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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ビフォーVSアフター

15/02/16 コンテスト(テーマ):第五十一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1231

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 ひとめ見て、殺意にちかい憎悪がわきあがった。
 いつもはベンツをのりまわしている大槻小夜子が、ちょっとした気まぐれできょう、本当に何年ぶりかで電車にのった。
 座席にすわって向いの、面白くもなさそうにすわっている乗客たちの顔を、漫画でもみるような気持ちでながめていたとき、ふいにその問題の女の顔にでくわした。
 ふやけたような肉付きの顔は、まるで風邪をひいたフレンチ・ブルドッグのようで、目はたれさがり、上をむいた鼻、分厚くむくんだような唇といい、どれひとつとっても小夜子に不快と、嫌悪をもよおさせないものはなかった。
 そのときちょうど駅についたので、小夜子はとにかくその顔を見たくない一心から、席からたちあがった。ホームに出、階段をあがって改札口にむかいながら彼女は、やっぱりのりなれない電車なんかにのるんじゃなかったと、衝動的に行動したじぶんの軽率さを腹からなじった。
 彼女はそして、救いを求めるかのように駅前のタクシー乗り場にまっしぐらにむかった。
 乗り場には五人ぐらいの先客がまっていたが、つぎつぎにはいってくるタクシーに、みるまに先客たちは走り去っていった。
 まもなく、小夜子のまえにもタクシーが横付けになった。ドアがあき座席にはいりこもうとする彼女のすぐうしろから、
「わたしも、いっしょに」
 おどろく小夜子の目に、さっき車内でみたあの、風邪ひきのブルドックがせまった。
「なによ、あなた」
 こちらの抗議をはなから無視して女は、いいの、いいのとむりやり小夜子を押しながら車内に乗り込んできた。
 ここで自宅の住所をいったりしたら、相手におぼえられるおそれありとみた小夜子が、どこか適当な場所を口にすると、女が横から、なんと小夜子の住所をすらすらと運転手に告げた。
「どうして、知っているの」
 これには小夜子も、強い口調で女にたずねた。
「いまにわかるわよ」
 しかし小夜子のほうはおさまらなかった。
「運転手さん、ちかくの警察までいってください」
 すると女は笑いだした。
「いいんですよ。わたしたち双子で、これはきょうだい喧嘩ですから」
 いったいなにをいっているのだ。小夜子はあきれかえって、ものもいえなかった。
 なにが双子だ。こともあろうに、こんな女と………。が、前の座席からけげんそうにふりかえる運転手の視線に、つとめて冷静さをとりもどした小夜子は、ここでとりみだしていてもはじまらないと考えなおして、とりあえずいま女がいったところまでいくよう、うながした。
 こんなわけもわからない女とかかわりあったところで、ろくなことにはならない。ここは態よくあしらって、すきをみてはなれるにこしたことはないだろう。
 そんな小夜子の気持ちの変化をみすかしたかのように女は、走り出したタクシーのなかで、話しかけてきた。
「あなたがなにを考えているか、わたしにはよくわかるわ。だけど、わたしから逃げようったって、それはむりな話よ」
「あなたいったい、何者よ?」
「あなたにも、わかっているはずよ」
「え?」
 小夜子は、あらためて隣の女をながめたが、見れば見るほど、虫唾が走るばかりで、そのうち直視に堪えれなくなってきた。が、長い沈黙に堪えられなくなって彼女は、ふたたび女にむかって口をひらいた。
「本当にあなたなんか、知らないわよ」
「知らないんじゃなくて、思い出したくないだけでしょう」
「なんのことをいってるの」
 すると前から運転手が、
「着きましたよ」
 みるともうそこは、小夜子の自宅前だった。
 小夜子は車からおりると、あとから出てきた女を無視して、わが家の門扉にむかった。
「大きな家ね。評判の歯医者さんと結婚して、まさに玉の輿を絵にかいたような人生ね」
「よけいなお世話でしょ。家のなかまではいってきたら、こんどこそ警察に電話するわよ」
「わかったわ。わたしの正体をはなすわ。―――わたしは、あなたよ」
「なにをわけのわからないことを………」
 小夜子はしかし、それ以上言葉をつなぐことができなかった。
