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つつい つつさん

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いのり

15/03/20 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:4件 つつい つつ 閲覧数:1241

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 今日で集団登校も四日目だ。三つ下の妹の由紀と同じクラスの瑠奈ちゃんが学校帰りに行方不明になってもう五日も経つ。近所の小学生七人で学校に行くけど、どの交差点にも黄色い旗を持ったおじさん、おばさんや警察の人が立ち、学校の前にはTV局の人とか毎日中継してるから、これじゃ不審者なんて寄りつくはずがない。だから今は安全だけど、騒ぎが収まってからが怖いって思う。
「昨日、伊織ちゃんがインタビュー受けてたよね」
 同じ五年生の有紗ちゃんが話しかけてきた。
「うん、あの服、伊織ちゃんだよね。顔隠してても、服でわかるよね」
「伊織ちゃん、遠足とか学芸会とかイベントの時はいつもあのブランド着てるよね」
 私達が仲良く話してると決まって由紀が割り込んでくる。
「なんのブランド?」
「あんたには関係ないの。話入ってこないで」
「お姉ちゃんに聞いてるんじゃないもん。有紗ちゃんに聞いてるんだもん」
 由紀が有紗ちゃんに優しく頭をなでられ、嬉しそうにしてる。「有紗ちゃんはお姉ちゃんみたいにいじわるしないから有紗ちゃんがお姉ちゃんだったら良かったのに」って、由紀はよく言うけど、あんたみたいなのと四六時中一緒にいたら、有紗ちゃんだって、いじわるするに決まってる。
 それにしても、まだ二年生の由紀は事の重大さがわかっていない。こうやって集団登校してるのも犯人がまだ捕まっていなくて危険だからなのに、ただみんなと登校出来るのが嬉しくて無邪気にはしゃいでる。この地域では、瑠奈ちゃんが行方不明になる前に隣の市の小学生がひとり行方不明になり、近くの川の河川敷で死んでいるのが発見されている。そのせいで周りの大人達は神経質になりピリピリしている。
 瑠奈ちゃんはとても明るくて可愛い子だ。由紀とも仲良いから、よくうちに遊びに来ていた。笑うと少し覗く八重歯がとても印象的で、いつも二人で元気に遊んでいた。でも、瑠奈ちゃんが行方不明になったのに、由紀は驚いたり泣いたりすることもなく、あんまり寂しそうにしてないのが私には不思議だった。
 瑠奈ちゃんがいなくなった日、瑠奈ちゃんのお母さんが心当たりないかと訪ねてきたけど、いつも穏やかで優しく微笑んでる瑠奈ちゃんのお母さんが、あんなに取り乱しているを見てびっくりした。あれから瑠奈ちゃんの帰りをずっと家の前で待ち続けているけど、見るたびに元気がなくなってきている。このままでは、瑠奈ちゃんのママが倒れてしまいそうで心配だった。
 うちの家でもパパとママがすごく心配してるけど、事情がわからない由紀に気づかれないようにわざと明るくふるまっている。この前トイレで夜起きたら、パパとママがこれから学校の行き帰りどうしようかって相談していた。どこの家も塾や習いごとに通わすのにもすごく気を使っている。親が交代で付き添ったり車で送り向かいしたり、みんな大変そうだ。
 もう少しで学校というところで、急に騒がしくなった。TV局の人や警察の人が慌ただしく動き出し、ところどころで無遠慮な声が飛び交った。
「え、また河川敷で……」
「今度は前の場所より上流らしい」
「ランドセルに名前が書いてあったらしいぞ」
 私は腹がたった……だって、その声は荒々しかった。その声は瑠奈ちゃんを心配したり誰かを気遣う心が少しも含まれていなかった。
 それを聞いて、通りに立つ大人達も、学校の先生もみんなショックを受けた様子で黙りこくった。あたり一面に悲しい空気が張りつめた。私達もその場に立ち尽くしてしまい、中には泣き出す子もいた。
 そんな中、由紀だけがきょとんとした顔できょろきょろと周りを見渡していた。私は、おもわず、由紀の手を強く握りしめた。
「痛っ……どうしたの、お姉ちゃん?」
 私は「なんでもないよ」って首を振り、また歩き始めた。他の子達も私の後ろをただ無言でついてきた。
「お姉ちゃん、わたし、瑠奈ちゃんがどこいったか知ってるよ」
「えっ?」
 私はびっくりした。由紀はなんにもわかってないって、安心してたのに、こんなタイミングで気づくなんて。
「瑠奈ちゃんね、お城にいったんだよ。ずっといきたいって言ってたもん」
「お城?」
「うん。白くて綺麗な外国のお城だよ。前、写真見せてもらったんだ」
 由紀がとても大切な秘密を打ち明けたような顔をして笑っていた。あまりの他愛のない話に力が抜けそうになったけど、私は受け入れることにした。
「うん、そうだね。きっと、そうだよ……」
 となりにいた有紗ちゃんも少し微笑み、静かにうなづいた。そのほうがいい。きっと、瑠奈ちゃんは、お城にいったんだ。今頃、外国の真っ白なお城でお姫様みたいに可愛いドレスを着て楽しく暮らしているんだ。そうであってほしいと、無邪気に笑う由紀の顔を見ながら、私はそう祈った。


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このストーリーに関するコメント

15/03/20 海見みみみ

つつい つつさん、拝読させていただきました。
瑠奈ちゃんに何があったのか。
その真相はとても悲惨で直視できません。
だからこそ由紀の子供らしい言葉がある種の救いになっていますね。
瑠奈ちゃんにはぜひ外国のお城でお姫様みたいに楽しく暮らしていて欲しいものです。
それが例え儚い夢であっても。

15/03/22 つつい つつ

海見みみみ様
感想ありがとうございます。
嫌な事件が起こるたびに、もっと相手のことや周りの人のことを
考えないのかとつらくなります。
現実もハッピーエンドがいいのにと思います。

15/04/03 つつい つつ

志水孝敏様
感想ありがとうございます。
テーマがきつい部分もあったので、無意識に淡々とした気がします。
深く読んでいただき、ありがとうございます。

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