1. トップページ
  2. ある冬の夜

密家 圭さん

読んで下さる皆様ありがとうございます。 耽美派の綺麗な文体で幻想的なファンタジーを書けるようになりたいです。 ツイッターをやっているのですが友達が増えず放置気味なので、皆様どうぞ適当な気持ちで遊びに来てください。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

ある冬の夜

12/03/06 コンテスト(テーマ):第一回 時空モノガタリ文学賞【 新宿 】 コメント:0件 密家 圭 閲覧数:3189

この作品を評価する

こちらに来るとき、親戚の誰かが「東京の冬は寒い」と言っていた。たしか、田舎の冬は雪のようにふわりとしたところがあるが、都会の冬はアスファルトのような無機質な寒さだ。そんな内容だった。使い捨てカイロを両手でこすりながら、確かにそうかもしれないと思った。そんな夜だからこそ、人々は誰かを求めるのかもしれない。この鋭い寒さを耐えられない人たちが、様々な形で惹かれあう。ここはきっとそういうところだ。

誰もがコートやジャケットといった上着を着ている。それなのに、隣の建物の前に立つ金髪の男は、スーツだけを纏っていた。どう見ても客引きのホストだ。
「寒そうねえ、大丈夫? 」
胸元までボタンを外している彼に、白コートに身を包んだ女性が話しかけた。顔はよく見えないが、女性の方は少しずんぐりとした体型から見て四十代だろう。ニ、三話した後、ホストは女性に恭しく手を差し出した。
「馬鹿みたい」
男とその女性が歩き出したのを横目で見て、思わず口に出す。おばさん相手にでも媚を売る彼と、自分の歳も顧みずについて行く女性。二人が恋人同士のように身を寄せ合っている様子がひどく可笑しく見えた。女性は薄着で突っ立っている彼を可哀想に思ったようだった。でも、本当に可哀想なのは、
「姉ちゃん、随分薄着じゃねえか 」
 突然、中年サラリーマンが顔を近づけて話しかけてきた。考え事を止め、ミニドレスの裾を引っ張ろうとする手をやんわりと退ける。そしてその手をとり、とびきりの笑顔を作って話しかけた。
「私の働いてるお店、すぐそこなの。寄って行かない? 」
男の答えは聞くまでもなかった。ニタニタ笑いながらついて来る。

  薄着だと話しかけてくる人が増える。新宿歌舞伎町でそういった仕事をしている者にとって、そんなことは常識だ。寒い日は客引きが簡単で良い。薄着だというだけで、びっくりするくらい簡単に釣れる。寒そうだとか薄着だとか、そういったことで話しかけてきた人は、全員カモだ。それが母性によるものだったとしても、色欲からだったとしても。
「馬鹿みたい」
 小さく呟いた声は、喧騒に呑まれて消えた。口元に残った嘲笑を見て、何を勘違いしたのか、男が「楽しそうだね」と声をかけてくる。何も楽しくなどない。それでも、歯茎が出るほどの笑みで思いきり頷いた。
  早く行こうと急かすと、すっかり気を良くした男が肩に手をまわしてきた。ヒールで煙草の吸殻か何かを踏み潰したのを感じながら、男のつまらない話を聞く。店についたら別の子に相手をさせよう。
  
 上京した時の自分が、今の自分を見たらなんて思うだろう。あのときは、根拠のない自信や希望で溢れていたのに。何故か無性に星が見たくなって、空を見上げた。ネオンの光が強すぎて星は見えず、夜空は変に濁った色をしていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン