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レイチェル・ハジェンズさん

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性別 女性
将来の夢 冒険家
座右の銘 人生は上手くいくことばかりじゃない

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心の地震

15/03/12 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:2件 レイチェル・ハジェンズ 閲覧数:1382

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 秋も終わりを告げ、枯葉が足元で風に乗る今日この頃。
 イギリスの冬が近付いてくるな、と想像しただけで背筋に悪寒が走る。

 私は日本の大学を中退し、1年前に日本海を越え、アジアを超え、この地にやってきた。
「全国を駆け回るピアニストになりたい!」
 そのパッションに身を委ね、反対していた両親も友人も彼氏も押し切った。

 ヨーロッパの音大は不思議なもので、金さえあれば入学できる。
 それが唯一の救いか、悪魔のような制度なのか。
 私は日本で上の中は弾けるように思っていた。
 ここに来た途端「世界に通じる才能は私にはない」ことを思い知らされたのだ。

 昨日のオーディションもてんで話にならないと激怒された所だ……。

 思い出してしょんぼりと頭を下げる。溜息をついたら、幸せがいっこ逃げた気がした。
 紙袋からでたバゲットを見ると、桜の花びらが1枚飛んできてつっかえているのに気付いた。

 イギリスは確かに桜は咲くものの、今は随分と季節外れである。
 ……これは本当に桜の花びら? 疑問に思った。
 もしもし、ここには不似合いな所にいますね。
 ……何者ですか? 疑問に思った。

 足を止め、桜の花びらをつまむ。
 その瞬間、わっと私の脳内にある記憶のヒキダシが引っ張られた。

 実家近所にあるカフェ。
 そこでの思い出。
 河川敷の傍に建ててあり、河に沿って桜路が出来ている。テラスに出ると頬に春の息吹が感じられ、心がぱぁっと明るくなる。
 桜路を見詰めながらおしゃべりを楽しんでいた。

 小学生の頃、叔母と両親とチーズケーキを食べた。
 中学生の頃、友人とチョコレートケーキを食べた。
 高校生の頃、彼氏と苺ケーキを食べた。

 フラッシュバックが鮮やかすぎる。綺麗な映像が白い光を放ち、私を飲み込む。

「わっ」

 小さく悲鳴を上げる。
 瞬きをすると、私の視界は元いたロンドンの街並みに変わっていた。
 頭にハテナを浮かべながら、周辺を見渡す。
 私の手にはカラカラに乾燥した葉っぱが1枚、握られているだけだった。

 不思議な葉っぱを持ち帰り、ソファに寝そべって考える。
「さっきのはなんだったの――?」
 まるで魔法のような体験。
 ……枯葉は音もたてないし、色だって変化しない。緑色にも戻らない。
「長谷川さん、郵便ですよ」
「あ、はぁい」
 ソファから起き上がり、枯葉をテーブルの上に置く。
 ドアを開けて大家さんから郵便を受け取り、誰からだろうと手紙をひっくり返し差出人を見る。

 この前、MDを送ったオーディションの。

 シールをとって封筒を開ける。
 真っ白な紙が1枚。

 ごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと開いていく。
「ああ……」
 自然と出る残念な呻き声。
 手紙の溢れかえるゴミ箱に投入する。

 私は幾つオーディションを受ければ気が済む……?

「結構な自信作だったんだけどな」
 ベランダのカーテンがふわりと風にゆれたのが視界に入る。
 お母さんが焼いてくれるシフォンケーキみたいな、暖かくて柔らかい風。
「ベランダなんか開けてたっけ?」
 首をかしげながらベランダの窓を閉めようとする。

 その時。
 気分が暗くなるような曇り空に、数百枚の桜の花びらがひらひらと。

 思わず息を飲んだ。
「何なの?!」
 綺麗と思うのもつかの間、直ぐに窓を閉めなければという思考になった。
 大量の桜の花びらが押し寄せて来る。
 桜の波が私に体当たりする。

 間に合わない!

 ぐっと目をつむり、受け身をとる。
 花びらが頬をかすめ、桃にも似た甘い匂いが鼻をくすぐる。
 優しい、温かい、心地の良い風だった。

「千香ちゃんは、将来はピアニストになるのよねー」
「うん! そうだよ。
 将来は地球儀にある国ぜーんぶに行って、コンサートするの」

 叔母に夢を聞かれて、椅子の上に立ち上がってたあの頃。

「千香って音楽の橋本先生よりピアノ弾けてすごいよねー」
「大学はやっぱり音大に行くの?」
「うん! もちろんそのつもり」

 友達に褒められて、笑顔で胸を張っていた甘いあの頃。

「え……。千香は音大行くの? 初耳だよ、俺」
「だって初めて話したもん。小さい頃からそう決めてたからさ。
 アンタもバンドのボーカル頑張りなさいよねー」

 音大に行くっていうひとつのゴールから、順序の整った未来が見えなくなっていた。夢が茫洋としすぎていた。

 ――どうしてだろう。
 こんなに日本に帰りたくなったのは初めて。
 涙が出て来る。

 あのカフェでは、素直に全て打ち明けられた。
 一瞬で散ってしまう桜を見ていたら、悩みがちっぽけに思えて。

 日本に帰りたい。

 夢も追いたい。

 でも、日本に帰りたい。

 アジアを越えて、日本海を越えて。


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このストーリーに関するコメント

15/03/12 海見みみみ

レイチェル・ハジェンズさん、拝読させていただきました。
桜が舞い込むシーンの情景が美しくも恐ろしく感じられますね。
日本に帰りたい気持ち。
夢を追いかけたい気持ち。
その二つの思いで揺れる心。
果たして主人公はこの後どのような選択をするのか。
とても切なくなるお話でした。

15/03/23 松山椋

レイチェル・ハジェンズさま、拝読させていただきました。
「行って、帰ってくる。」人はどんなに遠くに旅に出ても、必ず家に帰ってきます。この小説はそんな構造になっており、書かれれるべき短編小説をよくわかってらっしゃるなあ、と感じました。『幸せがいっこ逃げた気がした。』ところどころに笑みがこぼれるかわいらしい表現もあり、頬がほころびました。いいものを読ませていただきました。ありがとうございます!

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