1. トップページ
  2. 佐代子、渋谷での挑戦

11doorsさん

のんびりした田舎に引っ越してきました。温かな人たちとのゆったりした会話や日常は、ほんとうに宝物です。そんななか、小説という異質な空間の中で、読む人に、ちょっとでも喜んでもらえる作品が一つでもかけたなら、幸いに思います。

性別 男性
将来の夢 世界旅行
座右の銘 A piece of cake.

投稿済みの作品

1

佐代子、渋谷での挑戦

15/03/01 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:2件 11doors 閲覧数:1179

この作品を評価する

私は小野佐代子、生まれは愛媛県なんですけど、東京でハウスクリーニングの仕事をしてます。

今日の午前中は、その下見と見積もりが渋谷で2件あって、今は代々木公園でランチしてます。もうすぐ、節ちゃん、芳崎節子さんていう同郷の女の子が、ここに来ると思うんです。彼女も私も、90ccのバイクで都内を、いそがしく営業で走りまわってます。

この仕事は親戚の松原さんっていう叔父さんとの縁からはじまったんですけど、その叔父さんには迷惑かけっ放しです。松山空港から初めて羽田空港に着たとき、私、モノレールに乗ってJR浜松町駅から、新宿・品川方面の電車に乗ったんです。でも、電車の内のアナウンスが「次は川崎」と告げるのを聞いて、何か悪い予感がしたんです。

隣に座っている男性に、渋谷駅まではあとどのくらいで着きますかと尋ねたら、その人は絶句してて、完全に乗り間違えました。私はJR浜松町駅の3番線の案内図を確認して、4番線の電車に乗ったんです。そうです…、京浜東北線。それで叔父さんは渋谷ハチ公前で、2時間、私に待されました。

でも、ハウスクリーニングの仕事って思った以上にハードですね。最初の一ヶ月は、夜昼、時間の感覚もなくなるくらいの忙しさで、いったい自分が何をやってるのか分かりませんでした。幸い、一緒に働く人たちは、とてもいい人たちでよかったんですが、仕事が忙しいわりに給料が安いし、それが不満でよく外国人のバイトさんが辞めてました。

それで私、そんな現状をなんとかしなければと思ったんです。

一番の問題は、安すぎる金額で仕事を引き受けすぎることでした。なにしろ、ハウスクリーニングの仕事のすべてを知ってるのは、事実上、B班の高梨幸男班長だけでしたから、彼の意見が全体の方針になっていたんです。

その高梨班長は、すごく真面目で、人柄もすごくいい人なんです。でも、得意先が金銭的に困っていると思うと集金もできない人です。それに見積もりの交渉でも、施工主さんに強く言われると、簡単に値段を下げてしまい、材料費などを計算すると、ほとんど儲けが出ない。

それで私「こんなんじゃ、この会社潰れますよ!」と言ったら、高梨班長、以前、ハウスクリーニングの会社を経営してて、倒産させたことがあると言うんです。彼の会社はいい仕事をすると評判だったのに、売掛金が回収できずに黒字倒産。きっと、お人好しが過ぎたんでしょうね。

とりあえず、私は父と兄に相談したんです。父の好雄はシャッター商店街を立ち直らせた商売人で、兄の浩司は製薬会社の研究員で、コンピュータのプログラムを組むのが得意です。

まずは、白山好枝社長の了解の下、半年間で高梨班長のノウハウや技術、すべてを相続するつもりで頑張ったんです。見たり聞いたりした事は、すべてノートに書き込み、作業する工程を写真で取ったり、ビデオで録画したりして学んだんです。この作業は後に、営業での施工主さんや監督さんとの対話のときに、すごく役立ちました。

兄は主にプログラミングで協力してくれました。バイトさんたちが、スマホやガラケで、すぐに全体のスケジュールが確認できて、自分が入りたい現場を登録できるようにしてくれたんです。また、パスワードを入力して、自分が働いた現場単位の報酬額や交通費、さらにはその累計額を確認できるようにもしたんですよ。

バイト代は、基本的に週給で小切手。それはアメリカ方式ですけど、班長たちが現場で作業を指揮しながら、バイト代の支払いに追われる負担を減らすためです。

営業では、絶対に安易な値下げはせず、手形での決済も断りました。それでいくつか、古くからの契約は飛びましたが、一方で、ちゃんとした仕事をしてくれるとの評価をいただいたところから、報酬の良い仕事が少しずつ舞い込んできたんです。

また、兄の友人に、今井広喜さんという化学繊維や特殊素材を扱う会社に勤める方がいるのですが、その方が各薬品と床材・壁材の相性を、私たちに丁寧に教えてくださったのも大きかったですね。たとえば、汚れを取るのに、シンナーを使ってはいけない素材の床とか壁とかもあるんです。そういうのもスマホやガラケで、皆なが各現場で確認できるように工夫したんです。

ちなみに、仕事に関する言語は、英語に統一しました。日本人同士が日本語で話しているとき、外国の人たちは、ちょっと不安だったみたいなんです。それに皆なが、ちゃんと休暇をとれるようにもしたんですよ。

最後に、白山社長なんですけど、ずっと前から、元旦那さんの松原班長と寄りを戻したかったみたいです。でも、自分から離婚してほしいとお願いした手前、再婚してとは言いづらかったようで…。そういえば、この間、事務所で松原班長、白山社長のおなかをさすって何か話しかけてましたが、もしかしたら…



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/03/01 海見みみみ

拝読させていただきました。
ノウハウを吸収していく様が面白く、これなら長編も一編書けたのではと思いました。
それだけ内容の密度が濃く、とても面白かったです。
最後には新たな生命の誕生を予期させる、実に明るい終わり方でしたね。
こういう終始明るく笑える作品は大好きです。

15/03/01 11doors

海見みみみさま
>これなら長編も一編書けたのではと
なかなか鋭いですね、実はすご〜く長くになったものを
2000文字以内にまとめるのに苦労した作品なんです(笑)
今回、また、海見みみみさまのコメントに刺激されてしまい
占い師シリーズで4000文字くらいものを書こうかなと思わされました。
>こういう終始明るく笑える作品は大好きです
私もそういうのが好きですね。まあ、当たり前かも知れませんが
作品には作者の性格やら性稟みたいなものが反映しちゃうんでしょうかね。
本当にいつもコメント下さりありがとうございます。

ログイン