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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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渋谷スイングバイ

15/03/08 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:2593

時空モノガタリからの選評

少女の揺れ動く心や孤独が、宇宙を旅する探査機に重ねてよく描かれていると思います。「色々なものを犠牲にして発展した不夜城」渋谷が、主人公のおかれた家庭環境をうまく象徴していますね。スバルという「彗星みたいな」不思議な少女も魅力的ですし、読みやすくまとまった作品だと思います。

時空モノガタリK

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ビルの最上階、『コスモプラネタリウム渋谷』の入り口前。
なんで、ツイてないんだろう?落とした百円は、自販機の下に隠れて見えない。
あたしが膝をついて下を覗き込んでいると、何かがその上を通過して、自販機のカチャッと動く音がした。
ああ、まだお金入ったままだって!思ったその目の前に、買うはずのチケットが舞い降りる。これがにやけ面の茶髪男ならナンパが目的だろう、しかし予想は違った。
「どうぞ」。頭の上で二つに結わえた長髪、幼さの抜けたシャープな顔立ち。彼女は、立ち上がるあたしの手を握りしめ何故か離さない。
「百円分、あなたと話したいの。OK ?」
あたしは彼女に返金したかったが、あいにく小銭がなかった。満席に近い場内の前方に見えるは、投影機のジェミニスターV。そして隣席は不覚にもツインテール。
今更席も替われず、あたしは悶々とする。

「ねえ、ミャー」
だから、あたしは美弥よ。言い張ると、彼女は招き猫のモノまねをはじめた。
「いいじゃん、可愛くて」
口を尖らせて言う彼女の名はスバルという。歳はあたしと同じ一三歳、両親は道玄坂でバーを経営しているらしい。娘にプレアデス星団の和名をつける位だから星好きなのだろう。
どうやらスバルの気を引いたのは、あたしがボストンバックに付けていた、今はなき五島プラネタリウムのキーホルダーだった。
戦後の渋谷復興を象徴する五島は、あたしたちが生まれる前に閉館し、その遺産を受け継いだのが『コスモプラネタリウム渋谷』だ。今も聖地巡礼者は絶えない。
この子、これの価値が分るんだ。ちょっと意外だった。
「下の階に、五島の投影機があるでしょ、見た?」
「カールツァイスのW型。大きくて邪魔だっていうけど、鉄アレイみたいなあの形がやっぱり投影機の魅力だと思うの」
「ミャー、話分かるじゃん」
プログラムが始まり投影機が描き出す1万を越える星屑が、ドームを一杯にすると声が上がった。そして穏やかな解説員の声が、時空を越えた神話の世界を語り出すと、星は緩やかに動き始める。
今は冬。オリオン座の3つ星を西に辿ったら、おうし座のアルデバラン。そこから先に指でなぞると、淡い星の集まりがあった。あれがプレアデス星団。隣りを見ると、スバルも同じ事をやっている。そしてあたしの視線に気付くと、また招き猫の真似を始めた。変な子。
……渋谷に何しに来たんだっけ。あたしは嘆息し足元の大きな荷物を軽く蹴った。
結局あたしはセンター街の店でスバルとハンバーガーをかじりながら、宇宙への熱い思いを語り合っていた。旧ソ連のスプートニク1号から先日打ち上げられたはやぶさ2に至るまで話題は尽きず、気が付くと時計は7時を回っている。
今日の最後に捨てる気だったキーホルダは振り子のように揺れてて、あたしの明日はこの彗星みたいな女の子に驚異的演算速度で軌道修正されていた。ほんと、こんな事してる場合じゃないのに。なんで、楽しいんだろう?

「ミャー、スイングバイは知ってる?」、突然スバルは言い出した。

「通過する天体の引力と公転を使って、探査機の速度や軌道を変える航法でしょ」
「ボイジャー1号2号の打ち上げが何故1977年かっていうとね、スイングバイしやすいよう惑星が並んでたからなの。175年に1度のチャンス。これがなかったら太陽系外にまで飛ぶなんて出来なかった」
頬杖ついたスバルは、あたしの額にデコピンした。
「で、どこまで飛ぶ気なの?家出少女」
額を押えたあたしは目を丸くする。
「なんで分かったの?」
「分かるわよ、旅行でもないのに渋谷でそんなにでかい荷物持ってればさ」
スバルは自分の鞄から鍵を取り出す。そこについているのは、あたしが持っているのと同じキーホルダーだった。
「六十億q旅したはやぶさのように、満身創痍なのかなって思ったりして」
心配してくれたの?変な子なんて思ってごめん。あたしは積もった羞恥に顔を赤らめた。

