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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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閃光華火

12/07/16 コンテスト(テーマ):【 花火大会(花火) 】 コメント:7件 汐月夜空 閲覧数:2262

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「華凜、それじゃ駄目だ」
 里屋煙火製造所の工場の中で、華凜は初めて父の静かな駄目出しの声を聴いた。
 華凜にとってこんなことは初めてのことだった。父は華凜が今までしてきた失敗に対して、いつだって怒号を上げてきた。
 花火を造るという仕事は命に係わる仕事だからだ。
 空で開けば人の命を揺らすほどの衝撃を与える花火も、地で開けば簡単に人の命を散らしてしまう。
 父の怒号が華凜のことを思ってのものだと言うことを、華凜は痛いほど知っていた。
 しかし、今日の父の言葉は穏やかだった。それに、今日の花火は今までに何度も造ってきたもの。間違いがなかったことは華凜が一番よく知っている。
 それでも父は、その重たい口を開いた。
 それが何を意味するのかもまた、華凜は痛いほど知っていた。
「お前の造る花火には魂がこもっちゃいねえ」
 魂、父が好んで使う言葉だ。『花火には職人の魂が宿る。だからこそ、闇夜をあんなにも眩く照らすんだ』と、子供のような笑顔でいつも語ってくれた。
 華凜は世界が眩むのに耐えるように唇を噛みしめて、父の話に耳を傾ける。
「配合、星掛け、仕込み、玉貼りのすべてにおいて、お前の技術は悪くねえ。仕事も丁寧だ。及第点と言ってもいい。……だが、華凜。お前の花火はそれだけだ」
 父は華凜が先ほど玉貼りを終えた玉を掴みあげて、ひょいと手の上で軽くほうり上げる。その飛び筋は一見まっすぐだが、少しぶれている。真円ではありえない証拠だ。
「……そんな」
 華凜はそれを見て、絶望の声を上げる。
 馬鹿な。今回は完璧だったはずだ。すべての工程に神経を限界まですり減らして、最高の花火を作り上げたはずだ。
 ――それなのに。
「お前の花火はしけってやがる」
 父は掴み取った玉を元の場所にそっと戻して華凜の目を覗き込んだ。
 まっすぐな目だった。決して華凜を非難するものではなく、本気で心配している目。
 その優しさが華凜には痛かった。
「もちろん、本当にしけってるなら俺はお前に玉を作らせたりしねえ。しけってるのはお前の中の花火、――魂だ!」
 自分の胸をダンッ! と強く叩きつけて、父は朗々と語り続ける。
「華凜、お前は確かに家の後継だ。だが、決して工場の後継じゃねえ。そこを一緒にするな。お前が花火を造りたくないわけじゃねえことは見りゃ分かる。だがな、何のために造るのか、何を目指して造るのか、それがお前には見えちゃいねえ。……工場の皆を見てみろ!」
 父はこの騒ぎに集まってきた皆をぐるりと右手で示した。
「この道三十年を超えた皆が最高の花火を造ることはお前も知っているだろ? それがなぜ出来るのか、考えたことがあるか? 答えは簡単だ。お前の完璧、完成形はあくまで地上の話だけだ。他の皆は花火を造る際に、既にそれが天に打ちあがったイメージを持っている。それが、各々の工程で出来た歪を修復できる最高の要素だ。才能と言い換えてもいい。つまりだ、……」
 ふう、と息をついて、重みのある声で父は言った。
「皆、花火を世界で一番愛しているのさ。だから、未来を花火だけに使える。だから、皆が造った花火は眩い世界に輝くのさ。その明りが皆の、――『夢』、だから」
 父がそこまで言ったとき、華凜は父の言いたいことをようやく理解した。とうの昔に漏れていた涙と鼻水を火薬臭い作業着の袖でぐじりと拭う。そんな風に父の真意を察した華凜に気付かずに、父はまだ語る。
「良いか、華凜。この世界に完璧や完全なんか存在しねえ。あるのはせいぜい不完全の寄せ集めだ。だからこそ脆い。だからこそ修復を余儀なくされる。だから、お前はまだ……」
「分かったよ、父さん。……私はもう、諦めないから」
 ようやく華凜の喉から出た声は、ぐしゃぐしゃの涙声だった。だけど、その声が父に伝わっていることは確かめなくても分かった。父もまた、その両の瞳に光を湛えていたから。
 華凜には、花火と同じくらい大切な夢があり、それに真剣に取り組んでいた。だが、歳を重ね、決断を迫られた時、華凜は自然に花火を選んだ。
 その選択が真剣であることは華凜が一番知っていたが、逃げであることもまた華凜は知っていた。
 ――父は、それに気づいていたんだ。
 まだ少し悩む心を宥めるように胸に手を当て、華凜は父に思いを伝える。
「父さん、……不完全だから、あんなにも花火は綺麗なんだね」
「……ああ、そうだ」
「……ありがとう、父さん」
「……ああ、父さんは華凜のことを、いつでも応援してるからな」
「……うん!」
 父の肯定で火が入り、熱を持った華凜の魂にもう迷いは無かった。
 今ならばきっと、自分の造る花火は夜空を眩い光で裂くことだろう。
 華凜は決意を胸に作業着を下ろし、まだ暗い夜空を目指すのだった。
 いつの日か己の魂を遥か遠い天へと打ち上げるために。


