1. トップページ
  2. ドライ・ドライ・ドロー

辛楽さん

幻想的なもの、奇抜なもの、切ないもの。 心に直接訴えてくるような物語に憧れています。 読んでいて恥ずかしくなるような拙いところもあると思いますが、これが僕の世界です。 絵は友人にかいていただきました。タバコ吸いません!ピアス開いてません!眼帯してません!ってもはや似顔絵じゃない

性別 男性
将来の夢
座右の銘 良きにも悪しきにも忠実に、されど人道外れずに。

投稿済みの作品

1

ドライ・ドライ・ドロー

15/03/17 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:1件 辛楽 閲覧数:1055

この作品を評価する



ここのクロワッサンは実に美味い。
ハニーシュガーのコーティングをサクサクと貫きバターの香るデニッシュ生地を噛みしめると、じゅわりとヨーグルトのような良い酸味の甘いシロップが溢れてくる。

「俺、甘いのダメなんだよね」

眺めていたグルメ雑誌を閉じる。表紙を飾るのは特に女性に好まれそうなお洒落なカフェ「マーヴェルハニー」。今まさにテラス席を確保しているこの店だ。
愛称はマニーで、マニクロの名で愛される看板商品、マ・ニーのクロワッサンは贈答品としても強い人気を誇る。
そして様々な情報網を通して男性に強い人気を誇るのが、七橋店の女性店員。たしか名前が……

「可愛いよなぁ、リンカちゃん」

そう、リンカだった。園田鈴果。
満員の店内を優雅に泳ぐセミロングの子。
明るい茶髪だがやんちゃそうには見えないし、上品な雰囲気がある。
制服もワイシャツに黒いネクタイ、エプロン、ズボンとオーソドックスなもので店の雰囲気と合っている。

「一週間ぶりだけど、俺のこと覚えてると思う?」
「……さぁね。客の一人一人なんて覚えてないと思うけど」

あーでも、金髪のチャラそうな奴、っていう程度には覚えてるかもよ。
そう付け加えるとアキは「ひえ〜っ」と裏声を出しながら両手で顔を覆った。
アキは見た目がこの上なくチャラい。短い金髪に細い眉、右耳に三つ、左耳に二つのピアスをつけている。服はなんのブランドなのか、ピカソの絵みたいな大きいロゴのシャツを好んでいつも着ている。
ハンドボールで鍛えた筋肉にでかい手。あの手で頭をわしづかみにされた時、本気で脳みそ潰されると思った。
しかし可愛い部分もあるもので、アキは重度の赤面症だった。幼稚園からの付き合いだが、気になる女の子を前にした時のアキは見ているこっちが恥ずかしいくらい真っ赤になる。
そして今も園田を眺めては熱くなった顔を仰いでいるのだから、まるで女子と居るようだ。

「望、なにか注文しろよ」
「なんで俺なんだよ!」
「親友だろ、コーヒーの二つやパンの二つ、頼んでくれてもいいじゃねぇか」
「なんで俺がアキの分まで頼まにゃならんのだ」

ぎゃあぎゃあと言い合う二人の男。
しかし幸運の女神というのは案外容易く微笑んでくれるもので、俺達のテーブルになにも並んでいないのを見た園田がこちらへ寄ってきた。

「ご注文お決まりですか?」
「はひっ」

落ち着けアキ。
滝のような汗、今にも白眼をむいて卒倒しそうだ。

「アイスコーヒー二つとクロワッサン一つ、あとシフォンケーキ、トッピング無しで」
「かしこまりました」

俺が助け船をだすと、園田は柔和な笑みを残してカウンターの奥へと消えていった。

「ふう、よくやった」
「おいコラ」

もはや何も言うまい。ただし会計は全額お前持ちだ。
出来る限り鋭い眼光でアキを睨む。アキはアキで、グルメ雑誌を開いてその向こうに隠れた。

それにしても本当に、俺とアキは正反対だ。
俺は甘いものが嫌いだ。好みのタイプも園田みたいなのじゃなくてもっとこう、図書館に入り浸ってそうな暗い子。その方がうるさくないし、女子特有のエネルギーに振り回されなくて済みそうだ。
アキは甘いものが大好きでコーヒーなんかはもちろん、祖父母の地域柄とか言って納豆にまで砂糖をかけやがる。
好みのタイプは森ガール。こちらもゆるふわだとか、癒し系だとかふわふわしたニュアンスの子。
ひよひよ、と電線にとまった小鳥を眺めて、真上の晴れた空を仰ぐ。

「いい天気だなぁ……」
「えぇ、本当ですね」
「「!?」」

ものすごい勢いで体勢を戻すと、コーヒーとパンの乗ったトレーを持って園田がニコニコしている。
いつからいたんだ……
驚きにドキドキと跳ねる胸を抑えながら、受け取った手拭きを広げた。

「あ、あの」
「はい?」
「俺の事、お、覚えて……すか」

勇気を出したものの声が小さすぎて一部が聞き取れないぞ。
シフォンケーキの皿を引きよせてコーヒーを含む。きっと今の俺は眉が寄っている。

「アッキさんでしたよね?ギデンネがお好きな」
「そ、そうです!嬉しいな、覚えててくれたんだ」
「私も好きなんです、そのブランド」

ギデンネっていうのかそのピカソのブランド。
ちゅううと音を立ててちびちびとコーヒーを飲む。空腹の食道を駆け抜ける冷たい感覚。

園田が別のテーブルに呼ばれ、アキは気迫のない笑顔を向けると俺に言った。

「ギデンネ着ててよかった」
「うんうん、ヨカッタネ。アッキじゃなくてアキだけど」
「今日からアッキになる」
「ふうん」

俺はアンタのその伸びきった顔に嫉妬してるよ。
誰のために好きでもないスイーツなんかに付き合ってやってると思うんだ。



そう俺は、アキのその真っ赤な顔が俺に向けられない事がたまらなくじれったい。






コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/03/18 海見みみみ

辛楽さん、拝読させていただきました。
このオチはいいですね。
主人公の想いが伝わってきて切なくなります。
アキはその想いに気づくのか。
アキの淡い恋心も応援したいだけに気持ちが複雑です。

ログイン