「……新しいママが出来るの。弟もよ。嫌なわけじゃないけど、どうすればいいか分かんない」
帰り道のスクランブル交差点の雑踏を、あたしたちは手を繋いで渡った。ランデブーしながら見上げた渋谷は、星がまばらにしかなくて足りないものだらけなのに、何だかとても愛おしい。
さよならしたママが捨てたのと同じキーホルダーを持つ女の子は別れ際に「またね」と言ってくれた。
「またね」、ずっと手を振りながら、あたしはさよならの言葉を胸にしまう。
そういうものは、超新星級の別れの時だけでいい。
移動距離、六駅分。こうして初めての家出は日帰りで終わった。

色々なモノを犠牲に発展した不夜城・渋谷を、満員電車は加速して遠ざかり、あたしは喧嘩したパパになんて謝ろうか考えながら、スバルの連絡先が入ったスマートフォンを胸に抱いた。
システム、オールグリーン、オーバー。


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このストーリーに関するコメント

15/03/08 冬垣ひなた

<補足説明>

コスモプラネタリウム渋谷は渋谷区文化総合センター大和田12Fにあります。
右の写真はそれと関係なく、イベントで貰ったJAXAのピンバッジ。

15/03/08 海見みみみ

拝読させていただきました。
天文知識が実に興味深い作品ですね。
読んでいて良い勉強になりました。
スバルの「ミャー」という呼び方も可愛いです。
でもそれだけでお話は終わらず、最後に人生の苦味も感じさせる。
ミャーは新しい家族と仲良くなれるのか。
新たに友人となったスバルに希望を感じさせる終わり方でした。

15/03/11 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

二人の出会いが、スイングバイであったのなら
星が取り持ってくれた縁かもしれませんね。
今は無き五島プラネタリウムが、形を変えて継がれているような気がしました。

15/03/14 冬垣ひなた

海見みみみさま

コメントありがとうございます。

最初は五島プラネタリウムの名の由来になった五島慶太氏を書こうと思って資料集めてました。
なので未来感半端ないという、彼の視点で書いた部分はあります。
久しぶりに女の子書いたので、気に入っていただけて良かったです。
人生はままならない事が多いので、私は創作において希望は大切な要素だと考えています。


そらの珊瑚さま

コメントありがとうございます。

星が取り持ってくれた縁、いい表現ですね。この二人には幸せになってほしいです。
瀬名秀明さんの『虹の天象儀』で五島プラネタリウムを知ったせいか、渋谷は星の街というイメージです。
これからも渋谷でずっと星が見られるといいですね。


15/04/07 草愛やし美

冬垣ひなたさん、初めまして、拝読しました。

天文がとても深くて素敵だって伝わってきました。五島プラネタリウムもコスモプラネタリウムも全く知りませんでしたが垣間見た気になりました。うまいですねえ、読みごたえがあり掌編であることを忘れて夢中で読み終えました。

2千文字の中にいろいろな星々が散りばめられているようです。ミャーという呼び方も含め、スバルの包み込むような優しさにとてもほんわかしました。面白かったです。

15/04/08 冬垣ひなた

草藍さま

コメントありがとうございます。

この作品はかなり冒険したように思います。読み手の方に自分の感じたものが届くかどうか不安だったのですが、しっかり伝わったようで嬉しいです。
草藍さまのお言葉有難く頂戴します。2千字に星々がちりばめられるように……時空モノガタリ様で自分の目指したいものもそこですね。もともと長編畑の人間なのですが、詩的な雰囲気を出すのにこの掌編という表現手段は魅力的に思います。
スバルのキャラが生まれて第一声が「ミャー」でした、迷子猫を見つけた感じなのだと思います。そこから話が広がったので、ほんわかしていただけて良かったです。

15/07/23 冬垣ひなた

時空モノガタリKさま、コメントありがとうございます。

関西在住の私にとっては行ったことのない場所なので、逆にそれを活かして距離感を出せたらいいなと思い書きました。
ミャーの家庭事情を書くかは結構悩みました。掌編でどこまで書き込むかというのが
よく分からないまま作っていたので、読みやすく纏まっていると言っていただけて嬉しいです。

スバルとミャーは最初結構尖がったキャラクターでしたが、字数を調節するうち随分丸くなりました。
皆様から色々評価を頂いて、キャラ造形を考えるいい勉強になったと思います。
入賞嬉しかったです、これを糧に今後もがんばります。

冬垣ひなた

16/01/11 冬垣ひなた

≪お知らせ≫

15/12/24 続編「池袋コメットハンター」を時空モノガタリに投稿しました。よろしければご覧ください。

16/07/29 あずみの白馬

実在の探査機と「渋谷」という舞台を見事に融合させた素晴らしい作品だと思います。
スイングバイの「使い方」も綺麗でよかったです。

16/07/29 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、コメントありがとうございます。

プラネタリウムを書くということをまず決めていて、そこから話が広がったのですが、よく2000字で収拾がついたなと、今思うとドキドキします。渋谷をスイングバイするイメージが上手く伝わったのなら嬉しいです。

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