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このストーリーに関するコメント

12/07/16 汐月夜空

 参考資料として、山崎煙火製造所さんのHPの中の『花火ができるまで』というページを参考させていただきましたのでここに記しておきます。
http://www.yamazakienka.jp/hanabigadekirumade.html
 とても分かり易かったので助かりました。なお、この作品は真剣に書きましたが、如何せん私が経験したことのない仕事ですので間違いなどあるかもしれませんが、その点ご了承下さいませ。
 追記ですが、先に投稿しました線香花火の方ですが、推敲が足らず読みづらくてすみません。
 大洋→太陽、をはじめとして誤字が数点あることと、最後の締めに『――来年のお盆まで。』はいらなかったですね。ほかにもありますが、これくらいで。
 この作品を読んでくださってありがとうございました。

12/07/18 W・アーム・スープレックス

汐月夜空さんの作品、よくできているとおもいました。構成もしっかりしているし、父と華凛の人物像も描けていて、全体に揺らぎがありません。ただ、よくできている作品から一歩、ふみだすにはどうすればいいのかが、これからの課題になりそうですね。汐月夜空さんのカラーがでるのは、そこからだとおもいます。おたがいに、書き続けていきましょう。

12/07/18 汐月夜空

W・アーム・スープレックス様
コメントありがとうございます。

>ラーメンに例えるならば、いかにチャーシューがうまかろうが、いかに麺に腰があろうが、スープが駄目ではラーメンとは言えないように。多分、そういうことなんだろうと今なら分かる。
今の私が目指すべきは、汐月夜空印のスープを作ること。それだけ。これからたくさん賞の応募があって、それぞれにプロットを作り始めているけれど、それらのプロットはいわゆる普通のラーメンの作り方だ。特別な材料なんか使ってない、だけどおいしいラーメンになるはずのもの。
それがまずいということは、根本から見直さなければならないってことだ。よーし、頑張るぞ。

と今年の五月八日の自分のブログで書いていたのを思わず思い出してしまうほど嬉しいコメントでした。
ようやくスタート地点に近づいてきたようで、嬉しいです。これからは、ようやく具材や出汁、調理法にこだわっていけそうですね。
汐月夜空印のスープ、いつ提供できるか分かりませんが、頑張ります! お互い書き続けていきましょうね!

12/07/21 そらの珊瑚

夜空さん、拝読しました。

仕事もの(というジャンルがあるかどうかわからないけれど好きなので、興味深く読ませていただきました。
プロフェッショナルな心意気を感じさせてくれる小説、いいですね。
花火師という職業は、危険と隣り合わせであるがゆえ、それに真剣に立ち向かう心が一番大切なのですね。
危険な仕事を子に継がせるというのは、親として葛藤もあったと思いますが、全面的に応援している父親というのは素敵です。
優れた職人は、生き方もぶれない。そこに感動しました。

12/07/21 汐月夜空

そらの珊瑚様、コメントありがとうございます。

仕事ものを書ける作家さんってすごいですよね。
綿密な取材を繰り返して糸を紡ぐように物語に現実を織り込んでいく。
並みの情熱ではできないことですし、それだけの情熱を与えるほど魅力的な仕事も素晴らしいものです。
私は人の話を引き出すことが苦手なので、将来的にこのような仕事ものを書くことは出来そうにありませんが、たまにはこのような作品を書いてみるのも新鮮でいいと思います。
感動していただいたとの言葉、本当に嬉しかったです。次のコンテストの甲子園は参加するか迷ってますが、次回も頑張ります。
何をするでも魂が大切、私はそう思っています。

12/07/24 かめかめ

娘さんは花火以外の夢に戻るのかと思いましたら、違った。

12/07/24 汐月夜空

>かめかめさん
コメントありがとうございます。
いえ、著者としてはそのつもりで書きましたので正しいです!
他の方のご感想を読んで、また正しく伝わらない文を書いてしまったと少し落ち込んでいましたが、伝わったようでよかったです。
不完全だから花火は綺麗、追いかけていた夢に自信が持てなくても、完璧である必要はないんだ、という思いで書きました。
比喩が多くて読みづらかったと思いますが、ご感想ありがとうございます。

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