれると一長一短があって、悩みますよねぇ。苦笑(誰も頼んでないけど)

ノラ子の気持ちもよくわかります。シロは自由の旅を少し試せて良かったかもですね。身近な動物を使って対照的なお話で面白かったです。

15/03/25 光石七

拝読しました。
光一郎を待ち続けるシロの健気さが報われてよかったです。
ラストのノラ子の嫉妬と強がりが可愛い。
微笑ましいけれどどこか切なさもあり、ほろりとさせられます。
面白かったです。

15/03/29 鮎風 遊

微妙な心の動きですね。
やっぱりノラ子は羨ましいのかな。

ほのぼのとした流れの中に、嫉妬満載のような気がしました。

15/04/06 そらの珊瑚

>海見みみみさん、ありがとうございます。
昔、実家で外で飼っていた犬がよくネコにからかわれていた(?)という
実話をきっかけに出来たお話です。
ネコは頭がいいので、犬の鎖がどこまで届くかをちゃんと知っていました。
そういう意味ではネコの勝ちっていう気もします。

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
嫉妬といっても、ドロドロしない程度のかわいいものを書いてみました。
どっちもどっちですね(笑い)

>草藍さん、ありがとうございます。
犬派? 猫派? と人は話題にしたりしますね。
犬は飼うにはかわいいけれど、自分がなるなら猫のほうがいいなあって思います。

>光石七さん、ありがとうございます。
犬ってかなしくなるほど全面健気ですし、猫は孤高であるけれどどこか甘えたい気持ちも隠し持ってて、対照的です。
面白く読んでいただき、嬉しいです。

>志水孝敏さん、ありがとうございます。
手近な動物は感情移入しやすかったです。
きっといいコンビなんでしょうね。
そんな人間関係もありそうです(笑い)

>鮎風 遊さん、ありがとうございます。
犬に嫉妬しながらも、プライド高い彼女はそれを認めたくないのでしょうね。
昼寝して起きたら、たぶん忘れているでしょう。(笑い)

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