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堀田実さん

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DV〜家庭内武将

15/02/22 コンテスト(テーマ):第七十六回 時空モノガタリ文学賞 【 戦国武将 】 コメント:0件 堀田実 閲覧数:1243

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「太郎は立派な戦国武将じゃな」
こどもの日、鎧兜に身を包んだ孫を前にして作太郎は呟く。太郎はにっこりと微笑みながらハイハイをして作太郎の膝にすがりつく。晴れた午後のことだった。前日の雨が嘘のように晴れ渡り、屋外には子供らが駆け回り鯉のぼりが空をたなびいていた。それぞれが思い思いの家族団らんの時を過ごし、あるいは独り身やホームレスはいつもどおりの生活を送っていた。
 そんな中、斉藤家の作太郎は記念撮影をするために太郎に向かい一眼レフカメラを構えていた。作太郎は笑って笑ってと声をかけるも太郎は思うように顔を向けてはくれなかった。人間とは気まぐれな生き物である。しかしそれが人間の良さである。作太郎はしみじみとそう思った。
 そういう意味も何もない時間が約10分ぐらい過ぎたところでふと長兄玉太郎が彼らの前に現われる。そして二人の間に横たわる様相をじっくりと望む。鎧兜に身を包んだ弟とカメラマンのごとくレンズを向け続ける祖父を見て内心怒りがこみ上げてくるのを抑えることができなかった。
「おじいちゃん。戦争の何が楽しいの?」
「へ?」
作太郎は唐突のあまり気の抜けたような声を出す。振り向くとそこには長兄玉太郎が憮然とした表情で立ち尽くしている。
「なんじゃ玉太郎どうしたんじゃ」作太郎は優しい表情で笑いかける。「そんなに大きく声を荒げて」
経年の作り出す優しさは玉太郎のすべてを包み込もうとしていた。作太郎にはもはや人間の許せないことは何もない。衆生本来仏なり。彼は孫に関してだけはもはや悟りの境地へと達しようとしていた。それほど孫への愛は深いものだった。
 しかし玉太郎は依然として怒りの表情をたたえている。
「今も戦争は起こっているんだよ」声を荒げて彼は主張する。「おじいちゃんは太郎を傭兵に仕立て上げるつもりなの!?」
作太郎は一瞬の間真顔になる。気が抜けたのだ。そこには優しさもなければ慈愛もなく、まるで一体の肉人形が姿を現したようだった。
「眼を覚ましてよ、おじいちゃん。風習に囚われてはいけないんだ」両手を大きく広げ万人に語るように彼は続ける「イスラム国が台頭している今、僕らは武器を取るんじゃなく平和を語らなきゃいけない」
そう言うと長兄玉太郎は太郎の兜を取り上げて窓ガラスを開け庭に向かって放り投げた。カランコロンと音を鳴らしながら兜はバケツの水溜りをはじき、あたりを水浸しにする。一瞬だけ虹がかかる。
「人殺しが賛美される時代じゃないんだ。おじいちゃん。これからの時代は平和だよ」
そう言うと太郎は新聞紙で作ったお手製兜を代わりに被せる。その兜の前方の眉庇には「Malala」の文字が大きく掲げられ、角のように伸びる鍬形にはマララの写真の切り抜きが貼り付けられていた。
「なぜ戦車を作ることは簡単で…」玉太郎は続ける。「なぜ戦車を作ることは簡単で、学校を建てるのは難しいのか」
彼は新聞紙を丸めて作ったちゃんばら刀で弟の頭を思いっきり殴る。バシンという大きな音とともにマララ兜は跳んでゆき、日の当たるフローリングの上におちた。太郎は大声を上げて泣き出す。
「何をするんじゃ!」
作太郎は雷のように怒鳴りつける。それでも彼は動じない。
「アイ ラヴ マララ!」「アイ ラヴ マララ!」
長兄玉太郎は狂ったように繰り返す。両手を叩きシンバルを鳴らし続ける楽団員のように、時にはリズミカルに、時には奇をてらって繰り返す。
 すると挑発されたように作太郎の顔は神仏から徐々に徐々に憤怒尊へと変わっていき、終いには鬼そのものになった。
 玉太郎は突然の形相に怖気づいた。『あれだけ三ヶ月前豆まきをやったのに、鬼はただの迷信だと思ったのに、鬼は家庭の中にいたんだ。灯台下暗しだったんだ!』
 玉太郎は非常な恐怖に足がすくんで動けなくなった。じりじりと近寄る祖父を前に孫は何もすることができずただ無力の淵に浸る。終いには最後の審判が下る。
「平和はな……」作太郎は孫の足元にかがみこみ彼の腹部を掴み上げるとありったけの背筋で弓のように胸を反らす。そして彼は愛をもって語る。「平和は暴力で作りあげるものじゃないんじゃーー!」
そう言うと作太郎は長兄玉太郎にバックドロップを浴びせた。長い長い浮遊時間だった。長兄玉太郎にとってはそれはまるで人が生まれてから死ぬまでの一生を、そのわずか1.3秒のうちにすべて体験しているかのようだった。人間の一生は儚く短い。人生まるで夢のごとし。玉太郎はその時光になった。そして宇宙の崩壊を垣間見た。
 
 長い長い戦いの後のようだった。買い物から帰ってきた斉藤梢は重い重い夕食の食材を引っさげリビングのドアを開けると目の前に広がる光景に仰天した。そこには涙に暮れる三人の姿があったからだ。一人は頚椎を押さえ、一人は後頭部を抱え、一人はただ泣いていた。


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