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智宇純子さん

思いつくままに綴りますが、読む方が好きです。 『素人の読み手』としておじゃまさせていただきますので、至らぬ点が多いかと思いますが、どうぞご容赦ください。 ※諸事情により、登録当初から使っておりましたニックネーム『ポリ』を『智宇純子』に変更しました。引き続きよろしくお願いいたします。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 自由になりたければ自分の言動や行動に責任を持て

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星が見えない

12/07/17 コンテスト(テーマ):【 花火大会(花火) 】 コメント:4件 智宇純子 閲覧数:1868

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 星が見えない。

 都会の空というのは本当に星が見にくい。そうでなくても排気ガスと夏の湿気で空気が重たいというのに。
 朱夏は明るい方向に腕を伸ばし腕時計を見た。午後七時半過ぎ。腕の向こう側に見える高層ビルが立ち並ぶ夜景。その隙間からちらちらと見える花火。
「お台場にある観覧車みたいだわ」朱夏はひとつ大きな伸びをすると、居酒屋の前にある花壇の淵に腰掛けた。ここからでも隙間から時々花火が見える。でも、星は見えない。 

 朱夏が住んでいた田舎は自然がいっぱいで空気がおいしかった。住んでいる人たちはのんびりしていてあたたかく、なにより、空が、海が、自然が。人間より、ずっと、ずっと偉大だった。
 しかし、日々はとても退屈で。若者が少ない超高齢化社会。夜は真っ暗。「こうあるべき」と型にはめられた生活。野心とか競争心よりなにより「協調性」を大事にする。
 朱夏も例外でなく世間体を一番に育てられていた。だから、義母の執拗な愚痴や嫌味を毎日聞くのにも慣れていたし、義父の酒乱騒ぎに頭を下げて回るのも平気だった。どんなに辛い思いをした日でも、帰り道の空には今にも降ってきそうな満天の星空が迎えてくれ、朱夏の心を癒してくれた。

 ただ、あの日。一緒に来ている孫の為に楽しそうに飲み物を選んでいる老夫婦を見た、あの花火大会の日。
 いくつか選んでいるうちに、不意におばあさんが横にいるおじいさんに耳打ちした。「私の分はないのですかね」
 それを聞いたおじいさんは、満面に笑みを浮かべながら「おお、そうでした。ミヨコさんは何がいいですか?」と、おばあさんに寄り添うように覗き込んだ。「ツヨシさんと一緒のがいいです」
 頭上で開く夜空いっぱいの花火とその時の情景が重なった時。バーン!という花火の爆音と共に、心が「ああいう老夫婦になりたい!」と、叫んでいた。

 近くで夏祭りをやっているのか、親子連れや浴衣の酔っ払いがゆったりした足取りで行き来している。甚平を着た小さな男の子が、持っている水ヨーヨーを引きずっていた。 
 泰雅にもこんな時があったのかな。手元の写真を見ながら朱夏は力なく微笑む。

 五年前、『私に夢中になっている自分に夢中になっていたのよ』そう泰雅に言ってしまったけど、そうでないことは百も承知だった。真剣に考えてくれているからこそ一時の感情に流されずに田舎に帰ることを悩んだ。一生のことだからこそ簡単に答えが出せずにいた。「だって、あの人はいつも他人に対して真っ直ぐで、自分にも正直だったもの」
 写真に映っている変わらない笑窪が朱夏の胸に甘酸っぱい記憶を呼び起こす。

 それに比べて朱夏は、死ぬ気で努力したことなんて一度もなかった。嘘を正当化するために自分に嘘をつき、それをまた正当化するために嘘を重ねていった。
 わかってる。あなたは、私を脱皮させる為に私に無茶をさせた。でもね、泰雅。物事にはやりすぎっていうこともあるのよ。

 道を挟んだ斜め前にあるイタリアンレストランの入口が開く。朱夏は横向きのままビデオカメラの録画ボタンを押した。胸元の小型マイクに声をかけると、少し遅れて出てきたスーツ姿の男が振り向きもせずに二人の後を歩き始める。

 あなたのおかげで、私は死ぬ気で努力しなければならないところまで追い詰められ、自分ひとりでそれを乗り越えて強くなったの。ほら、あなたの希望通りでしょ?

 朱夏は携帯電話を取り出すと、「確認できました。一緒にいる女は会社の総務課の祥子です。調査時間を延長しますか?」と、メールを打った。
 ブブブブブーッ。ブブブブブーッ。
 泰雅の妻の携帯電話が、マナーモードでメールを受信していた。

 花火が遠くで小さく開いている。でもまだ、星も見えない。


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このストーリーに関するコメント

12/07/17 汐月夜空

うう、すみません……。
何回か読み直してみたのですが、朱夏と泰雅、そして泰雅の妻の関係が抽象的で完璧には理解できませんでした。
朱夏と泰雅が昔恋仲で、泰雅が浮気をして朱夏がそれを自分のための行動だと考えた。しかし、泰雅の浮気性はやまず、現在の奥さんから探偵をしている朱夏に依頼が入っての場面、と読んだのですが間違ってたらすみません。
田舎の地域性に関する描写や、老夫婦の会話はリアリティがあってなるほどな、と思いました。
最後の締め方は暑い夏に背筋をひやりとさせてくれますね。

12/07/17 智宇純子

汐月夜空 様

コメントをありがとうございます!
はい。大変わかりにくいと思います。はしょりすぎましたね(汗)
朱夏と泰雅は同郷出身の恋人同士だった(朱夏は田舎に戻り、泰雅は都会に残る)→泰雅は田舎に縛られている朱夏を強引に都会に引っ張ってくる→さほど時間を開けずに泰雅に恋人ができる。そしてその人と結婚→都会に一人放り出された朱夏は、田舎にも戻れずになんとか食べていこうと頑張る→偶然に泰雅の妻から依頼が入る。しかし、それは本当に偶然なのか、朱夏の復讐なのか(ここはあえてハッキリさせないでおきます)。
そんな流れのつもりでした。本当にすみません!!

12/07/25 智宇純子

雨後晴 様

コメントありがとうございます。
推敲が不十分、まったくその通りです。書き散らかしてしまった感があります(汗) 悪い癖です。

最後まで読んでいただけて嬉しかったです。ありがとうございました!

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