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くにさきたすくさん

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名・武将

15/02/21 コンテスト(テーマ):第七十六回 時空モノガタリ文学賞 【 戦国武将 】 コメント:6件 くにさきたすく 閲覧数:1351

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「どうした? 深刻な顔をして……」
 同僚の教師が、話しかけてきた。
 私はデスクに向かってじっと一点に集中していたが、肩に手を置かれてはっと我に返った。振り返ると同僚が入れたてのお茶を片手に微笑んでいる。
「なんか悩み事があるなら相談しろよ。俺たちは『魚と水』だろ?」
「いや、大したことじゃない。もしかしてこの『龍』もそうなんだろうか、と……」
 クラス名簿を見ながら、ふと思い至ったこの疑問。
 およそ6年前に起こった、とある戦国武将の一大ブームが原因だ。
 そのブームの余波が、私の様な小学校の教師達にもようやく打ち寄せてきた。いや、打ち寄せてきてしまった。
 流行りというものは予測が不能だ。何が流行るかなんて誰にも分からない。流行り病のように予防接種をすることも出来ず、日本国中がその波に飲み込まれてしまった。私もその中の一人。そもそも流行りには疎いので、溺れてしまう事だけはかろうじてまぬがれたが。
 その戦国武将の名は『上杉謙信』
 戦国武将の小さなブームはそれまでも何度かあった。ただその時の日本人は、みな謙信だけに夢中だった。大元は戦国時代を舞台にしたアニメだった。スラリとシャープな出で立ちで描かれたり、白頭巾をかぶった姿が多かった謙信のイメージを覆す、極めて奇妙で特異な描かれ方をした。そのアニメ中での謙信の姿は『猫』であった。白頭巾をかぶった猫である。猫が本来持っている愛嬌と謙信のキャラクターのギャップが、人々を大いに惹き付けてしまった。
 アニメから派生しフィギュアやグッズなどはまだ分かるが、ペット業界へも謙信は侵食していった。猫にかぶせる頭巾『猫頭巾』が飛ぶように売れ、『犬頭巾』『鳥頭巾』まで発売された。その波は昆虫マニアにもおよび、発売されたカブトムシ用の『カブト頭巾』に至っては、兜なのか頭巾なのかよく分からない。
 このような遊びの部分の流行りだけでなく、『上杉謙信』そのものへの関心はもちろん大いに高まった。にわか歴史マニアが掃いて捨てるほど誕生し、皆こぞって謙信のうんちくを語った。
 そして子供たちも誕生した。いわば『謙信ブームチルドレン』だ。
 当時の親たちは謙信ブームに乗っかって、自分の子供の名前を『謙信』と名付けた。
 今、手元にあるこのクラス名簿の中にも七人の『謙信』がいる。読み方は「あきのぶ」「のりあき」など、せめて読み方は他とかぶらないようにとした親の苦心の跡が見える。
 他に『虎千代』が二人、『政虎』が一人、『輝虎』が二人、『景虎』が三人いる。どれも上杉謙信のことだ。このクラスの男子生徒は全部で十六人。一人を除いて全員が謙信だ。
 そして残りの一人が『龍』
「謙信と言えば『虎』だ。『龍』は関係が無いだろうと思っていたが、『越後の龍』と呼ばれることもあるらしいと最近知ったんだよ。とすると、このクラスの男子は全員『謙信』だ。どうなってんだこりゃ」
「はあ。なるほどねえ」
 同僚はあまり関心がなさそうだ。
「『魚の目に水見えず』だな。うちの子も謙信だし、あんまり気にしたことが無かったな」
「そうか。そんなもんか」
「『人は武士、柱は檜、魚は鯛』だよ」
「よくわからんが、さっきから、なんか『魚』が多くないか?」
「おっ? 知らないのか? 最近来てるんだよ『魚』ブーム。今の内から勉強しておかないと大変だぞ」
 同僚はにやりと口角を上げると、湯呑みをデスクに置いた。
 湯呑みの周りには、魚へんの漢字がずらり――


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このストーリーに関するコメント

15/02/21 戸松有葉

武将うんちくを子供命名や流行と絡めて使ってくるとは。面白かったです! オチの魚ブームもこの短さで前フリがしっかりあって関心しました。

15/02/21 くにさきたすく

> 戸松有葉 様

ありがとうございます。m(_ _)m
昔から日本史というものに苦手意識がありまして、小説も歴史モノというのは書いたことがありませんでした。
なので、ちょっとひねってテーマを消化してみました。
何とかなるもんですね。

15/02/21 海見みみみ

拝読しました。
こういうブームによる名付けって実際にありますよね。
そのあたりが妙にリアルで面白かったです。
それにしても最後のオチ、今度は魚ブームとは。
鯵くんや鰯くんが生まれる日はそう遠くないですね。

15/02/21 くにさきたすく

> 海見みみみ 様

ありがとうございます。m(_ _)m
ブームっていうのは恐ろしいモノです。
でも、リアルに言っちゃうと、名前に使える魚へんの漢字って限られてきちゃうんですが、まあそこらへんは……ということで。(^^;)

15/02/23 くにさきたすく

> 志水孝敏 様
どうもどうも。虎はお疲れ様でした。
お互い最後に名前を残せてよかったですね。
これからも続けていきましょう。

自分にとっては苦手な分野なので、真正面から攻めても城は落ちないだろうと、こんな感じになりました。
実際、親もそれぞれ必死に我が子の名前を考えているはずなのに、年代ごとに名前に何かしらの傾向が出てくるというのは不思議なものです。

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