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須磨 円さん

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なじみ

15/02/23 コンテスト(テーマ):第五十回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 須磨 円 閲覧数:1213

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「うわ、呼び出しなんだけど」
 六つの目が、屋上の柵にもたれていた彼女のほうへ向けられる。ひとりは、紙パックのジュースをちゅーちゅーともてあそびながら首を傾げ、ひとりは、またかよと言いたげな表情で彼女を見つめた。その隣には、おかしそうに口を歪ませている人間がいる。
 三者三様の彼らをちらりと一瞥し、シオリは手の中に収まるスマートフォンの画面に目を落とした。そこには、“彼”からの言葉がつらつらと映し出されている。“彼”だけの為だけに個別に設定していた着信音の音楽は、昼食中の和やかなこの空気を見事に分断してくれたような気がした。
「『なんであいつらとばかりいるんだ』だってさ」
「何度目だよそれ」
 呆れたような表情の戸越は、がっくりとうな垂れた。シオリからしてみればその反応も何度目よと突っ込みたくなるもので、そんな中、戸越に一切目もくれず、で?と続きを促す進藤は流石のお兄さん属性である。
「『話がある。放課後、一階の空き教室に来てくれ』だってさ。突っ込みどころが多すぎるよね」
「そこかよ!お前なぁ、またふられるかもしれないんだぞ」
「だってさぁ、私紛いなりにも彼女なんだよ?その彼女をこそこそと呼び出すような真似、何か気に入らない」
「まぁまぁ戸越。これもいつもの事だろ?」
「けどなぁ進藤……!」
「で、シオリちゃんは行くのかい?」
「行かないよ。お返しでは無いけれど、メールでじゅーぶん」
 戸越と、進藤。未だにジュースをすすっている佐藤。そしてシオリ。この三人はシオリにとって大切な三人だった。腐れ縁とでもいうのだろうか。保育園、小中高校と一緒だった四人は、この狭い田舎でいつしかいつも同じ時間を共有するようになった。皆クラスも異なるというのに、こうして毎日お昼休みに屋上に集合しお弁当を広げるのは勿論、放課後の買い食いも、悩み事も、相談も、当たり前のように四人で集まって時を過ごしていた。シオリにとって、彼らはかけがえのない仲間であり家族のようなものである。
 だけれどシオリも普通の女の子で、好いた人はできる。戸越と進藤と佐藤も、やっぱり今時の男子高校生なのだから普通に彼女をつくろうとその意欲はある。しかし上手くいかない。厳密に言えば、恋愛事が上手くいかないのはシオリと、戸越の二人だった。
 シオリは今まさに失敗の状況下に置かれている。自分の彼氏が、三人との時間を理解してくれない。どうしても嫉妬心を抱いてしまうようだった。戸越は、好きな子がいても上手くアプローチできない。全てが空回る。一直線で素直なのに、不器用だ。
 一方、とても器用なのは進藤だった。今まさに彼女持ちで、隠し誤魔化しながらも上手く事を運んでいる。穏やかで大人っぽい進藤だが、なかなかの策士である。
 佐藤は、そもそも女の子の影すら無い。
「酷い顔だよーシオリちゃん。顔に出ちゃってるよー」
「愛のある指摘をありがとう」
「どういたしまして」
「あーあ、理解のあるパートナーには一生出会えないのかもしれないなぁ。死ぬまで独身かぁ」
「お前には独身がお似合いだぜ!」
「毒のある慰めをありがとう」
「な、そんなんじゃねえ!」
 進藤の余裕は一体どこから来るのか。そして、戸越の慌てっぷりは流石である。
 それよりも、シオリは先ほどから一言も喋らない佐藤が気になっていた。ちらりと佐藤に目を向けると、佐藤は地面に視線を落としながら無表情でストローをくわえている。飲み物を吸い込んでいる様子はない。
「なぁ」
 いつのまにか会話を中断して佐藤を注目していた三人は、ストローから唇を離して、けれど依然として地面に向けたまま口を開いた佐藤にびくりと肩を揺らした。戸越と進藤にお前だろ、という視線を向けられ、シオリはおずおずと返事をする。
「考えたんだけどな、」
「……うん?」
「シオリには彼氏は必要ないだろ」
「いや、佐藤。私もゆくゆくは人並みに結婚して家庭を持ちたいかなー、と」
「だったら俺が幸せにするわ」
 カラン、とシオリが持っていた箸が地面に落ちる音がした。それを機に、四人の間の空気がぴしりと固まった。何て言った。こいつ何て言った。だって、えー……。佐藤除く三人の心境は共通している。
 佐藤、シオリちゃんプチパニック起こしちゃってるからと進藤の声が耳に届いたけれど、それはとても遠いところから聞こえているような気がした。それほど、シオリにとって佐藤のその発言は衝撃的なものである。しかしそこから一言も言葉を発することがなかったシオリは、ついにその日、佐藤の言葉の真意を訪ねることは叶わなかった。

 翌日、欠伸をしながら教室に入るシオリに駆け寄ってきたクラスメートの女の子たちから聞いたのは、自分が佐藤とどうやら付き合っているらしいという噂が広がっているということだった。まさか昨日の今日で、いや付き合ってはいけど友達なんだけど、ここまで広がるとは。シオリは女子の情報網に恐れおののき、午前の授業をやり過ごした。そして運命の昼休みである。今日こそ佐藤を問い詰めようというシオリの決意に待ったをかけたのは、昨日別れた“彼”からの泣き落としだった。それもどうにかやり過ごし、屋上に向かおうとしていたシオリを今度は他クラスの女子が足止めをする。内容は勿論、「佐藤と付き合ってるの?」だ。

「ぷっ、それはお疲れ様……!」
「うん、気ぃ、落とすなよ……くく……!」
「おい進藤戸越。笑い抑えきれてねぇぞ」
「シオリちゃん。そんな言葉づかいはダメだよ……!」
「進藤、指摘してくれるのならせめて表面だけは取り繕ってほしかった」
「シオリは大変だなぁ。お疲れさん」
「元はといえば、お前のせいだろうがこの佐藤!」
 やっとの思いでくたくたになりながら屋上へ現れたシオリを見るやいなや、大笑いした悪友たちにシオリはげんこつをお見舞いした。
 しかしあれこれ言葉の応酬を繰り返しているうちに、昨日今日と続いた出来事をシオリがすっかり忘れ去ってしまうのは、十五分後の事である。





『なじみ』
平成二十七年二月二十三日 執筆 須磨円


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