1. トップページ
  2. テーブルマジックのキング

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

2

テーブルマジックのキング

15/03/23 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:5件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2403

この作品を評価する

 スーパーの商品搬入口にパトカーが横付けになり、二人の警官がおりてきた。
 さっき店から万引きをつかまえたとの通報があった。
 スーパーの控室には、店長らしい三十代の男性と、そのむこうにテーブルをはさんでひとりの、無精ひげもみすぼらしい中年男がうなだれて座っていた。
「あ、おまわりさん、この男です、店の商品を万引きしたのは」
 二人の警官を見比べて、歳のいったほうに店長は語りかけた。体格のいい若いほうは、まんがいち男がにげだしたときの用心に、入り口のそばに立った。
 横山巡査長は、すっかり観念した様子の男をながめた。
 男のよこには、万引きした商品の、肉と惣菜のパックや、調理パン、チーズ、羊羹、瓶入りのインスタントコーヒーなどが、ひとまとめにしておかれていた。
「ずいぶんとまた、万引きしたものだな」
 横山の言葉をひきついで、店長が、
「以前にもこの男が店にくるたびに、商品がへっていることが何度かありました。常習犯にまちがいないです。―――これだけのものをかせぐのに、うちの従業員がどれだけ一生懸命はたらかなきゃならんのか、おまえはしってるのか!」
 と、声を怒りにふるわだすのをしった巡査長は、かわりましょうといって、店長と交代して椅子についた。
「名前は?」
「倉崎健介です」
「倉崎健介………どこかできいたような名前だな。歳は? 住まいはどこだ?」
 男はきかれたことは、なんでも素直にこたえた。年齢は横山とおなじ、四十二歳だった。
「正直にこたえろ。これまでにもこの店で、万引きしたことがあるんだろう」
 黙り込む相手を、上目づかいにみつめながら横山は、これはじっくり詰めれば、落ちるなと確信をもった。
 するとそのとき、男の万引き現場をみつけた店の就業員がいきなり、おもいだしたと声をはりあげた。
「なにをおもいだしたのです?」
 横山がきくと、その従業員は、赤ぶち眼鏡のおくから目をかがやかせて、
「このひと、マジ・SAKIだわ」
「マジ・SAKI………」
 横山もすぐにおもいだした。七年ほど前まで、テレビのマジックショーなどで、テーブルマジックのキングといわれて人気のあった、マジ・SAKI。たしかにそうだ。顔色もわるく、すっかりやつれてはいても、なにもないテーブルの上に大小のボール、リスや鳩、それにおおきなウサギをとりだしては一瞬後に消し去って、あっけにとられる観客たちをまえに、さっそうと見得を切っていた当時の、得意満面の彼の面影が、横山の記憶にありありとよみがえった。
「そうだ、そうだ。あんたはあのマジ・SAKIだ。おれはあんたのファンだったんだぜ。あのみごとなテーブルマジックは、いまでもはっきりまぶたにやきついている」
 そのマジ・SAKIが表舞台からきゅうにいなくなってしまった。浮気問題や、金銭トラブルなど当時、いろいろよからぬ噂をかきたてられたが、いつのまにか人の口にその名を語られることもなくなって日がたち、そしていま、横山のまえに、みじめな万引き犯としてあらわれたのだ。
「おれはもういちど、あんたの芸術ともいえるマジックをみたかったよ」
 つい横山の口調は、倉崎の体たらくをなじるかたちになった。
「おまわりさん、タバコをくれないか」
 それには横にいた店長が、また激昂しそうになるのを、まあ、まあとなだめて横山は、ポケットから煙草をとりだした。
 一本ぬきだそうとするのを、倉崎はとめて、
「箱ぐち、わたしてください」
 巡査長は、その意味をはかりかねながらも、いわれたとおりタバコを箱のまま彼にわたした。
 倉崎はそのタバコをしばらく手にのせて、とみこうみしていた。
 やがてそれを、テーブル上に置くと、手のひらをタバコの上で交錯させ、その手にふっと息をふきかけた。
 彼がサッと手をひいたとき、テーブルからタバコは消えていた。一瞬だが周囲から、どよめきがあがった。ただ一人カチカチ頭の若手の巡査が、
「巡査長のタバコはどこだ」
 と詰め寄ると、倉崎の手がその彼の胸のあたりに軽くふれたときには、タバコは彼の手のなかにあった。
「おみごと!」
 いってから横山は、ばつがわるそうに頭をかいた。
 あんた、いまでもこんなマジックがつかえるのに、どうして万引きなんかを? とといかけようとした巡査長だったが、いまの彼のマジックに、多少興奮していたこともてつだって、つい、
「あんた、どうして万引きした商品を、マジックで消さなかったんだ?」
 と、警官にあるまじき発言を発してしまった。
 倉崎は彼にタバコを返すと、ひと呼吸おいてから、ぽつりとこたえた。
「そばにテーブルが、あったらな………」
 このときだけはやつ、人気絶頂時のマジシャンマジ・SAKIにもどっていたなと、あとになって横山はふりかえった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/03/23 海見みみみ

W・アーム・スープレックスさん、拝読させていただきました。
テレビスターの末路、悲劇ですね。
読んでいて胸が苦しくなりました。
「そばにテーブルが、あったらな………」
このセリフから哀愁を感じました。
ぜひ悔い改めてまたテレビに戻ってきて欲しいです。

15/03/23 W・アーム・スープレックス

上から16行目の、『と、声を怒りにふるわだす―――』は『と、声を怒りにふるわしだす―――』が正解です。失礼しました。

15/03/23 W・アーム・スープレックス

海見みみみさん、コメントありがとうございました。

じつはだいぶまえにも、マジック物を書いたことがありまして、そのときは受験生が、マジックでカンニングするというストーリーでした。
こんどは万引きと、マジシャンの人がみたら、怒るかもしれませんね。
私もマジックの大フアンです。
なにもないところに物を出現させるマジックと、なにもないところから話を作り出す創作には、どこか共通点があるように思えてなりません。

15/04/20 光石七

拝読しました。
私もテーマからテーブルマジックを連想したのですが、話が膨らまなくて……
一世を風靡したスターマジシャンの転落、もの悲しさを感じる一方で、ラストで「テーブルが無いと何もできんのかい!」とズッコケて笑ってしまいました。
面白かったです。

15/04/20 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

私も老後―――あとどのくらいかな?………には、手慰みにマジックでも趣味にしたいと思ったりしています。
人を驚かせる楽しみは、創作もおなじですが、私がマジックをやったら、やっぱり創作と同じに、最初からネタがバレバレになることでしょう。

ログイン