浅月庵さん

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sympathy

15/03/07 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:1216

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 “名は体を表す”なんて言葉にも勿論例外がある。

 僕は生まれも育ちも北海道なのだけど、何故か苗字が“渋谷”で紛らわしい。
 そして、下と合わせて「渋谷隼人」が僕の名前だけど、つい先日始めたコンビニのバイトで、案の定イジられる。
 美雪さんや桜井さん、剣藤さんが「渋谷くん、渋谷隼人っていう顔してないよね」「めっちゃ遊んでてイケイケそうな名前なのに、静かだしさ」「渋谷にシンパシーとか感じる?」

 ......悪いですけど、僕の顔は生まれつきなので渋谷隼人っぽくないと言われても困りますし、イケイケっていう表現はなんだか古いですし、名前ならともかく苗字が渋谷でシンパシーなんて感じるはずがないです、といった饒舌な反論は実際、口には出せず、心の中に閉まっておく。現実は愛想笑いをするのが精一杯で、会話が続かない。だから、僕には友達と呼べる人がいないのだろう。

 ーー僕のバイトスタートから二週間。同じ高校で隣のクラスの男子生徒がバイト仲間に加わることとなった。僕とは正反対の性格で、他のメンバーにすぐ馴染んで羨ましく思う。

「清水静一って凄い大人しそうな名前なのに、めっちゃ喋るよね」と美雪さん。
「それ超言われます。うるさいくらい喋るから、馬鹿っぽそうとか言われてすげー傷つくんですよね」
「なんか清水くんと渋谷くんって、付いた名前が逆って感じする」
「そうですかー? 渋谷くんは充分“渋谷隼人”!って感じじゃないですか。俺も100%“清水静一”って感じで」清水くんは自分の名前を言う時だけキリッと知的な雰囲気を醸し出しておどけてみせる。
「アハハ! それって単純に言い方の問題じゃん」「あ、バレました?」
 コミュニケーションの鬼だな、と思いながら僕は感心する。ああいうイマドキな男子が渋谷には溢れかえっているんだろうな、なんて一度も道外から出たことのない僕は勝手な想像をする。

 ーーバイトが終わり、帰り道。僕の隣には清水くんがいる。変な緊張感が漂う。
「名前についてあれこれ言われても、そんなの知らんよね」と清水くんが洩らす。
「そ、そうだね」
「俺さ、本当は別にベラベラ喋りたいわけじゃないんだよ」
「え?」
「小学校くらいの時に、お前は名前の通り本当静かだよなってよく言われてさ」あれ、清水くん、なんで急に昔話始めるんだろう、なんて思いながらも僕は相づちを打つ。「なんかその言葉に無性に反発したくなって、逆にうるさいくらいになってやろうと思ってたら、こんなんになっちゃってさ」
「はは、うん」
「そのおかげで友達はできたけど、本当の俺は、こんなんじゃないんだよなー、とか思いながら」と清水くんは笑う。
「な、なんか意外だね」
「そう? 逆に渋谷くんはさ、心の中でアレコレいっぱい考えてるしょ? 言わないだけで」
「なんでわかるの」
「んー? なんかさ、俺ら付いた名前が逆とか言われてたけど、なんとなく根っこの部分は似てると思うんだ。渋谷くん、本当はもっとみんなとコミュニケーション取りたいと思ってるよね。でも、実際に表に出てるのは静かな部分。俺はその逆」
「......すごい。当たってる」
「でもさ、下手にズケズケ他人の心に入り込んで、軽い言葉投げかけて人間関係進めちゃうと、なんか逆に不安っていうか?」
「不安?」
「相手は俺のこと、本当はどう思ってんのかな?とかさ。単純にノリの良い奴としか思われてないんじゃないかって」
 会って間もないけど、なんだか清水くんがそんなことを考えてるなんて意外だし、僕みたいな奴に本音を話すなんて勿体ない気もするし、でも、その内に秘めてる想いも分かる。正反対だからこそ、相手のことが見えてくるのか?

 僕は立ち止まり、清水くんの方を向いて手を差し出す。「ぼ、僕と」
「ん? どうした」
「ぼ、僕と、友達になろう」恥ずかしいことをしている、と自覚している僕。
「アハハ、馬鹿だな渋谷くん」と言いながらも清水くんは僕の手を握る。「こちらこそよろしく」

 多分、友達なんてなろうと思ってなるもんじゃないし、気づいた時にはもうなっているのが普通だろうけど、なんだか僕はそれを“形”にしないと不安に思うし、清水くんもなんとなくそう思ってるのではないかと感じる。だからこそ清水くんは握手してくれたのだとも思う。

「てかさ、渋谷くん。そろそろみんなにキッチリ訂正かけた方が良いと思うよ」
「え?」
「だって君の苗字さ、渋谷(しぶや)じゃなくて渋谷(しぶたに)じゃん、読み方」
「う、うん。みんな間違えてるね」

 そうだ。例え、僕がイケイケでイマドキ男子な性格だとしても、根本的に東京の渋谷とは一切関係が無いし、“名は体を表す”ことも叶わない。

 清水くんの差し出してくれたその手へのシンパシーには、到底敵うはずなんてないんだ。


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このストーリーに関するコメント

15/03/07 浅月庵

大好きな曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=3L-4KvItfdw

15/03/07 海見みみみ

拝読させていただきました。
名前ってコンプレックスにもなれば誇りにもなりますよね。
名前を理由に周りから騒がれる苦しい気持ちが伝わってきました。
最後は主人公二人が友人になれてよかったです。
この二人ならいい友人関係を築けそうですね。
ちなみにオチに関してはまさに「お見事!」の一言でした。

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