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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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4月10日はなんの日?

15/02/26 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1522

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 この記念日が制定されたのは、ごく最近のことだった。
 安子の勤める会社では、朝から女子社員たちのあいだでその話でもちきりだった。
 4月10日―――しっと(嫉妬)の日。
 きょうは、いくら嫉妬しても、いい日だった。
 いいどころか、とことん、徹底して嫉妬することが奨励された。いくら嘘をついてもゆるされるエイプリルフールと、似たような記念日かもしれない。
「英子さん、ちかごろ、きれいになったわね。このあいだ私、まちであなたが男性と腕をくんで歩いているところをみたわよ。ラブラブね」
 花村という女性が、妬み心もあらわな顔で、当の英子を見据えながらいった。会社の昼休み、みんなが集まる休憩室でのことだった。
「ほら、花村さん、腕を出して―――」
 いいながら安子は、家庭用血圧計によく似た計器からつながれたベルト状のものを、花村の右腕に、くるくると巻きつけた。
 スィッチをおすと、まったく血圧計とおなじに、低い機械音が鳴って画面にデジタル数字があらわれた。ただしその数値は血圧でも脈拍数でもなく、嫉妬の強弱をあらわすものだった。
「78ね」
 それをきいた花村は、がっかりして、
「それっぽっちなの。けっこうあたし、英子さんにたいして、つよい嫉妬心を抱いていたつもりなんだけどな………」
「計測は、二回までできるんだから、もう一度チャレンジすればいいじゃない。さあ、つぎは、だれ」
 安子はまわりの女たちをみまわした。どれも、みるからに嫉妬深い顔つきをした者ばかりだった。ふだんは思っていても口にはできない、他人にたいする恨み、つらみ、やっかみを、本人の前で直接、ぶちまけてもゆるされるとあって、みんな早く自分の番がまわってこないものかと、はやる心をおさえてまちわびていた。
 吉岡という、上司にあたる女性が、手をあげた。
「あたしは、ここにいる全員に、嫉妬してるわ。だって、歳がちがうんですものもの。男性社員たちが、あなたたちをみる目と、あたしでは、まるでちがうということが、どんなにあたしにとって悔しいことか、ごぞんじかしら」
 高学歴で、キャリアもあって、会社からの信任も厚く、人一倍仕事熱心な吉岡が、まさかそんなことで部下の女性たちにやきもちをやいていたとは………。
 さすがにみんなはおどろきをかくせなかったが、同時に心の中で、ほくそえんだ者も、少ながらずいたこともまた事実だった。
「さあ、吉岡さん、はかってください」
 安子のうながしで、妬み計測器を腕にまきつけた彼女の数値は、一気に85にまであがった。
 それからはだれもがわれさきに、自分の中にたまりにたまった嫉妬の感情を、まくしたてはじめた。
 その嫉妬のほこさきは、いつもいっしょに仕事をしている同僚であり、上司であり、また関係先の社員たちにむけられた。よくまあそれだけ妬んでいながら、ふだん会社で、そしらぬ顔で平然と仕事ができるものだった。
 安子は、そんな彼女たちのひとりひとの腕に、計測器のベルトをまきつけては、そのつどはじきだされた数値を、丹念に所定の用紙に書き込んでいった。
 いまはどこの会社や職場でもでもやっていることだが、最高の数値をだしたものは、あとで豪華記念品が授与されるとあって、みんなも必死だったのだ。
 このときの計測は、あくまできょう一日かぎりのもので、このことで後日、社員間で軋轢が生じたりすることは厳に禁じられていることはいうまでもなかった。
 全員の嫉妬数を記しおえた安子は、みんなだいたい、似たような数字になっているのみて、腕をくんだ。
「二回測定できるから、希望者はなのりでて」
 そういう安子を、吉岡がみつめて、
「あなたはまだ、一度も測定してないでしょう。どうぞ、はじめて。あなたにだって、だれかを妬むことぐらい、あるでしょうに」
「それが、ないのです」
「なんですって!」
 信じられないといった顔で吉岡は、安子をみかえした。
「わたしこれまで、会社のだれひとりにたいしても、嫉妬心をおぼえたことがないのです」
 とたんに休憩室が、うそのように静まり返った。
 安子は、みんなの目がひとり、自分に集中するのを知った。そして、その目にしだいに、とげとげしい光がやどりはじめるのをみた。
 吉岡までが、底意地のわるそうな顔つきで、安子に詰め寄るなり、にゅっと腕をさしだした。
「はかってちょうだい、話はあとよ」
 いわれるままに安子は、吉岡の腕にベルトをまきつけた。
 たちまちマックスの数値が画面にあらわれた。ほかのみんなも、みな押し黙ったまま、計測器にかかりはじめた。だれもが、吉岡とおなじ、100の数字をはじきだした。
 安子は、みんながどうして自分を、そんなうらめしそうにみるのかが、いくら考えても理解できずに、彼女たちが話しだすのをまっていた。


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このストーリーに関するコメント

15/02/26 海見みみみ

拝読させていただきました。
まさにユーモアの塊のようなお話でしたね。
嫉妬の日というのも面白いですし、その日特有のイベントというのもユニークでした。
何より最後に訪れたオチ、これがなんとも言えない味わいを出してます。
とてもおもしろい作品でした。

15/02/27 W・アーム・スープレックス

海見みみみさん、コメントありがとうございます。
 
たくさん記念日があるなかに、嫉妬の日があってもいいのではとおもい、それにはやはり4月10日で、エイプリルフールともちかいので、そんなところからこの作品ができました。
「ユーモアの塊」大変うれしい言葉を、ありがとうございました。

15/02/28 クナリ

本来、抱くべきでないものとして扱われるはずの嫉妬が、まったく欠けているからこそ奇異にみられてしまう…というのが面白いですね。
計測器というアイテムが最後まで活かされ、面白かったです。

15/02/28 水鴨 莢

読ませていただきました。
オチがとてもきれいで面白かったので、かえってそこに至るまでがちょっと
長かったなという気がしてしまいました。
多分、リアルに考えたら今日はよくても次の日から人間関係ギクシャクする
んじゃないかな?とかつい余計なことを考えてしまったせいだと思います。
それでそういう世界観のまま終わっていればとくに何も思わなかったような
気もしますが、オチがとてもリアルに迫ってくるものだったため、結果少し
アンバランスにも感じてしまったのかもしれません。
創作ですし、リアリティが全てだなんて思ってはいないのですが、この作品
に関しては自分はそう読みたかったというだけの話ですなんですけども。
でもこのオチはほんとおもしろかったです。

15/03/01 W・アーム・スープレックス

クナリさん、コメントありがとうございます。

嫉妬なんて本来、だれもがもっているものですよね。ないなんて言う人がいたらお目にかかりたいぐらいです。しかしもしそんな人がいたら、どうなるか考えたら、こうなりました。嫉妬測定器ももしかしたらちかいうちに、量販店等で販売される日がくるかもしれませんよ。

15/03/01 W・アーム・スープレックス

水鴨十一さん、コメントありがとうございます。

ご丁寧に読んでいただき、感謝します。
そうですよね。これだけ嫉妬の個人攻撃して、翌日から何もなかったような顔で接しられたとしたら、むしろ拍手を送りたいぐらいです。
現実社会の中では、それぞれが心の中にいろいろな感情を秘めながら、生活しているわけですが、角度をかえてみたら、とてもおもしろおかしい世界がかいまみえてきます。
本当に嫉妬の日なんかがあれば、どんなできごとが展開するのか、人間のユーモア精神に期待したいところです。

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