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11doorsさん

のんびりした田舎に引っ越してきました。温かな人たちとのゆったりした会話や日常は、ほんとうに宝物です。そんななか、小説という異質な空間の中で、読む人に、ちょっとでも喜んでもらえる作品が一つでもかけたなら、幸いに思います。

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占い師奥野の悪夢な一日

15/03/07 コンテスト(テーマ):第五十一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 11doors 閲覧数:1436

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日曜日の朝、奧野は何度も鳴らされるチャイムに起こされた。パジャマのままドアを開けると、そこには27歳独身の川口美津江と、35歳主婦の鈴木泰子が、漫才コンビのような笑顔で立っている。

この二人の組み合わせで考えられるのは、占いの事務局の用件だろう。朝から面倒な話がやってきたと、奥野は気が重くなる。

「朝早くから、どうしたんです?」
「えっ? もう11時ですよ。いつも、こんな時間まで寝てるんですか?」
「ふあ〜、あ〜、できたら、もう少し寝かせてくれると助かるんだけど…」
「いいですよ。じゃあ、私たち中で待たせてもらいますので」
「えっ?」
「奥野先生、そうお気を使わなくて結構ですから」
「結構ですからって、おい! 勝手に、なっ、あれ〜」

奥野は左右を間違えて履いたスリッパに足を取られ、倒れそうになって、結局倒れてしまう。

「先生、大丈夫ですか? この間の料亭の帰りのように、玄関に倒れて寝たりすると風邪引きますよ」
「おい、あれは、君が僕に飲ませたからだろう」
「だって、男の人が、日本酒をおちょこ一杯で酔い潰れるなんて、誰も思いませんよ。第一、そんなにお酒に弱いなら、先に断ればよかったんじゃありませんか! それに先生を家に送るのに、3人がかりで大変だったんですよ。それだけでも感謝されて余りあるのに!」
「分かった。悪かった。その件は謝るよ。それに感謝もしてる」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」

玄関近くで倒れている奥野は、上から顔をのぞき込まれる美津江に圧倒され、ろくにモノを言い返せない。その光景を鈴木泰子が、こっそりスマホで録画しながら、ほくそ笑む。

占いの鑑定依頼を、いつもエラそうに断り続けた男が、ここまで誰かに圧倒された光景はみたことがない。鈴木にとって、こんな小気味いい気持ちになれたのは久しぶりだった。

もっとも、奥野が依頼を断るそのおかげで、人気のない占い師にも仕事がまわせるので、事務局としては助かるのだが、さすがに奥野本人が観なさすぎると、いずれ鑑定依頼そのものが減るのは目に見えている。

事務局としては、それを避けたいがため、川口美津江に白羽の矢を立てた。鈴木泰子は、事務局の狙いが的確にヒットしたのを実感する。

“うふふ、長澤事務長の運勢鑑定で、奥野さんの天敵を選んだのは正解だったわ。でも、まさか彼女がここまでやれるとは…、この娘は使える! 観念しろ、奥野!”

奥野は起きあがると、ボッ〜とした顔で尋ねる。

「えっと〜、川口さんって、新聞社の人じゃないの」
「そうですよ。でも、占いは趣味ですから、お仕事の邪魔にはなりませんの」
「ああ…、そうですか」
「これからは私が先生のマネージメントを担当させていただきます」
「ま、マネージメント?」
「そうです。異論はございませんよね」
「あっ、は、はい」

鈴木泰子は、心の中で笑いが止まらなかった。お母さんに怒られてショボンとなった子供のような奥野の姿も、ちゃんとスマホで撮った。

「それでは奥野先生、手始めに、ここにいる鈴木さんの運勢を観てあげて下さい。その次は私です。パソコンを立ち上げなくても、このクリアファイルに命式表が入ってますので、それでよろしくお願いします」
「は〜い」

美津江のその言葉を聞いた鈴木は、小躍りして喜んだ。あの伝説の占い師に観てもらえるのだ。事務所のスタッフでさえ、奥野に観てほしいと願いつつも、いまだ誰も観てもらっていない。

