石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

投稿済みの作品

12

歓喜

15/02/09 コンテスト(テーマ):第七十五回 時空モノガタリ文学賞 【クラシック音楽 】 コメント:5件 石蕗亮 閲覧数:1694

この作品を評価する

 今日は彼女との初めてのデート。
クラシックのコンサートに来たが緊張で曲も何も聴こえたものではなかった。
会場の中は薄暗い為か他の客の姿は見えず、まるで二人っきりの世界に居るように思えた。
それが尚更緊張に拍車を掛けた。
ステージ上ではライトを浴びて指揮者がタクトを振っている。
その姿が目に映ってはいるが、耳に響いているのは自分の鼓動だけであった。
きっと彼女も正面の楽団を眺めながら楽曲に耳を傾けていることだろう。
 そっと手を重ねてみようか。
思った直後、ドックン、と一際大きく鼓動が響いた。
いつの間にか握り締めていた手を軽く開くとものすごく汗ばんでいた。
思わず自分のズボンに手汗を拭いながら、こんな手じゃ握られないと諦めた。
気持ちを落ち着けようと、再び視線をステージへと向けた。


・・・!?

喪失感に似た違和感。
 曲が聴こえない!?
 自分が緊張の嵐の最中に晒されている間に、いつ間にか何か新しい音楽パフォーマンスでも始まったのだろうか?
 例えばエアクラシックとか!?
瞬時に脳内回路を思考が疾走したが、答えというゴールには到達しなかった。
曲が聴こえない。
指揮者をはじめ、奏者も皆真剣に演奏している。
指揮者の振り下ろすタクトに合わせて空気が震えているのが分かる。
なのに音が聴こえないのだ。
状況と理由が分からないまま只々呆けていると、演奏の動作が止まった。

パチパチパチ

続いて拍手が鳴った。
 あれ!?聴こえる。拍手の音は聴こえるぞ!?
周囲をキョロキョロと見渡していると場内に照明が灯った。
どうやら小休止らしい。
 「ごめん、ちょっと手洗いに。」
彼女にそう言うと会場から出た。

ロビーに出るとすぐ側のソファに座り込んだ。
両手で両耳を覆うように頭を抱えた。
彼女との初めてのデートという大事な時に一体自分の身に何が起こったというのか。
 「声や普通の音は聴こえるのに。」
そう呟くと
「音楽だけが聞こえないんですか?」と隣から声を掛けられた。
ハッと顔を上げそちらを見やると、初老の男が煙草を咥えてこちらを向いていた。
お互いの目が合うと「どうやらそのようですね。」と初老の男は言った。
 「何でそのことを?」
恐る恐る訊ねると
「ここは夢の世界ですからねぇ。」と初老の男はさも当たり前の様に答えたが、さっぱり意味が分からなかった。
 「あんた何言ってるんだ?」
「はははは、まぁ、夢の中でそこが夢だと気付ける人間なんて居ませんわな。」
 「いやいや爺さん、仮にここが夢の中だとしてだ。百歩譲ってそうだとしてなんで俺の夢の中にあんたが居るんだよ。他人だろ!?」
「一般的にはそう思うでしょうな。夢にはいくつかの種類があり、その内のひとつには法則がある個人のものではない夢もあるんですよ。ここがそう。」
 「う〜ん、だとしてだ。俺は何でこんな夢を見てるんだ?」
「クラシックの夢ってのは性関係を表しているんですよ。」
そう言われると急に何やら恥ずかしくなり、初老の男から目をそらした。
「何、別に性癖がバレるわけではないから大丈夫ですよ。
心配するなと言わんばかりの表情で言われ少し安心を取り戻すと、初老の男は続けて話し始めた。
「大方異性と付き合い始めてそろそろ一線を越えようと思っているが、取っ掛かりがないとか、何らかのコンプレックスがあって先に進めないというような葛藤を抱いて悶々とした日々を送っているではないのかね。」
 う・・・。
図星であった。
そう、俺はまだ経験が無かった。
人生初の彼女であった。
二人っきりにはちょくちょくなるのだが焦るだけで何もできずに早数ヶ月が過ぎていた。
「曲が聴こえないのは気持ちが逸り焦り、相手を落ち着いて見ていないからですよ。
彼女の笑顔や一緒に居て楽しいことをイメージしながら演奏に耳を傾けてごらんなさい。」
初老の男がそう言うと次の演奏のアナウンスが流れた。

席に戻ると深く深呼吸をひとつして目を瞑った。
思い切って告白したこと。
二人で居ると恥ずかしいような嬉しい様なくすぐったい気持ちになること。
それが特別な感情でであり、お互いが分かち合える幸せだと思い出しながら
耳を澄ました。

〜♪

ピアノの旋律に始まり管楽器の音が重なった。
次第に他の音も重なっていき重厚な協奏曲へと連なった。

演奏が終わると彼女と手を繋いで会場を出た。
ロビーには先ほどの初老の男が立っていた。
「良いコンサートでしたか?」
問いに満足な顔で頷き「最後の歓喜は最高でした。」と答えた。
初老の男は「またどこかで会えたら。」と夢師と書かれた名刺を渡した。

「てっきりマスあたりでも聴くのかと思いましたが、歓喜とは。
激しいのがお好きなようですなぁ。まわ、若さですかね。」
恋人達の背中を見ながら夢師は呟いた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/02/10 石蕗亮

あ〜、本当はもう少しストレートなギリギリな性描写モノも作っていたんですが、読者やサイト登録者に10代の方もおりましたので控えました。
で、代作がこちらです。
本来掲載しようと思っていた2部作はいつかどこかで出したいと思います。
いつものことですが2,000文字をオーバーしてしまい削除削除に追われました。
読んでいただければ幸いです。

15/02/11 メラ

石蕗亮さん、拝読しました。
面白かったです。少年の頃の恋心と下心を思い出しました(笑)。
制描写入りの作品も読んでみたいですね。ギリギリなくらいが面白い。
クラシックと「性」の夢は本当に関係があるのですかね、一度も見たことありませんが。

15/02/19 石蕗亮

メラさん
コメントありがとうございます。
夢で音は様々な意味を持つそうですが、音楽になると性関係になるそうです。
予知系の夢は見ようと思っても見れないものが多いです。
青い頃のトキメキを思い出しながら書いてみましたが共感いただけたなら嬉しいです。

15/02/19 石蕗亮

志水さん
コメントありがとうございます。
エアクラシックに反応、とても嬉しいです(≧∇≦)
夢師シリーズは私の日常を夢師に代弁してもらってる作品です。
楽しんで頂けると嬉しいです。

ログイン