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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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危険な依頼

15/03/16 コンテスト(テーマ):リレー小説 【 相談屋ケイジロウ 〜新宿編 @】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1469

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 ケイジロウに山園遥から電話があったのは、冬をまぢかに控えたある日のことだった。
『なんでも相談ひきうけます』のうたい文句で、チラシのポスティングを依頼したのがひと月まえで、入った仕事が迷子の猫探し3件、警察にはたのめない落し物の拾得、億万長者のマンションのハウスキーパー、恋人いない歴30年の女性の1日彼氏、さらに70歳の未亡人のエスコートといったところだった。罪がなく、実入りもそこそこあってわるくはないのだが、できるならもうちょっと、危険な香りのする相談がきてほしかった。
 そんな彼の携帯に、彼女から電話があった。
「ご相談の内容を、うかがいたいのですが」
 たいして期待もなしにたずねたケイジロウの耳に、驚愕すべき返事がかえってきた。
「人を殺したいのです」
「それは、本気ですか」
「はい。よく考えたうえのことです」
「だれか、殺意を抱くような相手がいるとか―――」
「いえ、そんな人はいません。だれでもいいのです。都会にすんでいるうちにわたし、だんだんと自分の本心みたいなものがみえはじめてきて―――」
「それが、殺人だったというのですか?」
「はい。もしかしたら私の遺伝子のなかに、そういう衝動をひきおこすものがくみこまれていて、田舎生活で眠っていたものが、新宿という街に暮らすようになって、頭をもたげたと思うのです」
「わかりました。お名前と、連絡先をおしえてもらえますか」
後ほど連絡すると断って、彼は電話をきった。


 
 山園遥はその朝、SATUコーポレーションをたずねた。コーポレーションというもののふつうのマンションの一室で、部屋には机と、一人の人物がまちかまえていた。
「麦丘ともうします。さっそく、要件にはいりますが」
 茶髪にそめた、自分より年上の女性の言葉に、遥はうなずいた。二度目にかかってきたケイジロウの電話で、そこはなんでも、殺人を請け合う組織らしく、ここにいけばあなたの望みはかなえられるだろうと示唆されたのだった。
「人が殺せますか?」
 麦丘の単刀直入な質問に、遥は答えた。
「殺せると思います」
「過去に、だれかを殺したいと思ったことは?」
「私が自分の中にある殺人の本能に気づいたのは、つい最近です」
「わかりました。では、研修をうけていただきます。あなたが、本当にヒットマンになれるかどうかを、たしかめます。これを」
 麦丘は遥に拳銃を手わたした。
「これで、だれを?」
「あなたには関係のないことです。それではこれから、でかけましょう」 
 下の駐車場にとめてあった乗用車に遥をのせると麦丘は、さっそく車を発進させた。
 一時間ほどで車は、白い壁におおわれた建物の前で停止した。人影のないオフの別荘地は、静寂にみちていた。
 階段を上がり、建物に入ると麦丘は、窓をあけて、
「もうすこししたら、男がやってきます。あなたは、その男を撃つのです」
 遥の胸は激しく高鳴った。
「どうしたの。いまになって、できないというの?」
「いえ、そんなことはありません」
「きたわ」
 まもなく、下の門扉に近づいてくる男の姿が見えた。
「はやく撃つのよ」
「は、はい」
 銃は遥の手の中で激しくゆれうごき、下の人間に銃口を定めることなどできそうになかった。
 いきなり麦丘が遥を押しのけると、いつのまにか握りしめていた銃を外にむかって突きだした。
 二発の銃声がたてつづけにおこり、男はもんどりうって倒れた。その男めがけて麦丘がたたみかけて発砲した。彼女の氷のような冷静さをまのあたりにして、ふるえあがる遥に、男のものすごい絶叫がおいうちをかけた。
 とうとう遥は、拳銃をなげだし、その場にしゃがみこんでしまった。
「あなたには、この仕事はむいてない。殺人なんてこと、もう考えちゃだめよ」
 麦丘がさとすようにいうと、遥は、涙にまみれた顔でうなずいた。。
「さ、駅まであなたをおくっていくわ。だいじょうぶ。死体はすでに、始末されてるから」
 遥はこわごわ地面をみおろした。帽子とサングラス姿の男が一人、こちらにむかって手をふった。
「かれも、コーポレーションの一員よ」
 男は、遥がのった座席の横にすわったが、駅まで一言も口をきくことはなかった。
 遥をおろしてから、ふたたび走りだした車の中で、麦丘と男が声高くしゃべりはじめた。
「これでもうあの子も、人を殺すなんてことは、二度と思わなくなるだろう」
「あなたも、ひどい殺され方を演じてみせたものね」
「彼女からふりこまれた相談料分ぐらいは、やってみせなくてはね」
「相談屋も楽じゃないわね」
「これから、けっこうおもしろくなりそうな予感がするよ」
「それよりも、今月分のお給料、はやくしてね。ケイジロウさん」
「了解しました!」
 二人の笑い声を残して、車はふたたび、新宿めざして走りはじめた。


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このストーリーに関するコメント

15/03/16 海見みみみ

W・アーム・スープレックスさん、拝読させていただきました。
見事なオチに「やられた!」という感じです。
これがリレー小説の第一話ということで、かなりハードルが高くなりましたね。
これからこの作品に並ぶ面白い小説が読めるのかと思うととてもわくわくします。
見事な第一話、おつかれさまでした。

15/03/16 W・アーム・スープレックス

海見みみみさん、コメントありがとうございました。

そんなにハードルは高くはないと思いますよ。みなさん軽々と飛び越えて行かれるのではないでしょうか。
面白い企画で、いつもとちょっと勝手はちがいますが、自分の創作の世界がこれによって開けてくれればいいのですが。

15/04/10 光石七

拝読しました。
こういう形で解決されるとは、ケイジロウさん凄腕ですね。
危険な香りがお好きということは、今後も……?
麦丘さんとのコンビも期待できそう。
長編の冒頭としても、この一編でも楽しめるお話だと思いました。

15/04/10 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

相談の依頼次第で、いくらでもストーリーがひろがっていくような、テーマですね。
はやく光石さんも、出してください。お待ちしております。

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