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11doorsさん

のんびりした田舎に引っ越してきました。温かな人たちとのゆったりした会話や日常は、ほんとうに宝物です。そんななか、小説という異質な空間の中で、読む人に、ちょっとでも喜んでもらえる作品が一つでもかけたなら、幸いに思います。

性別 男性
将来の夢 世界旅行
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神通力は考えない時間に

15/02/25 コンテスト(テーマ):第五十回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 11doors 閲覧数:1028

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その日、私は代理の占い師として、都内のある会社に行くことになった。仲間の占い師がインフルエンザにかかったからだ。

特に予定もなく、気軽に電話でOKを出したが、考えてみれば、堅苦しいスーツなんてものは持ち合わせていない。まさかTシャツにジーンズで、会社の役員室に行くわけにもいかないし…。運勢の鑑定より、そんなことで悩んでしまう。

久しぶりにネクタイを締め、適当なブレーザーとパンツをみつけ、ノートパソコンをカバンに入れて、目的の会社のビルに着く。だが、案の定、軽く見られているのが分かる。

皆な、もっと年老いて袴羽織を着たおじいさんみたいな人とか、新宿の母みたいな人が来ると思っていたらしい。それに水晶玉とか、筮竹なんか使うとでも思っていたようだ。

ところが、現れた占い師は、20代後半か30代前半くらいの若造で、席に着くなりノートパソコンのバッテリーが充電不足なので、コンセントを貸してと言い出す。大丈夫なのか?という雰囲気が、役員室に充満している。

でも、こんなのはいつもの事だから慣れてる。


「すみません。私は先生の弟子でして、先に行って用意してろって言われたんですよ。その内、先生もお見えになると思いますので、それまで私が前座で観させていただきますので、どうか、よろしくお願いします」


もちろん、先生が後から来るなんていうのは、真っ赤なウソ。「せっかくだからやってみろ!」と言われ、生年月日を教えてもらい、その場で即興の占いをはじめる。前もって生年月日などのデータを教えてもらってないから、そうするしかないのだ。

最初は、ゆったりしたイスにふんぞり返って聞いていた役員たちだが、鑑定が進むにつれ、次第に背中を背もたれから離れ、前傾姿勢になると、ついにはテーブルに両肘をついて、私に視線を集める。


「そ、それで…」


そんな言葉が、彼らの口から出るころには、後から来る先生の事など、彼らの頭の中からは消えている。

個々人の性格などは言うに及ばす、社内の派閥となる人脈の流れも分かる。たとえば、四柱推命の場合であれば、日干同士や月柱同士の相互関係、さらに五行のバランスで、相性の良し悪し、相剋相生などの関わり合いが、浮き彫りになる。

企業の設立年月日をみれば、その会社の過去、現在、未来もある程度予測できる。ついでに財務諸表を見せてもらえれば、鑑定とその数字の符号に、彼らはグウの音も出なくなる。まさか、占い師の鑑定に、登記簿や決算書類を、役員室のテーブルに並ぶなんてことは、誰も想像しなかったはずだ。

氣の流れを利用して、即効的に問題を解決するには、意外かもしれないが、九星気学が役に立つ。ただし、愛や感謝がないと一時的に終わりやすい。

とにかく、占いはあくまで幸せに近づくためのツールだ。だから、その特性を活かし、その目的に合わせて、うまく利用すればいいと思う。

ところで、先ほどの役員室のおエラいさんたちだが、いまや本気モード全快で、占いの世界にハマり出している。こうなったら、全社員どころか、ライバル会社の人たちのデータまで観させようとする勢いだ。自分の家族の生年月日まで、観てほしいと思ってスリ寄ってくる。

でも、私は、あくまで代理だし、実は、今病気の大先生の足元にも及ばない、だから後日、大先生に観てもらってほしいと袖にする。

私は笑顔で、名刺一枚も置かずに役員室のドアから退出する。後には、お菓子をもらい損ねた子供のような顔をした役員たちが、首を並べて席に座っているにちがいなかった。

後日、インフルエンザの治った仲間の占い師は、銀座の高級料亭に呼ばれ、破格の鑑定料をもらい、超VIP級の接待を受けたらしい。ただ、詳細は話してくれなかったけれど、肝心の占いに関しては、彼らの期待を大きく裏切ったようだ。


「登記簿や決算書類も出されたが、占いと何の関係があるんだ?」


彼にそんな質問をされたとき、私は思わず口に含んでいたコーヒーをふき出してしまった。そういえば、私は他の占い師に鑑定するところを見られることは多かったが、他の占い師が鑑定している場面を、あまり見たことがない。見ないというより、見させてくれなかったのかも知れないが…。

ところで、浜松医科大学の高田明和名誉教授の著書によれば、『考えない』『思い出さない』のが禅の修業であり、その目的らしい。お釈迦さまは、もしそうなれれば、人間は無限の力を発揮できるといわれ、心の中の煩悩や妄想、我欲が、少しでも薄まれば、それだけ心の光が輝き、運勢は強くなるという話だ。

私は運勢の命式表をみるとき、決まって『考えない』という時間を体験する。あの一瞬、次に語るべきことに気づかされる。ひょっとしたら、人は考えない時間にこそ、霊妙な世界に通じれるのかも知れない。


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このストーリーに関するコメント

15/02/25 海見みみみ

拝読しました。
占い師の見事な手腕。
その鮮やかさに読んでいて惚れ惚れしました。
意外なものが占いの役に立つんですね。
主人公の彼の活躍をもっと読んでみたいと思いました。

15/02/26 11doors

海見みみみさま、

>主人公の彼の活躍をもっと読んでみたいと思いました。

喜んでいただけて何よりです。
海見みみみさまのコメントをいただき、
『占い師シリーズ』も考えてみようかなと
思うようになりました。
ちょっとマニアックな感じもしますが…(笑)

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