「み、美津江ちゃん、ビ、ビデオ、ちゃんとしたのにセットして録画して! スマホの荒い画像じゃなくて、本格的なのでキレイに撮してね」
「うふふ、分かってますよ。新聞社から借りてきましたから。今持ってきますからね」

奥野は二人の命式表を、医師がレントゲン写真を見るように、目の前にかざす。鈴木泰子の方はチラッと見ただけだが、美津江の命式表を見た途端、突然、奥野の表情がこわばる。

美津江は、ドアを開けながら、その一瞬を見逃さなかった。


奥野の鈴木泰子への鑑定は、一時間ほどで終わった。だが、その占いの精度の高さと奧の深さに、鈴木は舌を巻く。ただ単に当てるだけでなく、現実味のある問題の解決策まで提示されて大満足だった。今までたくさんの占い師に観てもらったが、ここまでと思わせる人はいなかった。たしかに、これなら奥野への鑑定依頼がひっきりないのも分かる。

「すごいのよ、美津江ちゃん。なんでそこまで分かるのかって思うわ」
「鈴木さん、本当、よかったですね」

美津江は涙を流しながら喜ぶ鈴木の姿に安堵すると、台所にお茶の準備をするために向かう。その美津江に異変が起きたのは、その直後だった。バタンと大きな音がしたので、奥野と鈴木が台所に向かうと、彼女は意識不明で倒れていた。

奥野は鈴木にすぐに救急車を呼ぶよう指示する。できれば、心臓を専門にする外来に、彼女を搬送するよう、つけ加えた。さらに、鈴木は事務局を通じて、美津江の両親に連絡を取るよう手配する。


 −−病院の待合室−−


「奥野先生、なんで彼女の心臓に問題があると分かったんです?」
「五行図の火局は、心臓など循環器をあらわすんだけど、彼女の火局は、今、驚くほど集中的に攻撃を受けてる。例の干合支合三局の固まりだよ。おそらく、心臓が悪いのは小さい頃からだろうけどね。水局に星がなかったから呼吸器も弱かったかも知れないな」

突然、奥野の携帯が鳴る。見たこともない番号だ。

「もしもし、奥野ですが。えっ、川口美津江さんのお父さん? はい、ああっ、今、病院前のバス停ですか。はい、分かりました。それじゃあ、そちらでお待ちになってて下さい。今参りますので…」
「どうしたんですか?」
「川口さんのお父さんからだよ。病院の入り口が、よく分からなくて困っているらしい」
「この病院もちょっと大きいですからね」

奥野と鈴木は病院前のバス停で、美津江の両親と出会い、美津江が眠っている病室へ案内した。事務局からの連絡を受け、栃木から2時間かけて到着したのだ。

彼女は産まれたときから、心臓が他の人より小さく、血液を送り出す力も弱かった。医師の診断では、そう長くは生きれないかも知れないと告げられ、そんな彼女の両親は、彼女が好きなように生きさせてあげたいと努めてきた。

「いやあ、娘が恋人ができたんで、今日はそこに泊まるからって、このメモに携帯電話の番号を書き残していったんですよ。もし、私に何かあったら、これに電話してねって。あの娘には、いろいろビックリさせられてきたので、『ああ、そうか』なんて言って返しましたけどね。恋人って、どんな人だろうねって、母さんと話してましてね。おたくだったんですか」

「えっ! 娘さん、僕のところに泊まるつもりだったんですか?」
「はい、本人はそう言ってましたが?」
「それに…、恋人って。直接会うのは今日で2回目ですよ」
「まあ、気にせんといて下さい。そのうち、慣れますから」
「な、慣れますからって…、あの…」

奥野は不本意ながらも、言葉につまる。それを見ていた鈴木は、病室で笑ってはいけないと思いながらも、必死に笑うのをこらえる。

美津江の容態は、それほど深刻なものではなく、家が近くなら帰ってもいいと言われるほどだった。ただ、それでも倒れた彼女の早急な搬送と、心臓治療を専門にする医療スタッフが病院の当直にそろっていたのは幸運だった。

