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水鴨 莢さん

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嫉妬姫、あるいは雪ふる前の物語

15/03/01 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:6件 水鴨 莢 閲覧数:1454

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 寒く山にかこまれた小さな国にカタリナという姫がいた。
 近ごろ姫はゆううつな眼で城から外を見おろしている。
 その先には庭で談笑する父王とそして半年前にこの城にきた王妃の姿。
「あなたカタリナが……」
「おお姫もこちらへおりてきなさい」
 だが姫はプイとひきこんでしまうのだ。
 実の母は姫が五歳のとき病で亡くなっている。王は悲しんで十年ものあいだ独り身でいたが、友人からの紹介もあって遠い国から後妻を迎えることにした。
 それが姫は気に入らない。
 新しい王妃は大変美しく、また賢く、最近では王から国のまつりごとの相談までされているという。
 またこの国にきてすぐその情け深いことが知られたのは、嫁入り道具のなかに国中にくばるための暖かい服があって、しかもそのすべてに王妃自らの手による赤い釣鐘草の刺繍がなされていたからだ(姫はもらってすぐ暖炉へ投げ込んだが)。
 当然その愛情は姫にも惜しみなく注がれてきたが、彼女にはかえってそれが憎らしい。
 父の愛と、国民の人気をうばい、そして何より自分よりはるかに美しい王妃のことが許せないのだ。
(みんなあの女のいいなり、その内きっとよくない事がおこるにきまっている。その前に私がなんとかしなくては――)
 ある日の朝、城に手紙が届いた。
『姫を返してほしくば金貨百枚もたせ王妃ひとりで届けにこい』
 と、それは森に棲む怖ろしい魔女からだった。
 姫の姿はたしかに消えており、王妃はすぐ金貨を用意させようとしたが、
「おまえは部屋にいなさい。姫はきっと助け出す」
 と王はいかせようとしない。
 だが賢い王妃はひそかにボロをまとい、金貨百枚分の価値の宝石をもつと、うまく城をぬけだしてしまった。

 昼になり、暗い森の中心にある家では魔女が待ちかねていた。
 しかしなかなかこないので、魔法の鏡をのぞきこむと、王妃が足と杖をひきずりフラフラさまよっている様子が映った。
「ハ! 森へ入ってまっすぐ真ん中をめざせばたどりつくものを、この女ときたら裏っかわにいっちまってるよ! あんたの母上様もいわれてるほど賢かぁないねえ」
 王妃がやってきたのは、すっかり陽も暮れてからだった。
「金貨百枚分の宝石をさしあげます。カタリナはどこなのです?」
「そいつもいただくが、別に頼まれてるものがあってね」
 言うやいなや、ひそんでいた魔女の黒い使い魔たちが王妃に襲いかかった。
「ヒヒ、あんたの命さ」
 魔女は床におちた宝石を拾いあげようとした。すると目の前の使い魔たちが一斉に燃えあがり、たちまち灰になってしまう。
「カタリナはどちらかしら?」
 王妃が平然と立っている。魔女は「ひっ」と声をあげ、あわてて炎の魔法をかけようしたが、王妃がなにごとかつぶやくと火は力なく失せてしまった。
「ムダよ。私の魔法以外を禁じる円陣に、いま力を注いだわ」
「な、なにを、魔方陣など一体どこに……まさかっ」
 魔女の脳裏にあの鏡でみた足と杖をひきずる姿がうかんだ。
「ま、迷ったふりをして線を描いたね! あたしに気づかれず、この家の周囲をおおうほどの魔方陣の線を!」
「もういいわ、消えなさい」
 呪文を唱える王妃に首をつかまれると、魔女の体は徐々に石へと変わり、やがて粉々に砕けてしまった。

