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優月さん

初めまして。

性別 女性
将来の夢 北海道に住む
座右の銘 人を疑え

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彼女は己を偽り、嫉妬は花を咲かす

15/03/16 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:2件 優月 閲覧数:1230

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「嫉妬は罪――」
 磁器のように整った、人形のような下肢が片方だけ空中に伸びる。
 その行為によって、女の下肢に絡みつくように花を咲かせていたヒヤシンスがぶちりと千切れた。
 はらはらと舞い散ったヒヤシンスの赤黒い花弁は、女の下肢を伝いするすると滑り落ち、そして腐る。
「それは誰の言葉でしょう――」
 女は淡々と呟く。
「そんなことはわかりきっているのです――」
 伸ばし、ぴたりと静止していた下肢がゆっくり下ろされる。
 すたん‥‥‥、と女の太腿が、ふくらはぎが、くるぶしが、ヒヤシンスの中に埋もれていく。
 全てを地面に横たえたとき、ヒヤシンスはしゃらしゃらと葉擦れの音をさせながら、まるで女の下肢を食べるように絡みつく。
 女は静かに目を閉じた。
「――いつだって、罪を創るのは嫉妬を見る側される側なのだから」

 女は、永遠を死ぬように生きていた。
 女に与えられたのは、嫉妬を喰らう快楽と、言葉と、永遠の命だけ。
 女は女であり、しかしそこに女の意思は無かった。
 女はまた今も、春夏秋冬一年三百六十五日も定かではない世界で、嫉妬をただ喰らう。
 血の気のない指先が、傍に咲く一本のヒヤシンスを手折った。女はそれを、なんの躊躇いもなく己の口元へ近づける。
 瞬間、女の意識が途絶えた。
 ああ、この光景――
 躰がどこかへ引きずられる感覚がして、何が何かも分からないうちに別の世界に落ちている。
 女は思う。
 また、また来る。
 ザザザ――
 一斉に響くノイズ音。ちらりと走る何か。ぞわりと鳥肌が立つ。
「――‥‥‥んで、何で私だけを見てくれないのよ!!」
 亜麻色の髪をした人間がどこかで喚いている。
 女には、その人間がどこにいるのか分からなかった。声だけが聞こえるようでいて、髪色、顔、姿、表情が分かる。
 この気持ちの悪い感覚が女は嫌いだと思った。
「私は可愛いわ!その女よりも!――いいえ、世界の誰よりも!!私はずっとずっと努力してきた!あなたに愛されたくて‥‥‥!なのに、なんで‥‥‥!」
 人間の顔にあるのは、涙と怒りと困惑と――嫉妬。
 女はくすりと笑う。
 私は、この時間が大好き。なんて醜いのかしら。――哀れな人間たち。
 そんな女に次に届いたのは、男の声。
 黒髪の、端正な顔立ちの男だった。
「‥‥‥確かに、お前は可愛いさ。でも、だめなんだよ。――お前のその、人を認めることができない性格が」
 男はそう言って、側にいた別の女の肩を掴んだ。
「俺は、こいつが好きだ。だから‥‥‥ごめん」
 ふっ、と全ての音が消える。
 ノイズも声も一瞬のうちに消え、目を開けるとそこはいつもの場所だった。
 戻ってきてよかったような、よくなかったような、そんな変な気持ちに襲われる。
「‥‥‥記憶の断片」
 女にとって今の体験は、初めてのようでもあるし、前にもあったような気がするものだった。
 女は再び目を閉じる。もう眠るつもりだった。その前に女は、いつものように起きてから今までの記憶を消す。
 記憶が残ったままだと、この世界はつまらない。
 女はそう考えて。
 つうーっと、女の頬を違和感が滑る。この世界には無い、形ないもの。
 それは、そのまま頬に跡をつけ、ヒヤシンスの上で弾けて小さな雫となった。
 女はそれを、気にも留めない。
 ――私は、人間の醜い嫉妬が大好き。そう、大好きなの。――‥‥‥大好きと、言い続けなければいけない――

 私が、壊れてしまうから。

 そうして女は、また明日も。


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このストーリーに関するコメント

15/03/16 海見みみみ

優月さん、拝読させていただきました。
とても不思議な雰囲気のお話ですね。
主人公である女が自らを偽り嫉妬を愉しむところがとても切ないです。
劇中で出てきた亜麻色の髪の女性も可哀想な人ですね。
常に自分が一番であるよう努力してきたから、他者を認められない。
彼女の強い嫉妬心が別の方向へと向かってくれることを祈るばかりです。

15/03/17 優月

海見みみみさん、コメントありがとうございます!
細かいところにまで気付いて頂き、こちらとしてはとても嬉しい限りです!!
正直、書いている時には話の意味が分かりづらいのではないかと危惧していたのですが、きちんと話の真意を理解して頂けて安心しました!
では、この辺で失礼いたします。

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