「奥野さん、この病院からあんたん家は近いんかね?」
「はい、歩いて10分から15分くらいですかね」
「そりゃよかった。ウチの娘ば、しばらく預かってくれんかね。母さんもそれがええと言っておりましての」

奥野は心の中で『最悪だ!』と叫ぶ。ただ、何となくだが、こうなる事態を予想していた。この娘にして、この両親だ。もしかしたら、そのままこの娘は僕のマンションに住みつくかも知れない。そんな不安にかられる奥野に、鈴木がトドメを刺すように口を開く。

「それはいい考えですわ。奥野さんのマンションには、ひと部屋広く開いてるのがありますし、勤務先の新聞社にも自転車で10分もかからないと思いますよ。こんな、か弱い女性が、片道2時間以上もかけて通勤するのは、心臓にも負担ですよ。ねえ、奥野さん」

鈴木はにこやかな顔で話しながらも、奥野に釘をさすように、目から光線を発しつづける。

「分かりました。お嬢さんの容態が安定するまでいらっしゃってください。でも、着替えとか必要なものはどうしましょう?」
「それなら大丈夫です。2〜3日分は持ってきてますし、必要なものは電話をくれれば、宅配で送りますから」

一応の打ち合わせがついた頃、ベッドで寝ていたはずの美津江が、ムクっと起き上がり、満面の笑みで、鈴木と両親に両手でVサインを出す。奥野は疑いの眼差しを向ける。

「さては、コイツ、さっきから起きてたな!」
「ダ〜リン、帰りは、私、お姫さま抱っこがいい」
「うぬ〜、誰がダーリンだ!」
「お姫さま抱っこ、お姫さま抱っこ、お姫さま抱っこ」
「ム…、う、う。ダメだ。荷物があるからオンブだ」
「じゃあいいよ、オンブで」

鈴木は、ここまで奥野が、自在にコントロールされるとは思いも寄らなかった。これこそ五行の相生・相剋による相性の妙味なのでは、と感心する。

帰りしな、美津江の両親は、病院でお金を払った後、近くにいる看護婦と何か話していた。それから美津江の方に近づいてくると、嬉しそうに耳元でささやく。

「おい、美津江。ここは産婦人科も充実してるらしいぞ。これなら妊娠しても、大丈夫だな。来年ごろには、ワシらも孫の顔がみれるかの。ウハハハ」

奥野にオンブされている美津江は、満面の笑みで、Vサインを両親に返すが、奥野は目の前が真っ暗になる気がした。

「悪夢だ。とにかく、きょうは日が悪い。ねえ、川口さん、オンブするの、ちょっと疲れたから、病院で車イス借りて帰ろうよ」
「ダメ、この背中の温かさがいいのよ♪」
「は…い、分かりました」
「もっと、嬉しそうに言いなさい!」
「はい! 嬉しいです」
「よろしい! レッツ・ゴー! ウイう・ゲッバッく・ホーム!」

奥野の背中の上で、小躍りする美津江の姿を、彼女の両親と鈴木泰子は嬉しそうに見つめ、彼らは奥野のマンションへと向かった。



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このストーリーに関するコメント

15/03/07 海見みみみ

拝読させていただきました。
これはまさに主人公からしたら悪夢みたいなお話ですね笑
急に押しかけ女房が現れたら堪ったものじゃないです。
でも相性は良さそうなので、案外未来は明るいかも?
軽妙な文章と占いに関する知識がとてもおもしろい作品でした。

15/03/07 11doors

海見みみみさま
>軽妙な文章と占いに関する知識がとてもおもしろい作品でした。
ありがとうございます。最近、文章を書きながら、
なにか作品づくりのおもしろさみたいなものを感じます。
海見みみみさまをはじめ、このサイトに小説を投稿されている皆さまが、
こうした楽しみを毎回感じていらっしゃるのだなあと思うと、
すごく感動しちゃいます。

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