 電車のなかで、一目女をみた瞬間に、直観めいたものが胸をよぎった。
 それがなにかはわからなかったものの、その瞬間わきおこった憎悪や拒絶感は、はじめてみた他人にたいして生じる感情にしては度を越していた。そこにはなにか骨肉の間柄からわきあがる、どろどろしたものが感じられた。さっき女は、双子と口走った。もしかしたら、自分のしらない双子が、この地上に存在したのかもしれない。まったく、似ても似つかない、双子が………。
 数分後小夜子は、女と客間でむかいあっていた。
 女の語る言葉の一言一言が、なぜか気にかかった。このまま心にわだかまったまま、女を帰す気にはなれなかった。
「あなたがいった、双子の意味をおしえてくれない」
 釣り餌にちかづいてきた魚をうかがうような目で、女は小夜子を見返した。
「わたしを、よくごらんなさい」
 女はそういって、椅子からたちあがると、ゆっくりとした足取りでちかづいてきた。小夜子は、しだいに迫ってくる女の姿に、目をこらした。その顔からみるみる血の気が失せはじめた。
「まさか………」
「おわかりのようね。そうよ、わたしは、あなたが破棄したあなたじしんなのよ」
「わたしが、破棄した………」
「七年前、あなたは、貯蓄のすべてを使って、まず顔を整形し、何か月もかけて全身美容を施した。あなたはわたしをとことん忌み嫌い、殺意に似た憎悪を抱いて、わたしのすべてを否定してしまった。もはやだれともわからないぐらい変貌をとげたあなたは、歯の矯正のために通った歯科でいまの旦那さんとしりあい、なにもしらないうわべだけのあなたにみせられた彼と、結婚にまでこぎつけた。あとは、とんとん拍子で、この御殿のような豪邸でしあわせな家庭を気づき上げたというサクセスストーリーね」
「わたしの努力が実を結んだ結果よ。だれからも非難されるすじあいじゃないわ」
「ただひとり、このわたしをのぞいてね。
「いまはもう存在しない、以前の、わたしよ。みてよ、いまのこの、だれからも羨望の目でみられる美貌を」
「そんなあなたをみると、虫唾がはしるわ」
 それは小夜子がはじめて女を見たとき抱いた印象にほかならなかった。みると、女の顔には、すさまじいまでの憤りがあらわれ、そのためますます醜さがましていた。
「あなたはわたしを、跡形もなくむりやりかえてしまった。親からもらった、この世に唯一の顔も、からだも、なにもかもをねじまげて」
「美しくなって、なにがわるいの? 女ならだれだって、いえ、人間ならだれだって、きれいになりたい願望があるはずよ。わたしはこの姿になって満足こそすれ、ちっとも後悔なんかしていないわ。どうしてあなたなんかに、非難されなきゃならないの」
 それは小夜子の本心だった。奥様モニター隊という視聴者参加のテレビのレギュラー番組に、週一で出場し、その美貌と当意即妙のコメントでいまではファンまでついて、芸能界への誘いが最近、ちらほらでている彼女だった。
 小夜子のなかにふたたび、以前の醜いじぶんにたいする嫌悪感がこみあげてきた。
「あなたも結局、わたしを嫉妬しているんだわ。いまのわたしは、あなたのすべてを否定したうえになりたっている。あなたの目からみれば当然、そんな感情がうまれるのもむりはないとおもうけど。くやしかったらあなたも、整形でもなんでもして、わたしのように美しくなったらどうなの」
 そんな小夜子をみて、女はにやりと笑った。
「あなたは、そのようにして、いつまでもわたしに対して、敵意を抱きつづけなければならない。顔かたちはかわってしまっても、心のなかではつねに、以前のじぶんの復讐におびえつづけるんだわ」
 それだけいうと、満足したのか女は、椅子からたちあがった。そしてだまって、ドアまであるいていくのをみた小夜子は、このままかえしていいのかと自問した。七年前に、抹殺したはずの自分を、もう一度この手で………。ちらとそんな殺意が頭をかすめるのを、彼女が意識したとき、ふいに女は足をとめた。
「また、あうときがあるとおもうわ」
「おことわりよ。もう二度と、わたしのまえにあらわれないでちょうだい」
 すると相手は、妙なことをいいだした。
「あなた、妊娠してるのでしょ」
 胸騒ぎが、小夜子の胸をかけぬた。
「関係ないでしょ」
「子供がうまれたとき、わたしたちはまた、顔をあわすことになるのよ。それまで、元気でね」
 女はそれだけいうと、勝ち誇ったようににやりと笑ってから、部屋をでていった。そのあとを、追おうとした小夜子だったが、足はそれ以上、一歩もまえに出なかった。




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