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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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短命庵の思い出

15/03/09 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:8件 海見みみみ 閲覧数:1447

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 高校時代、毎日のように食べていた短命庵のカツ丼。ふと懐かしいなと思っていると、過去のあの日へ帰るキッカケは、突然やってきた。

 仕事の出張で二十年前、高校生の頃に暮らしていた町へ訪れた。仕事はすぐに終わり、自由時間がだいぶある。俺はこの時間を有効活用するべく、高校時代に家から学校へと歩いた通学路を再び歩いてみる事にした。
 かつて通った通学路の景色は昔とほとんど変わっていなかった。その懐かしさに思わず感動する。これなら短命庵も残っているかな。そう俺は期待した。
 短命庵とは、通学路の途中にあったそば屋の事だ。周りに長寿庵というそば屋が三軒もあった事から、変わり者のご主人が「それならうちは短命庵だ!」と名づけたのが店名の由来だ。
 俺は高校時代、部活動で散々しごかれた後は必ず短命庵でカツ丼を食べて帰った。特別カツ丼が旨かったわけではない。だが俺にとって短命庵のカツ丼は間違いなく思い出の味だった。
 鼻歌混じりで通学路を歩く。短命庵のご主人は元気にしているかな。今日の昼飯は絶対短命庵のカツ丼にしよう。そんな事を考えながら歩き続け、短命庵の前に着く。そして俺は唖然とした。
 短命庵のあった場所。そこには一軒のマンションが建っていた。
 冷静に考えてみれば短命庵があったのはもう二十年も前の話だ。ご主人も結構な年齢だったし、お店もボロボロだった。廃業してしまうのも仕方のない話だろう。
 時の流れとは残酷だな。俺は深く落ち込み、思わずため息をついた。
「どうかされましたか?」
 すると一人の若い女性が俺に声をかけてきた。この辺りで暮らしている人だろうか。手には買い物袋をぶら下げている。よほど俺が落ち込んでいるように見え、心配して声をかけてくれたのだろう。
「実は短命庵という店を目当てに来たのですが、無くなっちゃったみたいで。それでがっかりしていたんです」
 女性に事情を説明する。すると女性の表情がにこやかな物に変わった。
「それならこちらへ来てください」
 女性が俺の手を掴み、引っ張っていく。一体何事かと思っていると、俺は近くにあるオシャレな飲み屋の前にまで連れて行かれた。
「お客様一名来店です!」
 女性が勝手に俺を店の中まで連れて行く。
「ちょっと。何のつもりですか」
「あそこに見えませんか? ほら」
 女性がカウンターの向こうを指さす。するとそこには意外な人物の姿があった。
「ご主人、ご主人じゃないですか!」
 そこに居たのは短命庵のご主人その人だった。年をとって頭も禿げ上がっているが、頑固そうな顔つきは昔と一切変わっていない。
「なんだいお前は」
「今から二十年前、短命庵に通っていた者です。それにしてもなんでこんな場所に?」
 思ったまま疑問を口にする。するとご主人は面倒くさそうに話し始めた。
「短命庵のあった場所が立ち退きにあってな。そのまま店も廃業しようと思ったんだが、孫夫婦がこの辺りで店をやるっていうから、間借りしているんだよ」
 なるほど、先ほどの女性はご主人のお孫さんだったのか。言われてみれば顔立ちがご主人そっくりだ。
「それで、何食うんだい?」
「もちろんカツ丼で!」
「あいよ」
 するとご主人は昔と変わらぬ手つきでカツ丼を作り始めた。待つこと十分。高校の通学路で必ず立ち寄った短命庵のカツ丼が目の前にあった。
「いただきます」
 割り箸を割ってカツ丼に口をつける。食べ進めていくが特別旨くもなければ、マズくもない。
 だが俺にとっては最高の味だった。

 余談だが、この飲み屋の店名は『呑み食い処タンメイ庵』と言うらしい。ご主人のセンスはしっかり孫にも継承されたわけだ。


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このストーリーに関するコメント

15/03/09 南野モリコ

拝読させて頂きました。

あの頃よく通ったあの店で
懐かしい味をまた食べてみたいとはよく思うものですね。

学生時代に飲食店でアルバイトしていた時、
小さな子供がいる家族には、特に気を配りました。
この店で食事をしたことがいい思い出となって、
この子の力になることがあるかもしれないと思って。

書き慣れていらっしゃることが行間から伝わってきました。
身近な風景を軽く書いたように見せて
食という人間の深い部分を掬い取っている作品だと思います。

15/03/09 海見みみみ

ミナミノモリコさん>
ご覧いただき誠にありがとうございます。
誰しも懐かしの味ってありますよね。
今回はそんな誰もが持っている思い出を切り取って作品にしてみました。

モリコさんのコメントを読んでいて「こんな素敵な店員さんのいるお店に行ってみたいなぁ」と心から思えました。
モリコさんのされていた努力はとても素晴らしいものだと思います。
素敵な思い出話を聞かせてくださりありがとうございました。

15/03/22 つつい つつ

高校時代とか回転焼きや、焼きそばなどを買い食いしたのを思い出します。
学校の周りの店はみんな人柄も良くて、コンビニなどに負けず、こんな店が
ずっと残ってほしいなと思います。

15/03/22 海見みみみ

つつい つつ様>
ご覧いただきありがとうございます。
高校時代の買い食いって記憶に残りますよね。
私もよくラーメンを食べて帰りました。
そんな思い出の店が残ってくれていればいいなという想いがこの作品にこめられています。
感想ありがとうございました!

15/03/27 そらの珊瑚

海見みみみさん、拝読しました。

「短命庵」という名前がひっかかり、最後にどんでん返しがあるのかと
思いきや、私の深読みでした(笑い)
通学路を利用しなくなると、立ち寄っていたお店にも通わなくなるわけで、旨くもなく、マズくもないそのカツ丼が最高の味というのが、
きっと思い出が詰まった味なんだろうと想像し、最高の味というのに納得です。

15/03/27 海見みみみ

そらの珊瑚さま>
ご覧いただきありがとうございます。
ああ、何かどんでん返しがあれば良かったですね!
そこだけ悔いが残ります^^;
どんなに微妙な料理でも、思い出補正ってありますからね。
思い出の味ってやっぱり最高です。
それでは感想ありがとうございました!

15/04/08 山田猫介

カツ丼ですか。
学生時代を思い出します。
学食ではいつも食べていました。
おお、あの味が懐かしい。

15/04/08 海見みみみ

山田猫介さま>
ご覧いただきありがとうございます。
カツ丼というとなぜか学生時代のことを思い出しますよね。
私も学生時代はよくカツ丼を食べました。
本当に懐かしいです。
それでは感想ありがとうございました。

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