「カタリナもう大丈夫よ。どこなの、返事をしてちょうだい」
 奥から青い顔をした姫が現われた。一部始終をみていたようだが、それでも、
「お母さま……私おそろしかった」と王妃のもとへ駆けよる。
 そして、隠していた短剣を王妃の胸へと突きたてた。
「滅びなさい――魔女」
「あら……そうか……あなたが魔女を雇っていたのね……こっちもいい機会だからあなたに死んでもらうつもりだったけど……私の方が遅かったわね」
「そうよ死になさい! これでこの国一番の美貌も、愛も、私のものだわ!」
「一度でも袖をとおせば私を愛する呪いの服……あなたが焼き捨てたときいやな予感はしていたのよね……ゆっくり確実にこの国を手に入れようと思っていたのにこの体じゃもう無理……それに……あなたのその邪悪な才能、嫉妬にまみれた魂、とっても魅力的だわ」
 王妃は最後の力をふりしぼると、姫に呪いをかけた。そして倒れながら机の魔法の鏡をつかんで自分の姿を映し、同時に自らの命をも吹きこんでしまった。
「私に……何をしたの……」姫の問いに、『鏡』となった王妃が答える。
「ほんの少しあなたの欲望に歯止めをきかなくさせただけ。あなたはきっとおそろしい魔女になれる。私があなたに欲望をかなえるすべての魔法を教えてあげる。もっと大きな国だって手に入れられるし、求めればなんでも答えてあげるわ。ねえ、まずはなにをききたい? やっぱり一番知りたいのはこれかしら? ……そう――この国でいま一番美しいのはたしかにあなたよ、カタリナ」


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このストーリーに関するコメント

15/03/01 W・アーム・スープレックス

この短いスペースの中によく、これだけ波乱万丈の物語が描けたことにまず感心しました。
内容に矛盾がないので、読後感もさわやかです。姫と王妃の嫉妬に絡んだ確執、意外な展開、なかなかのストーリーテラーとお見受けしました。
ラストの王妃のセリフも、いかにも魔女らしく、毒があって、洒落ていると思いました。

15/03/01 水鴨 莢

W・アーム・スープレックスさん、感想ありがとうございます。
この作品はがんばって書いたというよりも、がんばって調整したという感じですので、
尺のことをいっていただけると本当に報われます。

最初は単純によくある姫と継母の嫉妬するところを逆転したらなにか書けるかなと考え
たのですが、色々つけ加えたいことも増え、せっかくだからとちょっとした魔法バトル
要素も入れてみたら、なんかこんなふうになったという感じです。
最後のセリフは本来私的には書くの苦手なセリフなような気もするのですが、一応自分
のなかの裏設定的にこの話は「白雪姫エピソードゼロ」として作ってもいましたので、
そこへつなげることができ、かつこの作品単体でも成立するセリフを考えた結果、この
ような形になったのだと思います。

15/03/03 松山椋

拝読させていただきました。
暖かい服のくだりなど童話や児童文学のような手法を用いつつ、ただの勧善懲悪で終わらない黒さ、読者をあっと言わせる結末、そして短い文字制限の中伏線回収もし投げっぱなしで終わらない水鴨さまの作家としての丁寧な仕事に心を深くうたれました。さすがです。これからも楽しいお話を心待ちにしております。執筆おつかれさまでした。

15/03/05 水鴨 莢

松山椋さん、感想ありがとうございます。
基本的に童話とか民話とかそこらへんが好きなんです。
それでなんとかその雰囲気のまま、より自分好みな感じにして、読んで下さった方に
楽しんでもらえるような作品を目指しましたので、それが少しでも果たせているので
あれば幸いです。書いた甲斐があったなーと思えるのが一番うれしいです。

でも本当に、なにか不明な点や、ここってどうなん?みたいなところがありましたら、
どうか遠慮なくつっこんでやってください。

15/03/24 光石七

拝読しました。
予想をはるかに超えたひねりのある展開に完敗です。
カタリナと国の今後を思うと、怖いですね……
面白かったです。

15/03/26 水鴨 莢

光石七さん、感想ありがとうございます。
予想を裏切る話というのは実は意外と作りやすいもののような気もしています。
私ごときではそういったアイディアひとつ考えるのにも苦労はしているのですが、でも最近
では思いついても、またこういうパターンか・・・って自分で感じてしまったりです。

それでもこの作品は、そうしたことを踏まえても上手くいってる方なんじゃないだろうか?
と皆様の評価をもらいなんとなく思いつつあります。
その理由を考えますと、たぶん、単純な裏切りひとつで終わってないからなのかなと。
そしてそれが書けたのは、オチを決めてから書いたというよりは、オチに加えてその後の
カタリナの運命(将来は白雪姫の継母になる人物・・・なのかも知れない)までを見すえて
書いたから、なんかこんな感じになった気がしています。
それが本当に正解かどうかはわからないんですけども。

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